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グローバルな「上司力」の磨き方

2019.02.17 渡辺 寧

日本の上司は海外で通用するか?

先日、異文化マネジメントのワークショップをしていた時に、中国人の参加者の方が日本人の上司についてこんなことを言っていました。

「中国では部下は上司に従うが、肩書がある上司に必ずしも従うわけではなくて、人として信頼している上司の言うことは聞くということ。兎に角、人としての信頼が大事。日本人はそこの理解が足りない

日中ともに、多くの組織では組織の階層を上がれば権力を持つことになります。日中両方の組織を経験している、この中国人の参加者の方からすると、上司(権力者)のあるべきイメージが日本と中国でずれているようで、どうしてもその点を声に出して日本人の参加者に伝えたくなったようでした。

好まれるリーダー像は文化によって異なる

ホフステードの理論が本当に面白いなと思うのは、組織論などの経営理論を見る際に、国民文化というメタの視点を提供してくれる点です。例えば、ここしばらくの間、リーダーシップに関わる理論は経営の現場においても大きく注目を集めますが、ホフステードは、

「リーダーシップに関して書かれた経営学の一般的な文献はリーダーシップは「従う者」がいてこそ存在可能であることをしばしば忘れている」(出典「多文化世界」)

と述べます。

どのようなリーダーシップが有効であるかは、その場のフォロアーの期待リーダー像に強く影響を受けます。よって、どのようなリーダーシップが有効かを知るためには、まずそのリーダーシップを発揮しようとしている場のフォロアーの期待リーダー像を知る必要があります。

巷に氾濫している多くのリーダーシップ理論やマネジメント理論は、その多くがアメリカを出自としています。その為、アメリカの文化的背景であれば有効に作用することはわかるが、その他の文化で同様に作用するかどうかは保障できないものが多くあります。

例えば、「参加型マネジメント」という考え方があります。管理職の裁量と主導によって、意思決定に部下を参加させるマネジメントのアプローチですが、これはスカンジナビア半島周辺では、アメリカと同じ形式では展開されないとホフステードは言います。スカンジナビア半島周辺国はアメリカよりも権力格差が低く、管理職の裁量と主導が無くても、メンバーはどんどん意思決定に参加してきます。こうした状況は、「管理職の特権」の侵害に映り、アメリカの管理職には受け入れられないだろうというのがホフステードの評価です。

逆に、権力格差がアメリカよりも高い国においては、アメリカ的な「参加型マネジメント」は、

「権力格差の大きい職場に慣れ親しんだ部下にとって、上司が歩み寄ってきて意見を求めると当惑してしまうだろうし、無能な上役として軽蔑してしまう」(出典「多文化世界」)

と述べています。

部下はどのように動機付けられるのか?

組織において、部下をどのように動機付けるか、は上司にとって非常に重要かつ頭の痛い問題です。そのため、動機付けに関しても多くの理論が提出されていますが、ホフステードはこの動機付け理論に関しても文化の影響を指摘します。ホフステードは、

「動機付けについての仮定が異なれば、動機付けの理論も異なる」(出典「多文化世界」)

と言い、

「熱心に仕事に打ち込む人がいたとして、その人がアメリカ人なら報酬を得るため、フランス人なら名誉のため、中国人なら恩に報いるため、デンマーク人なら同僚と助け合うためだと説明するのである」(出典「多文化世界」)

と言います。

部下の動機付けに関するホフステードの調査では、国民文化によってどのようなタイプのリーダーが部下の満足感と生産性を上げるのかを明らかにしています。

この調査によると、フランスのIBM技術職員は、説得力があり温情主義的な上司だと思う時に最も満足度が高まり、イギリスドイツでは部下に意見を求める民主的な上司が好まれ、ペルーでは緻密な管理を行う上司が好まれ、インドでは兄のように接してくれる現場の主任のもとで働いたときに最も満足感と業績が高いことが分かったそうです。

上司として、どのように部下と接するのが動機付けに繋がるかは文化依存的であり、働く環境におけるフォロアー側の期待リーダー像を理解することなく、自身のリーダーシップ行動を決めることはできません。

ホフステードモデルは、こうしたフォロアー側の期待リーダー像を理解するうえでとても役に立つ補助線を引いてくれます。6つの次元を組み合わせ、その文化において、どのような暗黙の前提が上司や組織に対して持たれているか、それを知ることによって「効果的な上司としての行動」が明らかになっていきます。

経営においてはPDCAと言いますが、海外で上司となる方々は、自らの上司としての行動に関してもPDCAを回すことで、上司力は磨かれていきます。


渡辺 寧

代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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