文化を分析する: アジア初の開催となった The Culture Factor @Tokyo 2016

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The Culture Factor @Tokyo 2016 公式サイト

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「文化と経営」というニッチなテーマのみにフォーカスした国際会議を、日本で(アジア)で初めて開催し、国別の文化と組織文化について、深い意見交換のできる場を構築することができました。知見にあふれたスピーカーの皆様、そして250名を超える方々にご来場いただきましたこと、ただ、感無量です。心より感謝申し上げます。

文化は朝食に戦略を食べる(Culture eats strategy for breakfast)」という概念を初めて語ったのはドラッカーだと言われています。どんなに優れた戦略でも、画期的なGOALであっても、それが上からただ押し付けられたものだったり、組織の持つ文化と整合していなければ、戦略の実践は失敗に終わるということを、ドラッカーは言いたかったのだと思います。国境を超えたプロジェクトである場合は、ILOによればその70%が「文化の違い」によって失敗するというデータが出ています。

それだけ重要な「文化」ですが、「文化とは何か」を定義してくださいとお願いすると、「習慣」「価値観」など、様々な応えが返ってきます。私自身、いわゆる「企業文化」と呼ばれるものが非常に強い3社で働いてきましたが、企業によってその意味することは異なり、深く考えてこなかったのが現状です。

しかし、「文化」は個人やチーム、組織や社会のあらゆるところで「マネジメントのツール」として有効活用できるものです。そのためには、文化をしっかりと定義し、国の文化も、組織の文化も、実は数値化でき、視覚化できること、そしてそれをどのように使うか、そのプロセスをクリアにすることが重要です。「文化」の持つ可能性を、この会議を通じてお届けできたのなら、これにまさる幸せはありません。

itim Japan 代表・宮森 千嘉子

The Culture Factor @Tokyo ハイライト

The Culture Factor @Tokyo 2016 プログラム

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解題 異文化マネジメントを化学的研究へと進化させたホフステード  早稲田大学商学学術院教授 博士(商学)太田   氏

「改題」と位置付けられたこのセッションでは、「今なぜ文化が重要か」についてお話がありました。

アカデミアの中でホフステードモデルが際立っている点は、文化を可視化するための尺度を提示したということです。この会議が The Culture Factorというタイトルであるように、文化を漫然と語るのではなく、尺度を持って分析をすることが大切ということでした。

また、20世紀の”simple globalization”に対して、今文化が注目されている理由として「グローバル化=距離がもたらす影響が無くなるわけではない、「グローバル化=ローカルのアイデンティティや個別性が消えるわけではない、「グローバル化=情報や知識から固有の粘着性が消えるわけではない、「グローバル化=文化の埋め込みが消えるわけではない、という強烈なアンチテーゼを提示されました。

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基調講演 (1)  文化は果たして「壁」か「カーテン」か?  ワゲニンゲン大学准教授  ヘルト・ヤン・ホフステード氏

初来日だったヘルト・ヤンさんの講演は、前日に訪れたという富士山の写真から始まりました。「文化は富士山と同じで、近づきすぎるとよく見えないが、少し離れるとよく見える。」つまり、自国の文化を分析するには、距離を置いて見る必要があるということです。

壁とカーテン。文化と文化が交わるとき、皆さんはどちらの喩えを使うでしょうか。どちらも分断を象徴しますが、壁が明確な分断を強調するのに対し、カーテンは曖昧な分断を示唆します。異なる文化で友人を作りたいとき、あるいはビジネスを行う場合、壁は役に立ちませんが、カーテンは役に立つことがあります。例えば、「宗教の話はしない」というルールはカーテンの役割を果たしています。

では、「壁」を「カーテン」に変えるにはどうしたらよいか。1. 知る、2. 関わる、3. 聞いてみる、の3点を実践することが大切です。文化は水泳と似ています。泳ぎ方を本で読むだけではなくて、実際にやってみることが必要なのです。

カーテンなら音や画像をいくらか通しますし、脇へ引いたりたくし上げたりすることができます。カーテンの向こうで話されている秘密も、聞き出すことができるでしょう。異文化にまたがるビジネスを成功させるには、文化を壁ではなくカーテンと見ることが大切です。

ビデオ 基調講演 (1) ヘルトヤン・ホフステード

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パネル・ディスカッション:グローバルな企業運営における異文化マネジメント

古森剛さんのモデレーションで進行したディスカッションは、まずグローバル経営に携わっている3社のパネリスト(NTTコミュニケーションズ・橋本吉正氏、電通・酒井章氏、日産自動車・中村一親氏)から、コミュニケーション仕事の進め方(プロセス)業績評価におけるギャップという問題提起があり、太田先生、ホフステードさん、ボブ・ワイスフィスさんを交えたディスカッションへと進みました。

