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デンマークのヒュッゲ(HYGGE)のご紹介 vol.3 – デンマークのヒュッゲを異文化の視点で見てみよう

2022.05.16 祖父江 玲奈

デンマークのヒュッゲを異文化の視点で見てみよう

デンマークの
ヒュッゲ(HYGGE)のご紹介

vol.3

デンマークのヒュッゲを
異文化の視点で見てみよう

デンマークの価値観”ヒュッゲ”について、デンマークという国の国民文化、という視点から読み解いていきたいと思います。ヒュッゲを作り出してきた文化的背景という一面を通して、理解を深めたいと思います。

私は、異なる文化環境において企業がどのように経営を行うべきか紐解いて考える、異文化理解についてのファシリテーターをしています。

自分自身のグローバルビジネスの経験として、14カ国から400人のメンバーが東京に集結した大規模プロジェクトや、アメリカやイギリス、インド、中国やブラジル等で世界各国の市場調査・インタビューなど、いろいろ経験してきました。異なる文化環境での仕事は、思ってもみないトラブルがたくさん起こります。進め方の認識がズレていることをわからないまま仕事が何週間も停滞したり、思うように回答が得られずにイライラしたり、、、

グローバルな仕事での困った経験をもとに、いろいろな国の人が関わるビジネスで起こりうる問題に、異文化理解というアプローチで取り組んでいます。

オランダの国際経営学者 ヘールト・ホフステード博士は国民文化を数値化する研究をしています。社会に共有される複雑な価値観を、6つの切り口から複合的に見ることで、異なる文化を相対的に理解することができるモデルです。
このホフステードモデルの分析を通じて、デンマークの国民文化の特徴からデンマークのヒュッゲを分析していきたいと思います。

ホフステード6次元モデル

デンマークと日本のスコアを見てみましょう。特に大きく異なる4つの次元で見ていきます。

デンマークと日本の国民文化スコアの比較
デンマークと日本の国民文化スコアの比較
出展)Hofstede Insights Group

ここから見えるデンマークの国民文化の特徴は3つあります。

1. 人生で大切なのは、生活の質

女性性・男性性について、デンマークは女性性文化の特徴があります。女性性文化では他者(特に弱者)への配慮と生活の質が重視されます。男性性文化では成功者となること、競争に勝つことが重視されますが、女性性文化ではみなが平等に受け容れられるべきと考えます。

女性性文化を持つデンマークでは、生活の質の高さが、人生の成功を意味します。ヒュッゲを大切にする、一番大きな文化の特徴だと思います。みなに幸せな生活を送る権利がある。自分も幸せな生活を送れるようにヒュッゲな時間を持とう、ヒュッゲな時間を過ごすのはいいことだ、と感じる価値観です。

2. 平等で、自立した個人

デンマークのもう一つの特徴は、個人の自律性を重視していることです。デンマークは個人主義で、すべての人は平等に自分の考えを持ち、自分自身に対する責任を持つ存在と考えられています。権力格差も低く、組織や権威より、個々人の独立性・自律性を大切にし、個人として社会的責任を全うすることが大切にされています。

個人主義では、自分のことを自分で決める権利があります。自分の感じる幸せは、どんな時間だろう。誰と過ごそうか、それとも一人で。ヒュゲリな時間は、自分自身で作ることができるのです。みんな一人一人が自分で自分を幸せにする、という文化背景がヒュッゲにはあるのです。

3. 新しいことへの好奇心

不確実性の回避が低いデンマークは、不安が少なく、構造化や規律に依存しない文化です。新しいものへの好奇心が自然と強く、若い時から好奇心を持つことが推奨されます。

デンマークの好奇心は、新しいものや革新的なものを尊ぶ文化です。デザインやイノベーションへの関心の強さは、生活そのものをクリエイティブにしよう、というライフスタイルにつながっています。日々の中を豊かにしていく、様々なヒュッゲを楽しむ文化なのです。

デンマークは人との関わりを大切にする社会

こうして文化的背景から見ると、デンマークの国民文化では、みなが平等に幸せになる権利がある、という考え方が強いのがわかります。個人はその責任として、自分自身、そして周囲の人と幸せでいるよう、人との関わりかたを身につけ、社会とつながっていくのです。

デンマーク語にdannetという言葉があります。直訳すると形成された、教育された、という意味になりますが、デンマークでは学校や社会経験を通じて、一人前の人間として社会や人との関わりを持つことができる(=社会的責任を果たせる)ようになった、という意味があるそうです。
この言葉を実感する仕組みの一つが、エフタスコーレです。エフタスコーレは中学のオルタナティブ教育の学校です。9年生の1年間を同級生とともに寮で生活します。実習の多い学習スタイルで、先生との関わりも密接です。

エフタスコーレに入学すると、14歳で親元から離れ、同級生と相部屋で暮らします。自分のコミュニケーションスタイルはどうか、新しい友達を作る中で経験しながら学びます。最初は独りぼっちになってしまう子もいますが、みな先生や友達から学び、どのように他者と関わればいいのか、覚えていきます。

リスコウ・エフタスコーレ

冒頭の写真は昨年滞在したリスコウ・エフタスコーレの調理コースの生徒が10−20代 若者向けの料理体験イベントに参加したときのもの。自分たちから参加者に話しかけるのは最初はドギマギしていたけど、だんだんと話が弾んで、素晴らしい笑顔になりました!(写真はFacebookより)

人は一人では生きられない。だからこそ、社会の中で、どう人と関わっていくのか。自分はどんな関わり方をしているんだろう、と考えること。それがdannet(自立した大人)ということなんだ、と私の友人は教えてくれました。
(教育システムとしてのフォルケホイスコーレやエフタスコーレについては、また後日書きたいと思います)

人とつながる幸せを味わうヒュッゲ

”ヒュッゲ”はまさに、この文化を反映しています。人とつながること、そして幸せになること。この価値観が、ヒュッゲ=人とのつながりから生まれるほっとする居心地の良さ・幸福感、を支えているのだと思います。

エフタスコーレのリビングルームとして使われる談話室の様子は、まさにヒュッゲでした。ジュースやお菓子を用意して、みんなで集まって、おしゃべりしてのんびりと過ごす。なんてことない時間だけど、友達がいて、美味しいものがあって、みんなでのんびりと楽しむ。
それは自分がここにいていいんだな、と感じる瞬間。

一人一人に、社会につながる役割がある。
そして一人一人に、幸せになる権利がある。

それがヒュッゲを大切にする文化的背景なのでは、と思います。


祖父江 玲奈

ファシリテーター

中央大学総合政策学部卒業。アクセンチュアにて、組織戦略、組織設計、人材開発戦略を中心とするコンサルティング業務に従事。多くのインターナショナルプロジェクトに参画する。その後、日産自動車株式会社にて、女性のお客様をターゲットとした商品開発を担当。グローバル共通/地域固有でのお客様調査、また男女差の科学的分析に基づいて多くの提案を行い、商品を実現した。商品開発でのアイディア創出プロセスにおいて、論理的・俯瞰的視点による多面的分析力、また画像/ビジュアルイメージやプロトタイプを通じた複合的な情報収集(キュレーション)のプロセスが、新しい商品像を生み出すために非常に重要であることを発見。イノベーションを生み出すアイディア創出方法を構築中。
青山学院大学ワークショップデザイナー講座 修了。デンマークデザインスクール KaosPilot Creative Leadership course 修了。シータヒーリング認定インストラクター/プラクティショナー

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