Hofstede Insights Japan

お問い合わせ

BLOGブログ

21世紀に通用するリーダー像とは?

2018.10.13 渡辺 寧

民主的なリーダーは本当に機能するのか?

グローバルビジネスに携わるマネージャー対象の異文化マネジメント研修で、必ず話し合われるのが、「海外ではどのようなリーダーシップが有効なのか?」というテーマ。特に、国内ビジネスしか経験のないマネージャーにとっては、これは結構難しい問題で、グローバル環境に移ると、チームや組織のマネジメントが上手く行かず、手痛い思いをすることがあります。

実際、海外に出ると、日本人マネージャーの評判はあまり芳しくありません。以前、早稲田大学コンソーシアムが行った海外拠点における日本人マネージャーと現地人マネージャーとの比較調査では、日本人マネージャーが現地人マネージャーよりも優れているとされた項目は無く、ミドルマネジメントにおいては過半数の項目で日本人マネージャーは現地人マネージャーよりも劣っているという評価がなされたそうです。出所 企業の海外展開の要諦ーグローバル・リーダーに求められる「グローバル・マインドセット」を、いかに醸成していくのか

そんな中、これから赴任する日本人マネージャーに「どのような部下マネジメントをするのが赴任先では望ましいですか?」という質問をすると、結構な確率で返ってくる答えがあります。

それは「みんなの意見を出してもらい、みんなで解決策を考えることを支援するマネジメント」というもの。

おそらく、日本でマネジメントをする際にも同様のアプローチを目指しているのではないかと思います。K.Lewinのアイオワ研究における民主型リーダーシップに近いやり方を理想とする人は、日本で非常に多く見られるように思います。

Lewinの研究では民主型リーダーシップが最も有効とされていますが、文化の観点から考えると、それは文化依存的。必ずしもそうとは言えないというのが実際で、PM理論の三隅先生も日本での検証調査を行う中で、Lewinの結論が当てはまらない状況に直面し、

民主的指導は専制型よりよいはずと思われているのに、逆の場合が存在するのはどう考えたらよいか?(出所 リーダーシップの科学)

と述べています。

 

リーダーは「権力格差」との付き合い方に注意しなくてはならない

民主型リーダーが機能するかどうかは、その文化の「権力格差」の状況に大きく左右されます。アメリカのような権力格差が小さい文化では参加型マネジメントが一般的で、分権やエンパワーメントが好まれます。よって、民主型リーダーが機能する可能性が高くなる。一方、多くの新興国のような権力格差が大きい文化では、階層型マネジメントが一般的で、上長が指示命令するのが一般的です。この場合、必ずしも民主型リーダーが機能するわけではありません

効果的なリーダーシップはフォロアーの期待リーダー像に制約を受けます。その為、リーダーは自分がリーダーシップを発揮する文化環境における「権力格差」がどのような状況なのかを敏感に察知し、自身のリーダーシップスタイルを調整する必要が出てきます。

このような話をすると、今度は、「なるほど、新興国では部下を厳しく指導した方が良いということですね」と仰る方が出てきます。現地スタッフは日本人メンバーと比べて働かない、真面目ではない、と考えている方が一定数いて、そのような方にとっては権力格差が高いということは、部下に厳しくするということと同義と映るようです。

 

これからのリーダーが意識すべき5番目の文化軸

どのようなリーダーが望ましいのか。それを考える際には真っ先に、ホフステードの6次元モデルの第一の軸である「権力格差」を考えますが、同時に、特に「今世紀の」リーダー像を俯瞰して考える際にはもう一つ重要な軸があります。それが、6次元モデルの5番目の軸である「短期志向/長期志向(LTO)」この軸は東洋の価値観を色濃く反映しています。

ホフステード等は、グローバリゼーションがもたらしている地球環境とサスティナビリティの問題に触れ、

この21世紀には、東アジアの経済的重要性が増加するであろう。東洋の賢者(男性も女性も)が他者に与えることのできる貴重な贈り物の一つは、地球規模での長期的な考え方への移行であろう(出所 多文化世界)

として、この軸に代表される東洋的な価値観の重要性を強調しています。

グローバリゼーションは「アジアからは「西洋化」として、北欧諸国からは「アメリカ化」として見られて」います。現在進行しているグローバリゼーションはアメリカ的な短期志向の市場原理主義に基づいており、長期志向の国々からは「未来への責任を神や市場の手に委ねることで放棄している」と見られています。

