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交渉力を鍛える – 異文化ネゴシエーションのコツ

2020.08.12 渡辺 寧

交渉(ネゴシエーション)のコツは文化によって変わる

仕事をしていると、色々な場面で「交渉(ネゴシエーション)」が発生します。顧客との商談は交渉ですし、協力会社とも交渉になるし、また社内の他部署との役割分担の際にも交渉が発生する事があります。その為、仕事における交渉力を鍛えることはとても重要です。

特に海外との交渉では、日本とは異なる作法があり、その為、そうした文化によって変わるネゴシエーションのコツを知っておくことが必要です。下記の本は、ホフステード・インサイツのJean-Pierre CoeneとMarc Jacobsによる”Negotiate like a local”という本ですが、世界の7つの文化圏ごとに変わる交渉の仕方の違いをまとめています。

(“Negotiate like a local -7 Mindsets to increase your success rate in international business” Jean-Pierre Coene & Marc Jacobs)

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは国によって変わる国民文化を数値化する研究を行ってきました。この本は、ホフステードの6次元モデルのスコアを元に、世界を7つの文化圏に分け、それぞれの文化圏における交渉の仕方を、交渉に至るプロセスから交渉後のプロセスまで含めて解説しています。

コンパクトな本で、海外での交渉力を鍛える必要のある人にとってはとても参考になる本だと思います。

協調的か?競合的か?交渉(ネゴシエーション)の仕方は文化の影響を受ける

上記の本は、ビジネスの現場でトレーニングを行う立場から書かれたものですが、異文化環境におけるネゴシエーションの違いについては、学術研究の世界でも研究の蓄積があります。

今回は、2019年の研究論文で、文化によって交渉の仕方がどのように変わるのかを定量的に調査した研究をご紹介します。

これは、“Journal of Business Research 99 (2019) 23-36”に載った論文で、Andrea Caputo, Oluremi B Ayoko, Nii Amoo, Charlott Menkeの共同執筆。”The relationship between cultural values, cultural intelligence and negotiation styles”という論文です。

交渉スタイル(Negotiation Style)において、協調的交渉スタイル(Cooperative Negotiation Style)と競合的交渉スタイル(Competitive Negotiation Style)は異なる2つのスタイルとして認識されます。

この研究では、交渉者がどちらの交渉スタイルを取るかの選択は、国民文化の価値観によって変わるという大きな仮説のもと、ホフステードの軸のそれぞれがどのように影響するかという詳細の仮説を立てています。また、CQ(Cultural Intelligence:文化的知性)が、交渉スタイルの選択において媒介変数として働いているのではないか、と考え、この点も検証をしています。

ホフステードの6次元モデルは国レベルのスコアなのですが、これを個人レベルの価値観のスコアとして調査するスケールを開発する別研究があり、CVSCALE(Yoo et al., 2011)としてまとめられています。このスケールとCQ、更に交渉スタイルに関する設問を含めた調査紙を作成し、2016年に403人への質問紙調査を行い、結果を分析しています。

結果、国民文化の価値観の違いが交渉スタイルの選択の差に繋がることが示唆される結果が出ています。全体の結果については、論文を読んでいただくとして、個人的に面白いなと思ったところをピックアップします。

①権力格差(PDI)と男性性(MAS)が高いと、競合的交渉スタイルに繋がる

まず、権力格差(PDI)と男性性(MAS)が高い場合、競合的交渉スタイル(Competitive Negotiation Style)を取る傾向に繋がることが明らかになりました。

これは良くわかる結果だと思います。権力格差が高いということは、権力分布の不平等さを受け入れるということなので、相手の上から強い態度で出ていくということは日常的に良く見るのであろうと考えられます。また、男性性が高いということは、勝つことにこだわるということなので、これも競合的交渉スタイルに繋がるのは良くわかる。

例えば、中国文化は権力格差が高く(PDI=80)、男性性も高い(MAS=66)ので、競合的な交渉スタイルを取りやすくなると推測されます。中国企業とのネゴシエーションはしばしば非常にタフになり、高度な交渉力が要求されることが言われますが、ここには中国の文化的背景があることがわかります。

②集団主義は協調的交渉スタイルを取る傾向にあるが、交渉相手のCQが高いと競合敵交渉スタイルを取る

更に、この調査で非常に面白いな、と思ったのが集団主義・個人主義(IDV)と交渉スタイルの選択の関係。直接の効果としては、IDVが低い、すなわち集団主義の価値観を持つことは協調的交渉スタイルの選択に繋がることが明らかになりました。

