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サッカーW杯ポーランド戦と日本文化

2018.06.30 渡辺 寧

賛否両論あるポーランド戦

ワールドカップロシア大会1次リーグH組の日本が、グループリーグ最終戦のポーランド戦で最後の10分間パス回しをして攻撃を止めてしまったことに関して、国内外で賛否両論の議論が起こっています。

別記事でも書きましたが、 H 組の FIFA ランキングは下記の通り。

ポーランド 8位
セネガル 27位
コロンビア16位
日本   61位

シンプルな勝率の見立てをすると、順当に行けば28日の試合ではそれぞれ、ポーランドとコロンビアが勝つ可能性が高いと考えられます。よって、あの状況で1点を取るために攻め続けたとしたら、日本が1点以上を取って引き分けに持ち込む確率よりも、ポーランドにさらなる得点を許す確率の方が高いと判断することは理解できます。

また、別会場のコロンビア対セネガルにおいて、セネガルが得点するよりもコロンビアが抑える確率の方が高いと判断することも理解できます。

よって、あの状況において西野監督が取り得る選択肢の中で、最もグループリーグ突破の可能性を高める戦術は、西野監督が取った通り、0対1でポーランドに負けることを良しとし、フェアプレーポイントでセネガルを上回るということになるのだろうと思います。

本当にこれで良かったのか?

一方で、「決勝トーナメントに進む」という目標は達成したものの、本当にこれで良かったのかというモヤモヤした気持ちが発生するのも良くわかります。

「決勝トーナメントに進む」という目標自体は共通したものですが、その目標を達成する過程(プロセス)のあり方に関しては人によって考え方や感じ方の違いがあります。「大事なのは結果」と考える人もいるでしょうし、「観客やフィールドでプレーしている選手の気持ちにこたえて欲しい」と考える人もいるでしょう。

別の記事で、賛否両論が巻き起こる理由の一つとして、個人の性格タイプの違いについて書きました。

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは、人の行動に影響を与える要素は三つあると述べました。 一つは、遺伝的に人類全体で決まっているものです。これは人による行動の差を生み出すものではありません。しかし、残りの二つは人によって異なる差を生み出します。一つは個人の性格であり、もう一つは集団の文化です。

この記事では、人の行動に影響を与えるもう一つの要素である文化の観点から今回のポーランド戦を振り返ってみたいと思います。

日本文化は良くも悪くも「達成してナンボ」

西野監督は試合後の記者会見の中で

「勝ち上がるということを、自分の中で前提として考えていました」

と述べました。

過去2回のワールドカップ16強でグループリーグ突破の時点で疲労がピークだった状況を反省し、ベスト8入りのため先発メンバーを温存し、 終盤での試合運びを賛否の声が上がるのを承知の上で今回の戦術を取った前提には「勝ち上がる」ことがあったという発言です。
(出所「2つの賭けに勝った西野監督 全ては8強入りのため」nikkansports.com 2018/6/30)

国民文化の観点から考えると、西野監督のこの考え方は日本文化の自然な考え方です。


(図|日本の国民文化スコア Hofstede Insights Group)

ヘールト・ホフステードは 世界各国の国民文化を数値で表す研究を50年にわたり続けています。この研究によると、 日本文化は男性性が極めて高い文化であることが分かっています。男性性・女性性の日本のスコアは95。 スコアは0から100の間で動き、95というスコアは日本が世界の中で最も男性性の強い文化の一つであるということを示しています。

男性性の強い文化においては、 何よりも目標を確実に達成すること
に高い価値が置かれます。今回の例で言えば、グループリーグを突破し3度目の挑戦で初めてベスト8まで残るということは極めて明確な目標として価値が置かれます。これは文化の観点からは非常によく理解できます。

結果にこだわる「男性性の強さ」に関しては、選手のコメントの中にも見てとることができます。

長谷部は試合後のインタビューで

「この世界は結果論。議論はあるにしても、結果を得られたことは非常にうれしく思う」

と述べています。
(出所「リスク承知の負けて良し日本、薄氷の16強」 日経新聞 2018年6月29日)

これは男性性の高い文化の価値観そのままの言葉です。

また、今回ベンチで控えに回った本田圭佑は、

「サッカーってエンターテインメントでしょ。本当はいいサッカーしてなんぼ」

と言いますが、同時に、

「結果主義じゃ駄目なんですよ。でも、結果を出さないと誰も俺の発言を聞いてくれない。俺は結果だけを追い求めているんですけど」

と言っています。
(出所「本田、西野采配を絶賛!「ぼくが監督でもできない」/W杯」 SANSPO.com 2018年6月30日)

