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コンロがいらない時代?20代の「コンロキャンセル」現象から考える、住まいの未来 – 歩きながら考える vol.56

2025.06.04 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今日のテーマは、若い世代が家でガスコンロを使わなくなっているという現象について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日も移動時間を使って、ちょっと面白い話をシェアしたいと思います。先週読んだ日経MJの記事で、「え、マジで?」って二度見した話があるんですよ。「浴槽の次は『コンロキャンセル界隈』20代は2割、調理家電で十分」っていう見出し。

最初は「コンロキャンセルって何?」って思ったんですけど、読んでみると、若い世代でガスコンロを設置しない人が急激に増えているとのこと。20代男性だと4分の1以上、20代女性でも5人に1人がコンロなし生活だそうです。これって、僕らが思ってる「当たり前」が、実はもう当たり前じゃなくなってるってことですよね。

今日はこの現象から、住宅設備の変化、さらには社会全体の幸福度まで、歩きながら考えてみたいと思います。

「当たり前」の家の設備が消えていく

記事で紹介されていた、キューピーえがおの食生活研究の調査によると、2022年から2024年のたった2年間で、コンロを設置していない人の割合が急上昇しているとのこと。20代女性で15%から20%、30代女性で10%から15%。20代男性に至っては25%以上の人が家にガスコンロが無いそうです。

最初に思ったのは「これ本当かいな」でした。だって、「蕎麦とか茹でないの?」って思うじゃないですか。でも、よく考えてみると、蕎麦等の麺類を茹でる時は小さいIHクッキングヒーターを出せば良いわけだし。そう考えると、これって住環境の変化じゃなくて、ライフスタイルの変化なんですよね。

ガスコンロって、僕らが子どもの頃から「キッチンにあって当然」だと思ってたけど、実はそんなに昔からの伝統じゃない。昔のアパートだと「コンロは自分で買ってください」が普通だったし、設備として組み込まれたのって割と最近の話なんだと思います。だから、それがなくなるのも全然不思議じゃないですね。

働く女性の現実と「タイパ」重視の流れ

この現象の背景には、めちゃくちゃリアルな問題があります。専業主婦世帯の変化を見ると、1980年では65%位だったのが、2024年には28%まで減少。つまり、今や7割の家庭が共働きなんです(出所 労働政策研究・研修機構)。

でも、日本では未だに「育児や家事は女性の仕事」っていう性役割分担が残ってる。つまり、お母さんも働かなきゃいけないのに、家事負担は相変わらず女性に偏ってるという、ちょっとおかしな状況。

そりゃあ「ガスコンロなんて使ってられません」ってなりますよね。朝予約しておけば夕方には温かいシチューやカレーができてる自動調理家電の方が、圧倒的に合理的。調理時間に拘束されずに済むし、効率は断然上がる。

これって、若い世代が重視する「タイパ」(タイムパフォーマンス)が、住宅設備にまで及んだということだと思うんです。

消えるもの、生まれるもの

記事では、コンロ以外にも「もういらない」設備として、風呂場の鏡や浴槽、さらにはベランダまで挙げられてました。極端な話、窓だっていらないかもしれない。確かに、お風呂で鏡なんて見ないし、洗面台の鏡で十分ですよね。

でも、じゃあ何が必要になるか考えてみると、それは「快適な室内環境を整える」ためのもの。例えばですが、今は一部の人の特殊なニーズなのかもしれませんが、高機能の窓、樹脂製サッシ、調湿性の壁材、高性能な換気扇、メンテナンスが簡単な無垢材のフローリング、等は少しずつニーズが増えるのかもしれません。要するに、空調と温度と湿度をうまく保てるような設備には本当は大きな潜在的ニーズがあると思います。

そう考える理由は、快適な住環境は個人の幸福に結構影響するから。麗澤大学の宗健さんの首都圏1万人以上の調査では、幸福度の14.7%が地域、8.1%が建物の要素で構成されてることが示されています。つまり、住まいは幸福度の2割以上に影響を及ぼす。

とすると、快適に効率的に家時間を過ごす為に効果があるものは消費が増え、それに関係ないものは家の設備からなくなっていくというのは、めちゃくちゃ予想がつく流れじゃないでしょうか。

個人主義化の光と影、そして幸福度の底上げ

この変化って、個人主義の傾向が高まってる現代社会の反映でもあります。個人主義の元では、核家族と自分自身のニーズが重視されるようになります。核家族世帯が、場合によっては独身世帯が、リーズナブルなコストで快適に過ごせる家。これが社会的に求められる。

日本の個人主義は「個人主義」というより「孤立主義」みたいになっている側面があり、「身近な家族と強い繋がりを作れるかどうかが生命線」みたいに見える時があります。欧米の個人主義のような一般的信頼の高い個々人が友人ネットワークを作るというよりは、身近な家族と平和に安心して暮らせるかどうかが幸福にとって重要で、そのため、家族が安心して快適に過ごせる住環境というのは極めて大切なのではないかと思います。

そういう意味では、住宅メーカーや建材メーカーが果たす役割って、実は社会全体の幸福度の底上げにつながってるんじゃないでしょうか。

そして、逆転の発想で、もし、日本で快適で効率的な住まいが増えれば、そこで充電された幸福感をエネルギーとして、外の人とのつながり構築に今よりも活発に動けるようになるんじゃないかとも思います。

まとめ:住まいから始まる幸福度革命

というわけで、今日は「コンロキャンセル」現象から、住まいの未来について歩きながら考えてみました。最初は「20代がコンロを使わない」という話だったのが、気づけば社会全体の幸福度の話まで広がってしまいましたが、これって全部つながってる話なんですよね。

みなさんの家のキッチン、最近ガスコンロ使ってますか?自分の住まいで「実はいらないかも」って思う設備、ありませんか?もし、この記事を読んで「確かに!」って思ったら、ぜひSNSでシェアしてくれると嬉しいです。

僕も、この住宅設備の変化と幸福度の関係、もう少し深掘りして調べてみたいと思ってます。進捗があったら、またブログでシェアしますね。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます。もうすぐ駅に着くので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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