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「ご確認ください」メールが本当に嫌いな理由 – 歩きながら考える vol.245

2026.03.11 渡邉 寧

今日のテーマは、仕事のメールでよく見る「ご確認ください」という表現について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
(*文化以外のテーマを含む全てのブログはnote上で読むことが出来ます)

こんにちは。今日もちょっと歩きながら、最近モヤモヤしてることを話してみようと思います。テーマは、仕事のメールの文末によく出てくる、「ご確認ください」という一言について。自戒も込めた話なんですけど、この表現について、ちょっと深く考えてみたいなと。

便利で丁寧な定型表現

まず大前提として、「ご確認ください」って、日本のビジネスメールにおいてはほぼ定型表現ですよね。資料を添付して、文末に「ご確認お願いいたします」と添える。丁寧だし、押しつけがましくないし、相手に判断の余地を残す配慮ある表現だと思います。

「これでお願いします!」と断定的に言うよりも、「ご確認ください」の方がソフトだし、相手の立場を尊重している感じがする。日本語のビジネスコミュニケーションにおいて、これは非常によくできた表現だと思うんですよ。たぶん、みなさんも毎日のように書いたり受け取ったりしてるんじゃないでしょうか。

実は、この表現が我慢できないくらい嫌い

ところが、ですね。正直に言うと、僕はこの「ご確認ください」が我慢できないくらい嫌いなんです。

お客さんやプロジェクトメンバーから、資料が添付されたメールが来て、文末に「ご確認くださいませ」と書いてある。これを見ると、もう反射的に嫌な気持ちになるんですよね。なんでこんなに嫌なのか、ちょっと考えてみたんです。

で、気づいたのが、この表現が責任の放棄、あるいは責任の押しつけに見えるということ。つまり、「あなたがこれを確認しましたよね」「確認して何も言いませんでしたよね」という、何かあった時の免責の布石にどうしても見えちゃうんですよ。あなたの成果物なのに、なんでその責任をこっちに押し付けてくるの? という気持ちになる。

もちろん、送っている側にそういうつもりがない場合もあると思うんです。単純に意見が欲しいだけの場合もある。いいものを作りたいから、「もっとこうした方がいいよ」というアドバイスが欲しくて「確認お願いします」と言っている。一方で、「これで正しいかどうかの最終判断はあなたがしてください」という意味で言っている場合もある。

問題は、「ご確認ください」だと、どっちなのかがわからないということなんです。意見を求めているのか、判断の責任を渡しているのか。この曖昧さの中に後者の匂いを感じ取ってしまって、すごく嫌だなと感じてしまう。しかも、体感的には後者のケースの方が多い気がするんですよね。

なぜこんなに引っかかるのか:自律性という価値観

この不快感、おそらく価値観と深く結びついています。

個人主義的な価値観においては、自律性(オートノミー)がとても重要なものとして位置づけられます。エドワード・デシとリチャード・ライアン(Deci & Ryan)が提唱した自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)という、人間のモチベーションに関する有名な理論があります。この理論では、人間の基本的な心理的欲求として自律性(Autonomy)、有能感(Competence)、関係性(Relatedness)の3つが挙げられています。自分の行動を自分の意志で選択・決定できるかどうかが、やる気や幸福感に大きく影響する。自律性は、幸福に直結すると考える研究者がいるほど重要なコンセプトなんです。少なくとも個人主義においては。

この価値観のもとでは、自分の仕事に対してオーナーシップを持ち、自分で判断し、自分で責任を取るということが極めて重要な美徳になります。だから、それに反するような素振り――つまり、自分が出したアウトプットの最終判断を他者に委ねるような態度――を見せる人に対して、評価が極めて低くなるし、場合によっては怒りすら覚える。僕が「ご確認ください」に反射的に嫌悪感を持つのは、こういう個人主義的な価値観のフィルターを通して受け取っているからなんだと思います。

言い方を変えるだけで、気分がまるで変わる

じゃあ、どうすればいいのか。少なくとも個人主義的な文脈で仕事をする場合は、言い回しを変えた方がいいと思うんですよね。

例えば、こういう書き方はどうでしょう。

「こういう考え方でこの資料を作りました。現時点で自分が出せる最善のものだと思っています。ただ、この部分がちょっと弱いかもと感じているので、もしお気づきの点があればぜひご意見をいただけると助かります。」

こう書かれると、受け取った側はどう感じるか。まず、送り手が自分のアウトプットにオーナーシップを持っていることが伝わる。その上で、より良くしたいから意見を求めている。確認する側としては、「十分良いと思います」と返すかもしれないし、「ここはもうちょっとこうした方が良いのではないでしょうか?」と意見するかもしれない。

面白いのは、やることは「ご確認ください」と言われた時と一緒だということなんですよ。中身を確認して、良ければ良いと言うし、足りなければ改善点を伝える。行動としては同じ。でも、取り組む時の気分がまるで違うんですよね。

「ご確認ください」だと、「なんで私が最終チェックしなきゃいけないんですか?」という気持ちが湧く。でも、「自分なりに最善を尽くしましたが、ご意見があれば」と言われると、「なるほど、一緒にコミットしていいものを作ろう」という気持ちになる。同じ行為なのに、依頼の仕方ひとつでコラボレーションの質が変わる

もちろん、これは個人主義的な文脈で仕事をする場合の話です。日本の集団主義的な文脈では、「ご確認ください」が最終判断を上位者に委ねる適切な振る舞いとして機能している場面もあるでしょう。大事なのは、自分が今どちらの文脈で仕事をしているのかを自覚すること、そして、その文脈に合ったコミュニケーションの取り方を意識的に選択することなんじゃないかと思います。

 

まとめ

というわけで、今日は「ご確認ください」というたった一言のビジネスメール表現から、文化的な価値観の違いまで、歩きながら考えてみました。たかがメールの定型文、されど定型文。みなさんは「ご確認ください」、どう感じますか?

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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