コミュニケーション・ギャップについては、チーム運営における目標の共有、社内におけるいわゆる共通言語を持つことの重要性が指摘されました。どこまで明示的に伝えるか、曖昧さを許容するかという点では、ローコンテクスト言葉のキャッチボールを楽しむ、「人の心を読まない」ことを心がけるべきではというアドバイスがありました。一方で発言の裏にはその理由があるわけで、他の文化に精通している人に文化的背景を教えてもらう必要性も指摘されました。大切なのは「知る」ことであり、自分とその固有性について知ることで、違うものとの距離感を冷静に計ることができ、相手へのリスペクト・自分へのリスペクトが生まれるのではないか、というコメントで締めくくられました。

仕事の進め方、プロセス・ギャップ関しては、可視化していくことの重要性、例えばビジョンやゴール、意思決定方法、役割分担を共有し、決まったことを文書化する必要性が挙げられました。

業績評価のギャップについては、「頑張り」など プロセス重視の日本に対し、KPIなど結果重視の海外企業と言われますが、成功している日本企業があることからも業績は国民文化というより企業文化による影響が大きい、その意味でも日本のやり方には自信を持つべきだという点、また多文化にまたがるチームを率いるには特別なスキルが必要で、適した人材を配置する必要性が指摘されました。一方、世界で成功しているCEOはビジョンがクリア結果重視であることがわかっており、結果を生むためのプロセスが重要であることも合わせて認識されました。

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分科会A 日本の持つ「文化力」の発掘と展望

10年前に「世界はフラット化する」と言ったのはトマス・フリードマンですが、本当に世界は一体化したのでしょうか? パート1のモデレーター、電通総研・宮林さんは、国境や文化の違いは変わらずに存在するが、今まで見えていなかった違いが可視化されたのが今という時代ではないか?と提起します。

世界の中で日本を相対的に見たとき、「極めて男性的な文化(仕事や成功の重視)」であることと、「不確実性を回避する」度合いが非常に高い点が際立っています。日本本社と同じスタイルのマネジメントが、海外拠点で上手くいかない理由もこの辺りにありそうです。組織文化や国民文化が色濃く反映される仕事の場と、個人同士の付き合いを分けて考える必要性、違う文化で衝突が起こっても個人として傷つくことはない点も指摘されました。学ぶ姿勢としては、ニュートラルに物事を見る訓練、異文化とその違いを経験した後にそれを認識するための教育や訓練、言語と同様、文化も継続的に学ぶ必要性が挙げられました。

「グローバル」や「日本の文化」を意識しすぎることなく、個々人や日本人としての良さを自分の中に持っていればいいのでは、という指摘もありました。ヘルトヤンさんを取材した「クーリエ・ジャポン」井上編集長は、「日本人の謙虚な姿勢を変える必要はない。技術力など日本の良さは、世界で認識されているのだから。」というメッセージを贈られたそうです。

パート2では、日米のマネジメントスタイルの違いを中心にディスカッションが進みました。文化は常に、強みも弱みも持ち合わせています。どちらか一面だけの文化などありません。例えばアメリカに比べて集団主義の傾向が強い日本では、意思決定が遅いなど負の側面が指摘されがちですが、裏返せば時間はかかるけど正確・緻密である、一度決めたら実行が早いなどの強みもあるわけです。ボブ・ワイスフィスさんの一貫したメッセージは、他の文化から学ぶことはあるが、日本の良さがなくなりつつあるのではないか?ということでした。

分科会B 多文化共生型社会に求められるグローバル人材とは?

次世代を担う日本のグローバル人材」セッションでは、早稲田大学・小⻄由樹子さんより、グローバル人材に不可欠なグローバルマインドセットの育成には、小中高の⻘少年期に海外滞在経験を持つことが有効である可能性が示されました。「グローバルタレントを活かす組織とは」というテーマでは、早稲田大学・小野香織さんが先行研究をベースに、グローバルリーダーがどのように組織文化を作り出していくか説明をされました。

田中 一史さんからは、ジェトロによる「日本企業のグローバル人材ニーズに関する調査結果」が報告されました。日本企業が海外ビジネスを行う上での課題として、日本人のグローバル人材への育成外国人人材の採用・育成が挙げられ、その取り組み事例が紹介されました。

異文化との共生に取組む地域コミュニティ」のセッションでは、多文化共生コーディネーターの松岡真理恵さんが、日本一ブラジル人が多く住んでいる浜松のコミュニティで「多様性を活かす社会」を目指した取り組みが行なわれていることを紹介しました。

人材について語るとき、「グローバル人材」「グローバルリーダー」には様々な定義や軸があり、立ち位置や定義を明確にすることの必要性も話し合われました。

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分科会C 企業の異文化適応力を高めるためのソリューション

パート1「ホフステードモデルを異文化の経営課題解決にどう活用するか」では、サイコムブレインズ 勝幹子さんが、ホフステードの6次元モデルを用いた異文化コミュニケーション研修の一部を、実際に研修で用いるディスカッションケースを参加者に話し合っていただく形で体験的にご紹介しました。海外赴任にあたり、コミュニケーション上マネジメント上どのような問題に当たりやすいのか、M&Aに伴う文化統合において、どのように6次元モデルを使っていけるかをケースとして取り扱いました。

