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東北大学がアメリカから研究者を呼ぶ話で「嫌な予感」がした理由 – 歩きながら考える vol.65

今日のテーマは、東北大学がアメリカの研究者を招へいするという話を聞いて思ったことについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は四条河原町から家に向かって歩いてるんですけど、ちょっと気になるニュースがあって、歩きながら考えてみようと思います。
東北大学が10兆円ファンドで初年度100億円の支援を受けて、アメリカから優秀な研究者を招聘しようとしているっていう話。これ、実はすごいタイミングなんですよね。というのも、少し前の調査でアメリカの研究者の75%が国外への移住を検討しているっていう結果が出てたから。
正直言うと、最初にこのニュース聞いた時、「嫌な予感しかしない」って思っちゃったんです。でも今日は、その嫌な予感が杞憂に終わって、日本の大学システムが世界トップクラスになっていくことを期待しながら、ちょっと考えを書いてみますね。
東北大学の野心的な計画、でもちょっと心配なことが…
東北大学が国際卓越研究大学の第1号に認定されて、世界トップクラスの研究者を呼ぼうとしている。これ自体はめっちゃいい試みだと思うんです。特に今、トランプ政権下でアメリカの研究環境が悪化してて、なんと博士研究員の約79%が国外移動を検討してるっていうから、日本にとっては千載一遇のチャンスですよね。
ただ、ちょっと心配なことがあるんです。お金を使ってアメリカの一流の研究者、若手の有望な研究者を呼んだはいいものの、オペレーションが研究しやすい体制に必ずしもなってなくて、「あれ、日本で研究するのやりにくくね?」なんて思われて、1年で帰られちゃったら…。これ、呼んだ側も呼ばれた側も、双方不幸な話だと思うんですよ。
なんでこんな心配をするかっていうと、日本の大学の研究環境って、お金の問題だけじゃないんじゃないかなって思うから。文部科学省の調査によると、大学教員の研究時間は2002年の46.5%から2018年には32.9%まで減少してるらしいんです。約8割の教員が「研究時間が足りない」って感じてるっていう報道もありました。
もちろん、東北大学も研究者だけじゃなくて、研究体制の整備も検討し進めているとは思います。でも、それでも懸念が残るんですよね。
なぜ懸念が残るのか – 日本の「不確実性の回避」文化
なぜ懸念が残るかっていうと、日本の文化はおしなべて「不確実性の回避」が高い特徴があるから。オランダの経営学者・社会心理学者であるヘールト・ホフステードの文化指標だと、日本は不確実性の回避が92と高く、この影響は日本企業をはじめ多くの組織で見られます。
つまり、かなり厳密な文書主義や手続き主義をするのが当たり前と思っているところがあり、これを変革するのは一筋縄ではいかないんじゃないかと思うところがあるんです。申請書類はこの様式で、この期日までに、この手順で提出して…みたいな。
日本企業から外資コンサルへ転職して感じた「分業」の衝撃
私、最初は日本企業で働いてて、その後外資系のコンサルティングファームに転職したんです。で、その後、独立して仕事をした後に博士課程に入って博士号を取ったんですけど、外資系コンサルに移った時の衝撃が今でも忘れられないんですよね。
何が衝撃だったかっていうと、分業に対する考え方が全然違うんです。日本企業だと「みんなで頑張ろう」みたいな感じで、なんでもやるじゃないですか。でも外資系コンサルでは、コンサルタントにとって最も重要なのは「クライアントに対して付加価値を出せたかどうか」、これだけなんです。
例えばですよ、データ入力って付加価値じゃないですよね?だから、それはコンサルタントがやらなくてもいい。場合によっては派遣スタッフを自分で雇って、週末の間にデータ整理やってもらって、月曜日に出社した瞬間から分析と、その分析からの示唆出しに集中する。これが当たり前なんです。
パワーポイントのスライドもそう。スライドを作ること自体に価値があるわけじゃなくて、何をメッセージとしてクライアントに伝えるか、これがコンサルタントの仕事。だから、スライドの作成は専門の部隊がいて、めちゃくちゃきれいなスライド作ってくれるんです。その人たちへのお願いは、手書きのメモでもOK。最初は衝撃でした。
日本の大学の先生たち、本当に大変そう…
で、博士課程にいた時に見てた先生たちなんですけど、傍目に見ても業務の幅がすごく広くて、研究以外の仕事も相当こなされてるなって印象でした。論文の査読、申請書類の作成、その審査、学生の指導、会議、社会貢献活動…。
実際、豊橋技術科学大学の小野悠准教授は「自分の研究時間は全体の1割」って言ってるそうです。1割ですよ、1割!これ、もったいなくないですか?
だって、日本の教授陣って、知的なリソースを持ってて、アカデミックのトレーニングも受けてきた、日本の中でも相当貴重な人材じゃないですか。その人たちが書類作成とか審査に時間使うのって、なんか社会的にもったいない気がするんですよね。
この機会に、日本の大学が世界トップクラスになれるかも?
研究って難しいじゃないですか。そんな簡単に結果出ないし、失敗の方が多いくらい。だからこそ、ダメだったらもう1回別の方向で試すとか、そういう試行錯誤の回数を増やすために時間使った方がいいと思うんです。それが結局、人類全体のためになるんじゃないかな。そのためには、研究時間を十分に研究者が確保できる環境を作る必要がある。
韓国とかシンガポール、中国の大学では、研究者が研究に専念できるような支援体制が整ってるって聞きます。日本も、今回の東北大学の取り組みをきっかけに、分業体制を見直して、研究者が本来の仕事に集中できる環境を作っていけたらいいですよね。
そうすれば、アメリカから来た研究者も「おお、日本の大学、めっちゃ研究しやすいじゃん!」って思ってくれて、長く活躍してくれるかもしれない。それが日本全体の研究力アップにつながる。
というわけで、今日は東北大学がアメリカから研究者を呼ぶっていう話から、日本の大学の可能性について考えてみました。世界トップクラスの人材を迎えるこの機会をうまく活用して、オペレーションもトップクラスに整えていく。しかも日本の全国の大学全体として。そんな風になっていったら、すごくいいんじゃないかなって思います。
もしこの記事読んで「うちの大学でもこんな取り組みあるよ」とか「こんなアイデアどう?」って思った方がいたら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。日本の研究環境がもっと良くなるように、考えていけたらいいなと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。そろそろ家に着くので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い