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パリで働く、日本人マーケターの“トレンドレポート”(3)

2018.08.27 山本 真郷 / 渡辺 寧

Vol. 3
上下逆さまのクリエイティブ
「オランジーナ」の”いたずら”なパッケージ

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

パリに本格的な冬の訪れ

フランスは冬時間に切り替わり、長くて暗い冬が始まりました。時計の針を一時間戻したことで、夏時間に比べて日の出・日の入りが1時間早まり、突然日が短くなったような錯覚に陥ります。

夜が長いフランスですが、夜間就労が厳しく制限されているため商業施設は比較的早い時間に閉まってしまいます。そのため、帰宅後に食事にありつけない時は近所にあるMONOP(モノップ)というコンビニに駆け込んでいます。いつもはカロリーを気にして軽食と一緒に炭酸水を購入するのですが、先日、久しぶりに「オランジーナ」を買おうと手に取った缶のデザインが印象的だったので今回は「オランジーナのパッケージデザイン」についてレポートしたいと思います。

身体感覚を活用したクリエイティブの可能性

端的に言いますと、そのパッケージデザインは「上下逆さま」になっています。
もちろん意図的に、です。私も手に取ってみて、合点がいきました。

「オランジーナ」はフランス生まれのオレンジ果汁入り微炭酸飲料ですが、果肉が含まれているため、フランスでは軽く振ってから飲むことが推奨されています。デザインを上下逆さまにすることで、消費者は一度はひっくり返すでしょうから、結果的に果肉が混ざり、美味しく味わえるという仕掛けです。微炭酸であっても「缶を振ったら、開けたときに吹きこぼれる」というのが一般通念なので、同製品が浸透しているフランスと言えど、振ることを習慣化させられず、こうしたパッケージの立案に至ったのでしょう。

本施策(「The Upside Down Can」キャンペーン)を手掛けたのはフランスの広告会社のBETC。商品パッケージ(缶のデザイン)だけでなく、CMからネット施策まで統合的に展開されています。缶を振る行為を促した販促は以前から行われており、直近で放映されたCMでは2015年に現地で話題になった「Shake the World」(世界を揺るがす)というCMの一部が引用され、「そうだ、振らないと」と思い出したフランスの方も多いようです。その意味でも秀逸に設計された施策に見えます。

逆さまなモノをひっくり返す(戻す)のは極めて自然な行動ですが、ここで注目すべきは「自然の摂理・身体感覚を活用した手法」にあります。

グローバルで統一のクリエイティブを検討する際、コピーは文化・宗教によっては意味合いが変わり取り扱いが難しいですが、「自然の摂理」(重力による運動他)や「身体感覚」(火が熱い・雪が冷たい他)は万人に共通するものなので、扱いやすい切り口と言えます。日本で缶を振ってから飲むことを推奨していない理由は、成分差や品質保証などの背景があるのかもしれませんが、仮に同じ条件下だとしても、日本ではもう少し違ったクリエイティブになるのかもしれません。

「権力格差」と「個人主義」でフランスとアメリカの違いを読み解く

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは世界各国の文化をスコア(数値)で表現しました。この研究をもとにすると、どのようなクリエイティブが各市場で評価されるか、理解が容易になります。

フランスのクリエイティブ表現には「パッと見て誰もが分かる」ことをあえて目指さないものが多くあります。今回の「オランジーナ」の「The Upside Down Can」キャンペーンでも、店頭で「飲み口はどこだろう?」と迷う顧客が多数出ています(それこそがクリエイティブの狙いなわけですが)。

こうした「パッと見て誰もが分かる」を目指さないフランス文化の特徴は、アメリカ文化との比較で良く指摘されます。
文化は相対的なものです。ある文化を違う文化と比較することで、その文化をより良く理解できるようになります。そして、ホフステードの6次元モデルを使うことで、文化間の比較が容易になります。
今回はホフステードの6つの軸のうちの2つ、「権力格差」と「個人主義」の米仏比較からフランス市場を読み解いてみます。

【図1】
フランスとアメリカの「権力格差」と
「個人主義」のスコア比較
出展)Hofstede Insights Group

【図1】はフランスとアメリカの「権力格差」と「個人主義」のスコア比較です。55を超えると「高い」、45を下回ると「低い」と言われます。この基準で解釈すると、アメリカは権力格差が「低く」、個人主義が「高い」文化です。個人主義の文化では、物事を明確にはっきり表現する傾向が強くなります。

フランスも同様に個人主義が「高い」文化なのですが、同時に権力格差も「高い」点がアメリカと異なります。権力格差が高くなると、人々は権力者を気にして自由に表現をしなくなる傾向が強くなります。フランスの場合、個人主義である=意見を言いたい、にも関わらず、権力格差が高い=意見は言えない、という「文化的ねじれ」があります。このため、「間接的に表現する=あえて分かりやすくしない」傾向があるのだと言われます。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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