一方、ここが非常に面白いと思ったのですが、CQが媒介変数として作用していて、CQが高い場合は競合的交渉スタイルを選択する、という関係性になっている。

集団主義の価値観を持っている場合、通常は周囲の人の利害や感情を気にして協調的交渉スタイルを取るのですが、CQが高い人(文化交流における認識や感度が高く、異文化状況におけるグループ規範や信念や価値の知識を持ち、文化の違いを学習する動機付けを持ち、異文化背景の人達との対応において適切な言語的・身体的反応を起こせる人)は競合的交渉スタイルを取るというのです。

中国でタフなネゴシエーションの場に遭遇したら、その交渉相手はCQが高い人かもしれない

上記の研究結果を見て、個人的に中国人の交渉スタイルを思い出し、なるほどね、と思いました。

先ほども述べたように、中国人とのネゴシエーションが難しい、という話は、極めてしばしば聞く話です。中国はIDV=20で集団主義なので、傾向としては協調的交渉スタイルを取る力学も働くことが想定されますが、同時に、権力格差と男性性が高いので、競合的交渉スタイルを取る力学も働きます。

その為、中国でのネゴシエーションは、競合的な場になることも協調的な場になることもあるわけですが、実際には、非常にタフな交渉の場に遭遇するという話も多く聞きます。

中国文化については先日別の記事を書きましたが、日本人としては、中国人のこうした交渉態度の選択の背景にあるメカニズムを理解したい。

中国人を動かすメカニズム|近くて遠い中国文化

中国ビジネスをされている方から、 中国人との交渉が難しいというお話をしばしば伺います。決め事がコロコロ変わり、厳しい要求をしてくることも多い。アメリカ人も厳しい要求を突き付けてくることがあるが、中国人も同様に 厳しい要求を突き付けてくる 、というお話です。 …

今回ご紹介している研究結果を元に、中国とのネゴシエーションを再度振り返ると次のようなことになります。

すなわち、中国は、権力格差と男性性が高いので、元々、競合的交渉スタイルを取る傾向にあるわけですが、同時に集団主義なので、協調的交渉スタイルを取る傾向も持っている。そして、集団主義的価値観を持つ人にとって、競合的交渉スタイルを取るかどうかにはCQが影響している。

その為、もし、日本人が中国とのネゴシエーションの場で、タフなネゴシエーション(競合的交渉スタイル)を仕掛けられたとしたら、まず第一に、目の前の中国人交渉者はCQが高いのかもしれない。相手は、文化的な差を良くわかった上で、敢えて競合的な態度を取っているかもしれないということです。

上記の以前記事で書きましたが、中国では「「知人→関係(クアンシー)→情誼(チンイー)→帮(パオ)」という構造の内集団を形成しています。我々の多くはその内集団の外の人であるため、そのネゴシエーションに至るまでの関係構築の過程が大切になります。タフなネゴシエーションを仕掛けられているということは、その場に至るまでの過程の中で、こちらは内集団には入れられないと判断され、競合的な態度を選択的に取られているのかもしれません。

また、この調査では、CQとホフステードの軸の関係において、集団主義と長期志向がCQに影響することも示されています。中国は国民文化自体が集団主義(IDV=20)で長期志向(LTO=87)なので、CQが高くなる素性が元々あるのかもしれません。

文化に対する感度をもう一段上げた交渉力を鍛える

ネゴシエーションに関しては、学術研究の蓄積も溜まっており、そうしたものを見れば見るほど、優れた交渉者となるためには、もう一段の文化知識と感性が必要だと感じます。海外でビジネスを展開する機会が増え、また国内においても内なる国際化が進む中、こうした交渉力を鍛えることは必須の知識・スキルとなると感じます。

異文化環境における交渉力を鍛える為には、そもそもそれぞれの文化の人たちがどのようなメカニズムで物事をとらえ、行動しているかを知っておく必要があります。英語やその他の外国語ができることは、当然、ネゴシエーションの場における交渉力にはプラスになりますが、言語だけでは強い交渉力とはなりません。

体系的な異文化理解をするに当たっては、体系的なモデルを学習することが有効で、ホフステードモデルはその為の良い補助線となると思います。(*ご興味のある方は、ホフステード・インサイツ・ジャパンで定期的に開催している異文化マネジメントの研修にお越しください)


WRITER

渡辺 寧

Hofstede Insights Japan 取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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