パート2「バーチャルチームを想定した異文化環境でのリーダーシップ開発」では、近年多くの企業が直面している global virtual teamをテーマにディスカッションが行われました。距離、時間、文化という3つのチャレンジを抱えており、自ずと、同じ場所で働くチームとは違う運営が必要となります。itim International ラルフ・ファン・ハーストレヒトは、これらのバランスをとりながら、バーチャルチームでリーダーシップをうまく発揮するための9つの要因を紹介し、イティム ジャパン藤井真理が、この要因のうち特に日本人にとってどのようなチャレンジがあるか、時間と距離への対応信頼へのアプローチ求められるリーダーシップを中心にディスカッションを進めました。

分科会のサマリーセッションにおいて、早稲田大学・池上重輔先生から、異文化の経営課題については分類がきちんとなされておりその多くの課題においてソリューションが提供されているという点も指摘されました。

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基調講演 (2) 文化と戦略のアラインメント:組織のゴールを達成するベストな環境とは?  itim International創業者 ボブ・ワイスフィス 氏

文化はいずれも固有性を持っていますが、日本の文化は特に固有性が強いと言えます。海外の文化を積極的に吸収する点、自然災害が多いことに影響を受けている点が際立った特徴です。そのような日本が、海外のマネジメントを取り入れた時に何が起こるか。特にアメリカのマネジメントに影響を受けている日本ですが、そのアメリカでも必ずしもマネジメントが上手くいっているわけではありません。

大切なのは、「何をやるか」ではなく「それをどのように実現するか」です。例えば「社員のモチベーションが大切である」というのは万国共通です。しかし「どのように社員のモチベーションを高めるか」は国によって変わります。日本で文化の重要性が認識された背景に、競争優位性の低下があります。競争優位性が下がると文化間の対立が目立つようになりますが、対立は感情によるものが多く、文化と大きく関係しているのです。では、日本企業が世界で成功するために何をすべきか。国民文化と個々人の性格は容易に変えることができませんが、組織文化は変えることが可能です。どのような点に着目すべきか、順に見ていきましょう。

  1. 組織が「目的重視か、手段重視か」。目的重視の組織は、やり方の違いよりも目的の達成を重視します。グローバル経営に向いているのは目的重視の組織です。同じやり方を全世界で一斉に展開するような方法は、手段重視の文化を持つ国でないと機能しません。
  2. 仕事の規律緩やかなコントロールか、厳格なコントロールか。緩やかなコントロールの方が、グローバル経営に向いています
  3. 組織内の関心が、所属部署や上司に向いているか、専門性やプロフェッショナリズムに向いているか。後者の方が、グローバル経営に向いています。
  4. 組織へのアクセスのしやすさ、approachabilityでは、オープンなシステムの方が閉鎖的なシステムよりもグローバル環境で機能します。

組織の文化は数値化することができます。上記の4つの次元に取り組むことで、よりグローバル経営に向いた組織文化に変革することが可能なのです。

ビデオ 基調講演 (2) ボブ・ワイスフィス

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ホフステードの組織文化モデル

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Q&Aセッション

  • 国民文化の6次元モデル「人生の楽しみ方」で、日本よりもイタリアの方が低いのに驚いたのだが。

日本ではストレスも強いが、それを発散する場も用意されているようだ。古くは相撲観戦や風呂屋でのコミュニケーションなど。一方、イタリアの社会は常にコンテストだ。女性は常に完璧でいないといけない。ただしイタリアの方が個人主義が強いので、個人の自由や表現が日本人には「楽しんでいる」と映るのでは。

  • 自分を相対的に見るにはどうしたらよいか。

日本人は、自身を振り返ることがとても上手だと思う。一方、異文化に接して初めて気づくこともある。常に自分の立ち位置をチェックし続けるしかないのでは。

  • 日本では、行動の違いから文化の違いを感じることが多いようだ。私はフランス人で、文化はもっと抽象的なものだと思うのだが。

文化にもpracticevalueがある。日本では、行動様式が厳格でシステム化している側面がある。valueはなかなか変わらないが、practiceは時代に合わせて変わるもの。例えば今では「仲人」という仕組みはなくなった。また、6次元モデルや文化だけで全てを説明しすぎないほうがいい。例えば「日本は長期的」と言われるが、企業経営ではそうかもしれないが他の分野では違うことだってある。

  • 人工知能の出現は、文化に影響を及ぼすか。

トレーニングなど、人工知能が活用される分野は出てくるのではないか。人工知能と人間の間で役割分担が起こり、人工知能が共通の基盤で運用されるのに対し、人間はギャップ、違いがあるところで活躍する。研究では、認知ギャップがあることによってパフォーマンスが上がることがわかっている。TV番組「妄想ニホン料理」のように、ギャップが創造知を起こし、ソフトなイノベーションにつながるのではないか。

 

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