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新卒の転職サービス登録が最多更新!でも、その先に待つ「お金を払って働く時代」の話 – 歩きながら考える vol.86

2025.07.16 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今回は、新卒の転職市場が拡大しているという件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は帰りの電車を待ちながら、興味深い記事を読んで、色々と考えさせられることがありました。毎日新聞で「新社会人の転職サービス登録が過去最多」っていう記事を見かけたんですけど、これを読んでいて、将来的には今とは違う状況になっていくかもしれないなと思ったんです。今日はその辺りを、歩きながら考えてみようと思います。

今の「超売り手市場」は、実は嵐の前の静けさかもしれない

まず記事の内容から確認しますと、転職サービス「doda」によると、4月にサービスに登録した新社会人は前年から13%増加して、なんと2011年の31倍になったそうです。社会人全体では7倍の増加なので、新卒の伸びが圧倒的なんですよね。

現状を整理すると、今の日本では自由にキャリアを選べる若手が昔よりも多く、それ自体は特に悪いことだとは思いません。同時に、新卒・若手の労働市場は「超売り手市場」になっていて、企業は人材確保に必死になっている状況です。

でも、ここで気になるのが、グローバルで起きていることとの違いなんです。

実は今、世界のでは全く逆のことが起きていて、AIの登場で新人の仕事がどんどんなくなっているんです。多くの専門家が、AIは今後エントリーレベルのホワイトカラー職を大幅に代替する可能性があると警告しています。

じゃあ、なんで日本だけ新卒が「超売り手市場」なのか?それは日本企業のAI活用が遅れていることと、日本特有の「メンバーシップ型雇用」が、まだAIの波から若者を守っているからなのではないかと思うわけです。

メンバーシップ型雇用という「防波堤」がなくなったら

ここで重要なのが、日本の雇用システムの特殊性です。メンバーシップ型雇用というのは「人に仕事をつける」システムなんです。つまり、まず人を採用して、その後で仕事を割り振る。

一方、欧米で一般的な「ジョブ型雇用」は「仕事に人をつける」システム。仕事の内容を定義して、それができるスキルを持つ人を採用する仕組みですね。仕事に人をつけるシステムである為、AIで仕事が無くなれば、そのポジションは採用をしなくなるので雇用が失われます。

で、ここがポイントなんですけど、もし日本企業が大々的にジョブ型に移行したら、一気にグローバルと同じ流れが来るかもしれない。つまり、「若い人の仕事はもうないです」っていう話になる可能性があると思います。

World Economic Forumの報告書によると、市場調査アナリストの仕事の53%、営業職の67%がAIに代替される可能性があるとされています。一方、管理職レベルだと9〜21%程度。

つまり、管理職レベルだと代替可能性は低いものの、通常職、例えばアナリストや営業職の場合はAI代替率が高いということ。ここから考えると、メンバーレベルの職種が代替される可能性が高く、それはすなわち若手が労働市場に入ってくる上で、以前よりも難しくなるということを示しているのではないでしょうか。

「お金を払って働かせてもらう」時代が来る?

ここからがちょっと想像力を働かせた話なんですけど、もし本当に若い人の仕事がなくなったら、どうなるか。

一つの可能性として、若い人はお金を払って仕事をさせてもらうっていうパターンが出てくるかもしれません。今でもインターンで無給っていうのはありますけど、それどころか「仕事の経験をさせてください」って言って、お金を払うようになるかもしれない。

だって、AIがほとんどの基礎的な仕事をやってしまうなら、人間が実務経験を積む機会自体が希少価値になるじゃないですか。そうなると、初期の経験とスキルアップの機会を労働者側が「買う」時代が来るかもしれない。

大学が「最初の仕事場」になる未来

そうなってくると、大学の役割も変わってくるかもしれません。今までは企業が新人に最初の仕事経験を与えていたけど、それができなくなったら、大学がその「初職」の機能を果たすことになるかも。

大学が企業との連携を深めて、共同研究や共同開発のプロジェクトに学生が実際に参加していく形式が増えるかもしれません。それが単なる「勉強」じゃなくて、実際のビジネスの一部として。

その中には、例えば大学内にプロジェクトマネジメント機能ができて、学生が実際のプロジェクトに参加するとか、あるいは大学がベンチャーキャピタルのような機能を持って、スタートアップ支援の実務を学生が担当するとか、そういう形もあるかもしれません。

工学部なんかだと、企業との共同研究がもっと活発になって、その研究開発プロジェクトに学生が実際の戦力として組み込まれるようになるかもしれません。試作品を作ったり、実験をしたり、データ分析をしたり。

もっと進めば、大学発ベンチャーがたくさんできて、そこで学生が「新人」として働く。給料はもらえないかもしれないけど、実際のビジネス経験が積める。そんな形になっていくかもしれません。

つまり、大学が教育機関であると同時に、「最初の職場」としての機能も持つようになる。そういう未来が来るかもしれないなと思うんです。

まとめ:日本企業が世界の若者の「希望の星」になる日

というわけで、今日は新卒の転職サービス登録最多という記事から、ちょっと先の未来について考えてみました。

ここで面白い逆転現象が起きるかもしれないと思うんです。

もしグローバルで若者の仕事がなくなったら、「スキルがなくても雇って育ててくれる」日本のメンバーシップ型企業が、世界中の若者にとって希望の星になるかもしれません。

ただ、現状でいくと、初職を日本企業で積んで、その後より待遇のいい会社に移っていくということになるのは目に見えています。だから、企業側は長期的に働いてもらうようなインセンティブ設計が必要になってくるでしょう。

一番大事なのは当然金銭的なものであり、長期に働くほど金銭的に見返りがあるような制度設計をすることが重要です。一方で、働きやすい職場環境や人間関係、つながりが築ける組織文化、そして意味のある仕事や社会に貢献できる仕事といった要素も欠かせないでしょう。

特に、社内でのソーシャルキャピタルが働く人の人生の幸福感に大きく貢献するような環境を整えることも重要です。多少の給与差があっても、職場での人間関係や居心地の良さが、転職を思いとどまらせる大きな要因になるかもしれません。

今は「転職が当たり前」の時代ですが、もしかしたら将来は「長期雇用してくれる企業」の価値が見直される時代が来るかもしれません。

みなさんはこの話、どう思いますか?もし「私はこう準備してる!」とか「この視点は違うんじゃない?」みたいな意見があったら、ぜひSNSでシェアしてコメントで教えてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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