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民間企業で「仕事の意味」を感じるのは難しいのか? – 歩きながら考える vol.201

2026.01.05 渡邉 寧

今日のテーマは、自分の仕事に「意味」を感じることは難しいのか、という話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
(*文化以外のテーマを含む全てのブログは筆者の個人Webサイトで読むことが出来ます)

こんにちは。今日は移動時間を使って、最近関わっている研究プロジェクトから考えたことをシェアしようと思います。テーマは「仕事の意味感」について。大学のプロジェクトで教職員の皆さんの幸福度調査をやっていて、民間企業との違いがあまりにも大きくてびっくりしたんですよね。この違いから見えてきたことを、歩きながら考えてみます。

先生と民間企業、意味感の格差に驚いた

大学のプロジェクトで、教職員の皆さんの幸福度調査に関わっているんです。数千人規模のデータを分析していて、その中で一つすごく印象的だったことがあります。

それは、学校の先生と民間企業で働く人との「仕事の意味感」の違いです。

仕事に対する意味感、つまり「自分の仕事に意味がある」と感じる度合い。これは幸福感を構成する重要な要素の一つで、心理学ではユーダイモニア(人生の意味や目的による幸福)と呼ばれています。

で、一般的な企業で調査すると、日本人の仕事の意味感の平均はすごく低いんですよ。5段階評価で取ると、1とか2のところに一番大きな山があって、5と答えてる人はほとんどいない。「自分の仕事、別に意味ないよな…」って感じてる人が圧倒的であることが多いですね。

一方、学校の先生は全然違う。仕事の意味感がとても高い。これは、子どもを教育するっていう使命感と関係してるんだと思うんですよね。でも、意味感が高いことには別の側面もあって、長時間労働の問題とも複雑に絡み合っている。先生たちは大きな使命感を持ちながら、同時に健康リスクも抱えているという、なかなか難しい状況にあるわけです。

ただ、今回考えたいのはそこじゃなくて。民間企業で働く多くの人が「仕事に意味を感じない」というこの現実についてなんです。これって、どうにかならないんでしょうか?

教師という仕事は特殊なのか?

最初に思ったのは、「そりゃそうだよな。教師は特殊だもん」ってことでした。

子どもの成長に直接的に貢献できる仕事じゃないですか。昨日できなかったことが今日できるようになった、その瞬間を目の前で見られる。「人間の成長」という普遍的な価値に、毎日直接触れられる可能性が有る仕事です。

一方、民間企業での仕事は、貢献が間接的で抽象的なことが多いですね。「自分の仕事が誰の役に立っているのか」が見えにくいんですよね。大きな組織の中で、自分は歯車の一つという感覚。しかも目標として認識されていることが「売り上げ目標」「対前年度での成長」だったりすると、なかなか心から意味を感じるのは難しい。

だから、教師のような意味感は、教育や医療、福祉みたいに「直接的に人を助ける仕事」に特有のものなんじゃないか。民間企業で同じレベルを求めるのは、構造的に無理なんじゃないかっていう気もします。

でも待てよ…意味は関係性の中で作られる

でも、データをよく見ていくと、別の側面も見えています。

今回の調査で、教師の仕事の意味感と関係している要素を見ていくと、面白いことがわかりました。上位に並んでいるのは、保護者や子どもからの感謝教育委員会や管理職からの支援といった、関係性に関する項目なんです。

つまり、職場内外のステークホルダーと、思いやりや感謝といった良質な会話があるかどうか。そういうかなりソフトなコミュニケーションが、仕事の意味感と関係している構造が見えてきたんですよね。

教室で生徒から「先生、ありがとう」って言われたり、保護者から「いつもありがとうございます」って言われる。管理職から「最近頑張ってるね」「子どもたちに真摯に向き合ってるよね」って、存在を認めて認知してもらえる。こういう日々のコミュニケーションの中で、自分の仕事の意味づけが形成されていくんじゃないかと思うんです。

これって重要な示唆だと思うんですよ。仕事の意味って、仕事の内容そのものに内在している要素もあるけれど、周囲との関係性の中で共同で構築される部分も結構あるということじゃないかと思うわけです。

組織行動の分野では「ジョブ・クラフティング」っていう概念があって、同じ仕事でも意味づけ次第で自分の仕事に対する見方は変わるという研究があります。有名な例だと、病院の清掃員の話。ある人は「床を掃除する人」と思っているけど、別の人は「患者さんの治療環境を整える医療チームの一員」と思っている。仕事内容は同じでも、意味づけが全然違う。

