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AIで作る「票を気にしない政治家」の可能性 – 歩きながら考える vol.88

2025.07.18 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今回は、民主主義的な熟考にAIを生かすアイデアについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日はコワーキングスペースから帰りながら、参議院選挙とAIについて考えたことを話してみようと思います。きっかけは日経新聞の記事を読んだことでした。SNSの投稿内容を分析したところ、外国人規制や消費税減税に関する投稿は選挙戦中盤になるにつれて数百万単位まで増えていくのに対して、社会保障の話は数十万単位、つまり10分の1程度で低調なんだそうです。これ、ちょっと考えさせられますよね。

社会保険料の重さを、みんな感じているはずなのに

サラリーマンの方なら毎月給与明細を見て感じると思うんですけど、社会保険料の負担って本当に重いですよね。手取りが思ったより少なくて、「え、こんなに引かれるの?」って。

先日、日本維新の会の街頭演説を聞く機会がありました。社会保険料を年間6万円引き下げるという主張をしていて、現役世代の負担軽減を前面に押し出していました。

でも正直、聞きながら「これは選挙戦でアピールするのは難しいだろうな」と思ったんです。だって、社会保険料を下げるなら、どこかで給付が下がるか、誰か他の人の負担が増えることになりますよね。「合理化で財源を生み出す」と言っても、本当にそれだけで目に見える金額を確保できるのか、聞いた瞬間に疑問に思ってしまいました。

ここで構造的な問題が見えてきます。選挙でアピールしにくい話題は、政治家が取り上げない。政治家が取り上げないから、人々の話題にも上らない。でも、実際に社会を回していくことを考えたら、それでいいわけがないですよね。誰かが本音の議論をしないと、問題は先送りされるだけです。

票を気にしなくていい「AI政治家」という発想

そこで、ちょっと突飛な考えが浮かんだんです。もしAIが政治家だったらどうだろう?って。

AIなら選挙で落選する心配がないから、不人気でも必要な政策を堂々と提案できる。例えば「このままいくと医療費負担がGDP比で15%に達します。そのうち何割かは政府負担で、財源は借金です。これは持続不可能です」みたいな、誰も言いたがらない現実を突きつけることができる。

人間の政治家だと、こういう話をした瞬間に「不安を煽るな」とか「対案を出せ」とか言われて炎上しちゃいますよね。でもAIなら、感情や票読みに左右されずに、データに基づいた冷静な分析を提示できる。人間の政治家が票を取らなければならない選挙戦をやっている裏で、AI政治家を数十人位作って、今の社会で本当は争点にされるべきイシューを議論している、などをしてみてはどうでしょうか。

「100人の村」で見える化する、負担と給付のバランス

負担の分配という議論は根本的に難しいですよね。誰かにどうしてもしわ寄せが行く。だから人間の政治家がやるのはとても難しい。だからこそ、AIの出番なんじゃないでしょうか。

日本を「100人の村」みたいに箱庭的に再現して、AIエージェントで動かしてみる。誰の負担がどれくらい上がって、それが耐えられるのか耐えられないのか。全体を見たときに「それはしょうがないよね」と納得できるのか、できないのか。

大事なのは、みんながシミュレーションを囲んで、その結果を見ながら議論することです。「この人たちの負担がこれだけ増えるのか」「でも、こっちの給付を維持するためには必要なんだな」みたいに、全体像を見ながら、熟考しながら納得していくプロセスが必要なんだと思います。

データと民主主義を両立させる、新しい政治の形

歩きながらこんなことを考えていて思ったのは、政治の世界にAIを使うことで、民主主義をさらに強化できる可能性があるということです。

これは「AI権威主義」みたいな話とは真逆です。AIに社会の方向性を丸投げして決めてもらうんじゃない。「おまかせ」でもない。むしろ、今まで感情や票読みで議論できなかったことを、データに基づいて冷静に議論できるようになる。それによって、民主的な議論の質を高められるんじゃないでしょうか。

選挙で票を失うのが怖くて誰も言えない本音の部分を、AIが代わりに提示し模擬議論してくれる。それを材料に、私たち人間が真剣に議論して決めていく。これって、今の日本でニーズがある領域なんじゃないかと思うんです。

研究者として、こういうテーマをもっと掘り下げていきたいなと思っています。みなさんは、AIが政治の議論に関わることについてどう思いますか?ぜひ意見を聞かせてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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