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日本人の有休消化率は低い
旅行会社のExpediaが世界30カ国で実施した有給の取得に関する国際調査によると、日本人の有給消化率は50%で、これは30カ国中最下位の数字だったそうです。最下位になるのは2年連続で、この結果を受けてExpediaは「日本人は世界一の休み下手」と述べています。(出所 有給休暇国際比較調査2017 Expedia)
確かに、制度上付与されている有給を使い切らないというのは、もったいない話ではあります。しかし日本で働いていると、この「有給を使い切らずにもったいない」という気持ち以上に、有給を取ることの「罪悪感」を感じてしまうことが多いようです 。Expediaの調査でも、日本人の回答者の63%の人が有給取得に罪悪感を感じると答えているそうで、これは調査対象30カ国の中で最も高い数値になっているそうです。
有休消化率の低さの背景には個人主義と集団主義の差がある?
Expediaの調査によると、日本人が有給を取ることに罪悪感を感じる背景の1つは人手不足のようです。自分が休むと業務が回らないという環境ではなかなか有給は取れないでしょう。
日本人の有給消化率が低い理由には、こうした労働環境面での課題がありますが、同時に物理的な環境とは関係のない、文化の要素があるように思います。例えば有給を取らない理由の回答として、このExpediaの調査では「職場の同僚が休んでいないから」というものがTop3の理由の1つとしてあげられていました。
個人主義の文化では、これは有給を取らない主要な理由にはなりません。制度で認められているのであれば、どのように休みを取るかは個人の意思がまず尊重されます。職場の同僚が休んでいないことは、休みに関する個人の意思決定に大きな影響は持ちません。ホフステードの6次元モデルによると、日本の個人主義・集団主義のスコアは46です。これは日本文化が、完全に集団主義とは言えないが、やや集団主義寄りの傾向を持っていることを示しています。集団主義の文化においては、個人の意思の前に集団の意思が尊重されるため、個人としては自分だけ休みを取ることに対して躊躇を感じます。
そもそも、休みの取り方は国によって異なる
こうした休み方に対する文化の影響は、日本だけでなく世界各国で見られます。
Expediaの調査は有給に関するものですが、国毎の休みの状況は有給と週末と祝祭日を合わせて考える必要があります。 人事コンサルティング会社のマーサーは、世界福利厚生調査データで世界各国の祝祭日の状況を公表しています。
出所: 「マーサー、年間祝祭日数世界ランキングを発表 2014年9月10日」
2013年のデータではありますが、これによると日本の祝祭日は年間15日。これは、日本が公表されている64カ国中、3番目に祝祭日の多い国であることを示しています。現在は日本では8/11の山の日など更に祝祭日が増えており、年間17日が国が決めた休みになっています。このことから、日本人は個人で有給をとって休むというよりも、国が決めた休日に従って休みを取る傾向にあるように見えます。
年度が違うデータではありますが、この祝祭日のデータと、先ほどの有給消化日数データを足し合わせると、日本の年間の実休日数(土日を除く)は25日。有給の消化率では日本は最下位でしたが、実休日では日本は最下位ではありません。シンガポールが25日で日本と同一で、メキシコとアメリカは日本よりも休んでいないことがわかります。
(出所 Expedia 2017, Mercer 2014 HIJ分析)
下の図は、縦軸にその国の祝祭日の日数を、横軸にその国での平均消化有給日数をとって、国をプロットしたものです。この12か国の縦軸・横軸の平均日数で便宜的に4つの象限に分けると、日本は左上の象限に属し、似た国として韓国やインドがあることが分かります。これらの国の休み方は、有給での休みはあまり多くなく、決まった祝祭日で休む、という形になります。
(出所 Expedia 2017, Mercer 2014 HIJ分析)
右上の象限は、有給をしっかりとり、祝祭日も多い国(=非常によく休む国?(笑))です。ここにはスペインが居り、ブラジルも境界線上に居ることがわかります。
右下の象限は、国の祝祭日は少なく、有給はしっかりとる国で、フランス、イタリア、オーストリアが入ります。これらの国の休み方は日本とは反対で日本よりも1週間程度祝祭日が少ない代わりに、かなり長い有給をしっかり取っています。
左下の象限にはシンガポール、米国、メキシコが入り、これらの国は祝祭日も少なく有給取得も少ない国になります。日本人は働きすぎという印象がありますが、こと休日日数だけに関して言えば、これらの国の方が日本より働いているということになります。
権力格差の高い国では祝祭日が多く、個人主義の国では有給取得日数が多い
日本は祝祭日で休むパターンの国ですが、韓国やインドも同様のパターンで休んでいることからもわかるように、ここには日本独自の休み方というよりも文化パターンの影響が見え隠れします。
ホフステードは6つの次元(①権力格差、②個人主義・集団主義、③男性性・女性性、④確実性の回避、⑤短期・長期志向、⑥人生の楽しみ方 )で各国の文化のスコアを表しています。このホフステードの6軸のスコアそれぞれと、各国の祝祭日数の相関係数を出すと、祝祭日数は①権力格差と正の弱い相関があり(r=0.29)、②個人主義・集団主義と負の相関がある(r=-0.41)ことがわかります。
権力格差の高い国では、国がいつ休むのかを決めて一律に休ませる傾向にあることが分かります。また、個人主義の国では決められた祝祭日は少なく、個々人が有給を取って休みます。(有休消化日数と個人主義スコアの相関係数は0.31で弱い正の相関がみられます)
日本でも、もっと個人の自由と責任で休みを設定できるはず
日本の権力格差スコアは54で、個人主義スコアは46。これは日本が、若干権力格差が高く、若干集団主義の傾向があることを示しています。
日本では台風が来た際など、交通機関の混乱が予想される時でさえ、在宅勤務命令や帰宅命令が出ない限りは会社で仕事をする、という人が多く見られます。休みに関しても同様で、「休んで良い」という明確な指示が無いと休みにくいと感じる人が多いのは、日本文化の「若干の」権力格差・集団主義の文化が影響しているように思います。
と同時に、日本はそこまで明確な高権力格差・集団主義の文化ではありません。よって、合理的であったり、周りの納得が得られるのであれば、個人の責任のもと、各自の判断と都合で休んでも、周りはあまり気にしないというのが実態でしょう。
空気を読むのは日本文化の特徴ですが、多くの人が空気を読みすぎているように思います。日本文化は不確実性を嫌う文化でもあるので、少しでも「ダメなんじゃないか」と思うと行動しない傾向にあり、それが空気の読みすぎを引き起こしているように思います。
Expediaの調査では、「上司が有休を取ることに協力的か「わからない」」と答えた人が33%に上り、有給の取得に関して明確な話し合いと合意が出来ていないことが示されていました。
日本文化では、欧米ほどではないにしろ、一定程度の個人のイニシアチブは自然なものとして受け取られます。あまり空気に支配されすぎず、きちんと話し合い、仕事の責任を果たしつつ休みは自分の都合で取る。日本でもそういうやり方は可能なのではないかと思います。
渡辺 寧
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。