結果を求める周囲の態度は、男性性の強い文化における自然な反応と言えます。

男性性の強い文化は時として失敗に不寛容

こうした、文化における男性性の高さは、高い目標を成し遂げ、大きな成果を得る一面を持っていますが、同時に「失敗に対して不寛容」という側面も持っています。

DF吉田麻也は、自身のツイッターで予選リーグのミスでたたかれるGK川島永嗣に関して、

「ミスした者をこれでもかと叩きのめす悪しき風潮が蔓延しているこの国で、子どもらに本当に見てほしいのはチームスポーツで仲間が苦しんでいる時いかに助け合えるか、そして1人の選手が批判や重圧から逃げずに立ち向かう姿勢。そこに何故、日本人で唯一欧州でGKとしてプレー出来ているかが隠されている」

と投稿しました。

(出所「吉田麻也、選手批判に持論を展開 「悪しき風潮が蔓延しているこの国で…」」The Answer 2018/06/30  )

文化は生まれた直後の家族との関わりや学校での教育を通じて、人の無意識の中に価値観として深く入り込んでいます。 文化に良し悪しはありませんが、その価値観をあらゆる環境において無自覚に適用することは必ずしも好ましい結果を生みません。吉田麻也選手のコメントは、日本文化の男性性の強さのネガティブな側面に対する意識を促す貴重なコメントと感じます。

日本は不確実性の回避の高い文化

男性性の高さに並ぶ、もう一つの日本文化の大きな特徴は、その不確実性の回避の高さです。 日本の不確実性回避のスコアは92。世界でも極めて高い不確実性の回避の文化傾向を示しています。


(図|日本の国民文化スコア Hofstede Insights Group)

不確実性の回避の高い文化においては曖昧な状況や前例のない状況が嫌われます

長友が、

「他会場の結果も耳にして、このままいけば自分たちが上がれると。向こうもどういう状況になるか分からないと、初めての経験でした」

と述べているように、今回のポーランド戦は選手にとっては前例のない状況への対応となりました。
(出所「「この状況で?」 長友もポーランド戦終盤プランに思わず…「西野さんに何度も聞いた」」 ZONE Web 2018/06/29)

このような前例のない状況に直面すると、不確実性の回避の高い文化の成員は、対応法が分からずフリーズしてしまう(適切に行動できなくなってしまう)傾向にあります。これは、サッカーに限らず、 ビジネスの場面でも多くの日本企業で見られる光景です。

文化の観点から言うと、こうした場面においては「 何をするのが正解なのか」を誰かが明確にすることが必要になります。 不確実性の回避の高い文化においては、 人は行ったことのないことを試す不安を抱いているため、その行動が間違っていないという心理的な安全を担保してあげることが必要になるという背景です。

長谷部は試合後のインタビューの中で、

「「ああいう状況では曖昧にするのが一番良くない。点を取りにいけばカウンターで0―2になる恐れもあった。誰かが決断せねばならない」

と述べました。
(出所「リスク承知の負けて良し日本、薄氷の16強」 日経新聞 2018年6月29日)

これは、良い悪いと言う話ではなく、不確実性の回避の高い文化におけるマネジメントで考えなければならない大切なポイントですです。

日本の文化にあったマネジメント

日本は文化的には個人主義の国ではありません。日本の集団主義/個人主義スコアは46。これは、 日本文化が集団主義/個人主義の中間に位置し、どちらかと言うとやや集団主義によっている文化であるということを示しています。


(図|日本の国民文化スコア Hofstede Insights Group)

個人主義の文化であれば、プレイヤー一人一人が自律的に考えて行動を決めていくということも考えられます。しかし、日本の場合は多くの欧米諸国に比べてそこまで個人主義の文化ではありません。よって、今回のような不確実性の高い局面においてはリーダーが決断し、何をすべきかを明確に指示する必要が出てきます。

国民文化が個人の無意識に深く根ざし、行動や考え方に大きく影響を及ぼしているとしたら、個人の性格と並んで、この文化の側面を無視してチームマネジメントを行うことはできません。今回のポーランド戦はいみじくも日本のチームマネジメントの効果的なあり方を再度考えさせる一つの良い例となったように思います。


渡辺 寧

代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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