トランプ大統領が国内重視を強めていることに端的に表れているように、アメリカ的な短期志向の価値観は今世紀を通じて後退していく可能性が高く、代わって中国をはじめとした東アジアの長期志向の価値観が前面に出てくる可能性が高いと考えられます。

図|中国、日本、米国の短期志向/長期志向スコア比較
(100に近いと長期志向、0に近いと短期志向)

上図は、中国、日本、米国のLTOスコアの比較ですが、日本も長期志向の文化傾向を強く持っていることがわかります。

例えば、日本企業の例でいうと、松下幸之助は1932年の松下電器の第1回創業記念式で、後世に「水道哲学」として知られる真使命を発表し、その真使命を達成するために、建設時代10年、活動時代10年、社会への貢献時代5年、合わせて25年間を1節とし、これを10節繰り返すという壮大な250年計画を提示したそうです。(出所 Panasonicホームページ

ホフステードは17か国から来たMBAで学ぶ社会人学生を対象とした調査で「10年後の利益」と「当年の利益」のどちらが重要かを聞きました。調査の結果は短期志向/長期志向のスコアと相関しており、長期志向の文化圏から来ている学生は「10年後の利益」が重要で「当年の利益」は重要ではない、と答えました。

多くの日本企業が単年計画とは別に、3~5年の中長期計画に基づいて経営を行っていることからも、日本人にとっては長期でものを見る見方があっているのかもしれません。

 

長期志向の背後にある孔子の教え

5番目の軸である短期志向/長期志向(LTO)は、ホフステードの元々のIBM調査では発見されなかった軸で、マイケル・ボンドが1985年に行った中国的価値観調査(CVS)の調査で発見されたものです。この軸はいくつかの価値観が統合されて作られていますが、そのうちの半分の価値観は孔子の教えと深く共鳴します。

短期志向/長期志向の価値観の半分は、

  1. 1.持続性(忍耐)
  2. 2.倹約
  3. 3.地位に応じた序列関係と序列の順守
  4. 4.恥の感覚

で構成されています。

1.持続性(忍耐)2.倹約、は「自らの日々の職務において徳を高めるとは、技術や教養を身につけ、一生懸命働き、必要以上の消費を慎み、忍耐強く根気の良いことである」という孔子の教えと共鳴し、現在の修身が未来の社会の安定に繋がる(修身斉家治国平天下)という儒教の基本的政治観と繋がります。

日本は長期志向の文化で、上記の「忍耐」「倹約」の価値観を持つ人が多く、その為、あまりにも派手なお金の使い方や生活をする人は良く思われない傾向にあります。昨今、ZOZOの前澤社長の私生活に批判が集まっていますが、こうした現象には長期志向文化の特徴を色濃く持つ日本文化の影響があるのかもしれません。

3.地位に応じた序列関係と序列の順守は、五輪・五常の考え方に共鳴します。社会の安定は、人々の間の不平等な関係を基礎としているのであり、その基本形は、君・臣、父・子、兄・弟、夫・妻、先輩・後輩、だと考えます。そして、それらの関係は相互に補完的な義務に立脚しているのであり、例えば後輩は先輩に敬意を示さねばならないが、先輩は後輩を保護し思いやる必要がある、と考えられます。

 

権力格差が高く長期志向の文化における、「あるべきリーダー」

このように、長期志向の背後にある価値観を紐解いていくと、これからの世界の「有るべきリーダー像」の一つが見えてきます。

つまり、強い権力を持ち、それを発揮するが、自分を律し、上下関係における上位のものとして、下位の人々に対して果たすべき義務を果たす人というリーダー像です。こうしたリーダー像は、例えば、冒頭のLewinのリーダーシップの3類型(専制型・放任型・民主型)のどれにも当てはまりません。しかし、今後の世界を考える上では重要な類型として浮かび上がってくるリーダーの姿です。

日本人の場合、戦後かなり長い間アメリカの強い影響を受けたこともあって、かつては当たり前に居た「徳のあるリーダー」という概念がわかりにくくなっているように思います。もしかしたら、松下幸之助が生きていたような時代には良きリーダーとは当たり前のように徳を身に着ける日々を送る人たちだったのかもしれません。

中国をはじめとした新興国が台頭する中で、世界の価値観にも変化が起きています。21世紀のこれからのリーダー像を考える上では、東アジア的な価値観の紐解きをもう一度行うことが、我々日本人にとっても重要になると私は考えます。


WRITER

渡辺 寧

Hofstede Insights Japan 取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

MAIL MAGAZINE

文化に関する役立つ情報をメールマガジンで配信しています。お気軽にお申し込みください。

登録はこちらから