BLOGブログ

今回は、研究職の働き方について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は研究室に向かいながら、ちょっと気になったニュースについて話したいと思います。6月19日の毎日新聞で、山中伸弥教授が大学の雇い止め問題について語った記事を読んだんですけど、これを読んでて、なんか雇用制度とそれぞれの職場、この場合は大学の研究っていう文脈が整理されてないような気がしたんですよね。
研究者と研究事務、そもそも働き方が違うのでは
で、まず気になったのが、そもそも働き方が違う研究者と研究事務の担当者の雇用体系がきれいに整理されてないように思うってことなんです。
山中教授も指摘してますけど、研究者って基本的に成果主義に近いですよね。10年やって成果が出なければ、次の研究費は取れない。これって、働き方で言うとアメリカで言うところの「エグゼンプト」の働き方に近いのだと思います。エグゼンプトっていうのは、時間外労働の対象外で、自分の裁量で仕事をして、成果で評価される働き方のことですね。
一方で、事務職員の方々は決められた仕事をきちんとやって、安定的な収入を得るっていう、いわゆる「ノンエグゼンプト」的な働き方に適してるように見えるんですよ。ノンエグゼンプトは、決められた時間働いて、残業があれば時間外賃金が支払われる働き方です。
でも日本の場合、この区別が曖昧なまま、研究者の10年ルールに事務職員も巻き込まれちゃってるように見えるんですよね。これって変じゃないですか?
議員秘書の雇用形態から考える流動性
で、ここでふと思ったのが、そういえば議員秘書ってどうなってんだろうってことです。
議員が選挙に落選した場合、秘書も失職することになる。ただし、誰かが落選するってことは誰かが当選するってことでもあるんで、実際に議員秘書の求人は常に多数存在してて、議員秘書での転職市場は形成されてるみたいなんですよ。
大学の事務職だって、議員秘書の総数が大きく変わらないのと同じように、誰かの研究費が切れても、別の誰かが新しく研究費を獲得するわけだから、事務仕事のニーズ自体は変わらないはずなんですよね。うまく人が流動できるんであれば、長期的な雇用は全体としては担保されるんじゃないかなって思うんです。
でも実際には、仕事の仕方が研究室ごとに違ったり、人間関係に依存した仕事の進め方をしてたりして、なかなかスムーズに移動できないっていう事情があるのかもしれません。
メンバーシップ型とジョブ型のズレが生む矛盾
ここで「ジョブ型」と「メンバーシップ型」っていう雇用の考え方を考えてみましょう。
ジョブ型っていうのは、特定の職務(ジョブ)と報酬を明確に定義して、その職務に必要な人材を採用し、職務の内容や成果で評価する雇用形態です。一方、メンバーシップ型は、新卒一括採用等で職務を限定せずに採用し、会社のメンバーとして様々な部署を経験させながら育成する雇用形態です。
で、日本は官僚制度や大企業がメンバーシップ型を採用してきたっていう歴史がありますね。これは第二次世界大戦前後からの戦時経済体制において、人の雇用を確保する目的で採用された制度が、高度経済成長期を経て一定期間続いてきたっていう事情がある。そのせいで、多くの雇用の場においてメンバーシップ型の方が当たり前で良いんじゃないかっていう感覚が、もしかしたら形成されたのかもしれません。
一方で、大学の研究室は研究費によって運営されてて、その資金提供に一定期間の設定があるとすると、基本的にはジョブ型で運営されていく領域なんじゃないかって思うわけです。そこにメンバーシップ型を当てはめようとしてることが、違和感を生んでるんじゃないでしょうか。
根本的な問題は何か、そしてどう解決すべきか
で、ここでの問題は、大学の研究機関っていう労働市場をどのような根本的な考え方で運用していくのかってことがはっきりせず、よってそれに基づいた最適な雇用制度が明確化されてないってことじゃないかと思うんです。
私の考えとしては、まず研究職は中長期の期間を設定して、その期間での成果主義の方が好ましいと思うんですよね。なので、研究者は成果主義でエグゼンプト的な働き方になる。成果を出せば、成果に見合った報酬を得られる。その代わり、期限と成果を出さなきゃいけないっていうプレッシャーは存在する。大学の先生は終身雇用ですが、それは必ずしも研究費の継続を保証するわけではない。その意味で、研究し続けたいのであれば成果を出し続ける必要がある。多分、今の給与・賞与の基準は、そうしたリスクを考えると低い。
一方で研究事務の人に関しては、研究室が閉鎖されれば職を失う。ただし、研究事務のやり方自体は研究領域全体で標準化をして、常に流動性が高く、次に新しく開設される研究室にスムーズに仕事ができるようなスキルであるとか、仕事のやり方の徹底化を進めるってことが必要だと思うんです。一つの研究室に閉じず、大学圏・研究圏みたいな複数の大学や研究所をまとめた広い範囲で研究事務の雇用が常に流動するように体制を作っておくことも必要かもしれません。
このように事務員と研究者を明確に分けつつ、それぞれが最も働きやすいような体制を作っていくことが大事なんじゃないかなって。
まとめ
というわけで、今日は大学の雇い止め問題から、雇用制度と研究現場のズレについて歩きながら考えてみました。大学に戻って日が浅い門外漢の意見なので、的外れな点も多いとは思いますが、民間が長かった立場から見るからこそ気づくこともあるんじゃないかなって思います。
もしこの記事を読んで「うちの組織でも似たような問題があるな」とか「こういう解決策もあるんじゃない?」って思った方がいたら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。みんなで知恵を出し合って、少しずつでも良い方向に変えていけたらいいなって思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。研究室に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い