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社会分断に対する処方箋:『“右翼”雑誌の舞台裏』を読んで – 歩きながら考える vol.28

2025.04.22 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今日のテーマは「社会的分断」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題を平日(月~金)の毎朝ラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。

こんにちは。今日もジムに向かう道すがら、頭に浮かんだことを話してみようと思います。最近、梶原麻衣子さんの『「“右翼”雑誌」の舞台裏』って本を読んで、面白かったんですよ。普段、右派の雑誌には縁遠い私ですが、この本を通じて「普段対話することが少ない人たちの本音」に触れたことが新鮮で。今日はその感想と、思想の分断やSNSの影響について、ゆるく考えてみます。

右派の雑誌編集者の視点にびっくり

まず、梶原さんの本の話から。
この本は、『WiLL』や『月刊Hanada』といった、一般的には「右寄り」と言われる雑誌の編集者をしていた梶原さんが、編集者として考えたこと・感じたことを赤裸々に書いたもの。私、これらの雑誌は読んだことなかったのですが、この本は編集者目線で、「右派」と括られる人たちがどんな気持ちで動いてるのかをメタな視点で描いてて、面白いなーと思いました。

特に印象的だったのは、「右派」と呼ばれる人たちが感じる「疎外感」。彼らの視点では、日本を思う気持ちがあるのに、日本社会が全く理解しようとしてくれない。なんなら日本を思う自分たちがなぜか日本では少数派で、邪険に思われているという感覚があったとのこと。

また、安倍政権の支持者の方々の心理描写も面白かった。一般的には安倍政権は安定した政権で、選挙でほとんど負けなかったイメージがあります。しかし、支持者側からすると、彼らは「ギリギリのところで立っている自分たちが支えなければならない」という感覚もあったと。

これは社会現象を理解する上で重要な視点だと思いました。ケアされない気持ちの問題が、社会行動と結びついた時に特徴的な現象を引き起こすという一例なんだろうと。

自分とは考え方や立場が違う人たちが、どんなフラストレーションや使命感を抱えてるのかを知るのって、なんというか、新鮮な感覚でした。

分断を生む脳の仕組みとSNSの罠

この本を読んでて考えるのは、やはり近年の社会的分断について。

1970年代にヘンリ・タジフェルらが提唱した「社会的アイデンティティ理論」によると、人間って「自分たちの集団(内集団)」と「よその集団(外集団)」を分けて考える傾向がある。進化の過程で、敵か味方かを素早く判断する必要があったからなんだと思うんですが、これが現代でも働いてる。右派も左派も、SNSで「自分たちは正しい」「相手は間違ってる」とバチバチやり合ってるの、見たことありますよね?

で、SNSのアルゴリズムがこれを加速させる。同じ意見ばかり見る「エコーチェンバー」現象で、どんどん考えが極端に。梶原さんの本でも、『WiLL』の過激な見出しが批判されて、対話イベントを企画したけど、相手側が過去の見出しを並べて一方的に叩くだけで終わったってエピソードが出てきます。

「私が悪かった」と譲歩しても、相手も聞く姿勢を持つとは限らない。むしろ相手からさらに苛烈な批判が返ってくることが多い。

こうなると、押し合いを続けるしかないという現実があります。 さらに、相手を叩くことが「エンタメ」化しているようにも見て取れます。敵を叩くことで、SNSのフォロワーグループの中では「自分たちは正しい!」「相手を叩いて我々のリーダーを支えてる!」というポジティブな気分になれる。逆に、譲歩や対話をしたところで、それは楽しい「エンタメ」にはならず、特に強いポジティブを感じることには繋がらない。だから、譲歩や対話は求められない。これ、構造的に、相手を叩きつつづけるゲームになってしまっているように見えて、非常に危ういと思います。

分断の行き着く先を考える

今のSNSの状況を見ると、このまま進むと、どうなるんだろう? と思いますね。アメリカの例を見ると、ピュー・リサーチセンターのデータで、共和党と民主党の支持者って、もうほとんど会話できない状態だそうです。日本もそうなってしまうのか。

梶原さんの本が良かったのは、右派の内面を率直に書いてくれて、「本質的にはあちら側もこちら側も無い」と思えたこと。考え方や価値観の「初期値」がちょっと違うだけで、そのちょっとした「初期値」の違いが、システムの振る舞いの中で分断に繋がって行く。しかし、もともとは、感情や動機には共感できる部分が多いと感じます。こういう本や声は、分断を広げる構造的なシステムに対する防波堤になり得ると感じます。

まとめ:異なる視点に触れてみる

というわけで、今日はジムに向かう途中で、『「“右翼”雑誌」の舞台裏』を読んだ感想を話してみました。右派の疎外感や使命感、SNSが分断を増幅する構造、そして「対話ってどうやったらできるんだろう?」という問い。自分と違う思想の人たちの気持ちを知れて良かったです。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます! もし「私もこんな本読んだよ!」とか「分断について思うことある!」って話があったら、ぜひSNSでシェアしてコメントしてください。では、また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!


渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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