この意味づけって、一人で勝手に思い込むだけじゃなくて、周囲とのコミュニケーションの中で形成されていく要素が結構大きいのではないかと思うんです。「あなたの仕事、こういう風に役立ってるよ」って言ってもらえる。「頑張ってるね」って認めてもらえる。そういうやりとりが積み重なって、自分の中での意味づけが固まっていく。

日本のような相互協調/集団主義文化だと、特に周囲とのコミュニケーションの中で仕事の意味づけが強化されたり、弱体化されたりする要素が大きいのではないかと思います。

組織のビジョンへの共感も、似たような構造だと思います。例えば、スティーブ・ジョブズが「世界を変える」って語ったことで有名ですけど、あれも一回のスピーチに感動したというよりは、その話が組織内の会話で繰り返し出てきたり、報道や広告を通じて見聞きする中で、じわじわと強化されていくものなんじゃないでしょうか。日々のコミュニケーションの積み重ねの中で、組織のビジョンと自分の仕事がつながっていく感覚が育っていく。

つまり、仕事の意味づけは周囲とコミュニケーションの中で作られる可能性が有る。

民間企業でも意味は作れる

じゃあ、民間企業でも仕事の意味感を高めることはできるのか? 答えは「できる」だと思うんです。ただし、教師のように自然に湧き出る意味とは違って、意識的な設計が必要になる。

まず第一に、仕事の意味づけを関係性の中で確認すること。関係性の中で、「私たちの仕事は○○の役に立っている」とか「僕らの仕事は○○のように社会を変える」とか、そういう意味づけを共有することが必要だと思います。日本の場合、さっき言ったように「仕事の意味」って個人がそれぞれ持つものというよりは、周囲から感化されたり、周囲に感化させたりして形成される要素が強いのではないかと思います。

そのうえで、今回の調査で見えてきたような、思いやりや感謝のある良質なコミュニケーションを、職場の中でどう作っていくか。上司が部下の努力を認める、同僚同士で感謝を伝え合う、顧客からの声を直接聞く機会を作る。こういうソフトな関わりを、仕組みとして意図的に設計していくんです。

それから、組織全体の設計も重要です。例えば、AIが普及すると間接業務が減って、ホワイトカラーの仕事は営業や意思決定みたいな、より人間的な判断が必要な仕事に集中していく。これは、仕事の意味づけ感が高まる可能性もあると思うんですよね。顧客と直接向き合う、重要な意思決定をする。そういう仕事の方が、「自分がやる意味」を感じやすいから。

もっと根本的には、所有構造を変えるアプローチもあります。従業員持株制度や協同組合のように、働く人自身が所有者になる。そうすると、「誰かのために」じゃなくて「自分たちのために」働く構造になって、意味の質が根本的に変わる。京セラの稲盛和夫さんのアメーバ経営も、各チームが疑似的な「経営者」になることで、歯車じゃなくて経営者としての意味を生み出す仕組みですよね。

こういう多層的なアプローチを組み合わせることで、民間企業でも意味感は高められるのではないかと思います。

可能性はある。でも、なぜできていないのか?

ここまで考えてきて思うのは、民間企業でも仕事の意味感を高めることはできるってことです。教師のように自然に湧き出る意味とは質が違うかもしれないけど、意識的に設計すれば作れる。

でも、多くの日本企業ではそれができていない感じがするんですよね。

なぜなんでしょう? 今のところの仮説としては、いくつか理由があるように思っています。

一つは雇用流動性の低さ。日本企業の多くは終身雇用的な構造が残っている。そして、年功賃金で、中年以降になると新しい環境に移る経済的リスクがあって動けない。そうすると、本来は別の組織や別の仕事に移った方が意味感を感じやすい場面において、フィット感のない仕事をし続けることになります。

二つ目は成長を促す仕事設計とAI活用の問題。AIを使えば間接業務を減らして、より意味を感じやすい仕事に人を集中させられるはずなのに、そういう仕事の再設計ができるかどうかちょっと微妙な感じがします。

三つ目はリーダーシップの理想と現実のギャップ。仕事の意味づけを語るリーダーシップの重要性はわかるのだけど、実際にはリーダー自身もそういう人前でビジョンを語るみたいなことに躊躇することが少なくない。あるいは、語っても形骸化して組織内の日々の会話に浸透していかない。

この辺りの構造的な問題を一つずつ解きほぐしていく必要がありそうです。

というわけで、今日は「民間企業で仕事の意味を感じるのは難しいのか?」っていう問いを、教職員の幸福度調査から考えてみました。答えは「難しいけど、設計すればできる」。そして、その鍵は関係性とコミュニケーションにあるってことですね。

もしこの記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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