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日本企業の外国人活躍推進 – 外国人受け入れ態勢をどう作るか?
外国人社員の増加は、
ダイバーシティ経営推進のチャンス
川崎重工業・神戸製鋼・住友電気工業・ダイキン工業(敬称略/五十音順)の
外国人社員向けホフステード異文化理解ワークショップを実施
増え続ける外国人社員
2019年の厚生労働省調査によれば、2018年の外国人労働者数は約146万人で、前年より14.2%の増加になっているそうです。これは2007年に外国人労働者の届け出が義務化されて以来、過去最高を更新する結果とのことです。(「外国人雇用状況」の届出状況のまとめ 厚生労働省)
下表は、内閣府が取りまとめた外国人労働者数と就業者全体に占める外国人労働者割合ですが、一貫して外国人労働者数は増加し、また就業者全体に占める割合も増加していることが分かります。
【図1】外国人労働者数の推移と就業者全体に占める割合
日本の労働人口の減少を背景として、外国人社員の活用を求める企業・組織は増加しています。先の厚生労働省の調査でも外国人労働者を雇用する事業所数は約22万カ所と、前年同期の11.2%増となり、こちらも過去最高を記録したそうです。
日本企業が外国人社員を受け入れる難しさ
今後も外国人社員の活用は、継続的かつ着実に増加していくことが見込まれます。一方で、外国人社員の受け入れを進めることの難しさも聞こえてきます。コストも労力もかけて採用したにも関わらず、全く定着せずに失敗であったという事例も散見され、働く現場におけるダイバーシティ問題の難しさを改めて認識させられます。
日本文化の特殊性は、ホフステード6次元モデルの日本のスコアからも明らかです。この日本文化の特殊性は、日本企業における働き方や仕事の進め方において極めてしばしば観察されます。例えば、日本企業では、仕事において空気を読んで、重要な会議の前に根回しをするということを当たり前に行いますが、どのように空気を読むのか、どのように根回しをするのが有効なのか、は外国人社員にとっては当たり前のことではありません。
外国人社員、つまり、日本文化とは異なる文化的背景を持つ人材の採用を増やし、活躍して貰う為には、こうした日本文化の特殊性を組織側と外国人社員側が理解した上で、どのような関係で働いていくのかということについて相互が納得していく必要があります。
ホフステード6次元モデルを使った日本文化理解のワークショップ
ホフステードの6次元モデルは、異なる文化を相対的に理解し対話するメソッドとして日本でも様々なケースで使われるようになってきました。外国人社員も、組織の方々(人事をはじめ受け入れる側の各部署の方々)も、同じ軸の理解の元で対話することが出来るため、日本文化の当たり前と、それ以外の文化の当たり前が異なるということを極めて分かり易く理解することが出来ます。
文化は、良い・悪いはなく、ただ違うだけのものです。外国人社員に日本文化を教え込み、日本人になってもらうわけではなく、文化の違いを前提として、その上でどのように働いていくのか、何を変え、何を変えないのか、ということを話し合う機会を作っていくことが大切です。
外国人社員の増加は、組織の中に価値観の多様性をもたらします。先の読めない社会では、組織内の多様性が大変重要になります。異なるものの見方をする多様な人材を組織内にどれだけ多く確保し活躍してもらうか。それが出来るか出来ないかによって事業の先行きに大きな影響が出てきます
川崎重工業・神戸製鋼・住友電気工業・ダイキン工業(敬称略/五十音順)の
4社合同でのワークショップ
今回、ホフステード・インサイツ・ジャパンでは、川崎重工業・神戸製鋼・住友電気工業・ダイキン工業(敬称略/五十音順)の4社の外国人社員の皆様向けに、合同での1日異文化ワークショップを開催しました。20代前半から30代後半の約30人のご参加で、出身国は中国・韓国・タイ・インド・台湾・シンガポール・マレーシア・フィリピン・ミャンマー・ドイツ・フランス・イタリアと12か国に及びました。言語は英語と日本語を織り交ぜた形式での実施となりました。
外国人社員から見た時の日本企業で働く際の困りごと
ワークショップ実施に先だって、参加者の方々には事前アンケートを取り、外国人社員のメンバーが職場においてどのような点で課題を感じているのか調査をしました。その結果のまとめが下記なのですが、最も多い課題は「コミュニケーションの仕方」であることが分かります。また、「仕事の進め方」「社外での人間関係作り」に関しては半数以上の参加者が何らかの課題を感じていることが分かります。
【図2】外国人社員が日本企業で働く際に感じる課題
「コミュニケーションの仕方」に関しては、「曖昧な表現が多すぎて、聞けば聞くほどポイントが捕まえられなくなります」と言った声や「日本人が本音と建前を使い分けるということは分かるのだが、それはどうやったら見分けられるのでしょうか?」と言った声が聞かれました。
「仕事の進め方」に関しては、「小さなことを気にしすぎている。細かいことに時間をかけすぎ」といったことや、「リスクを負いたくない上司がいる」といった点に関する指摘がありました。また、「社外での人間関係作り」に関しては、「社外の人と交流する機会があまりない」といった声が出ていました。
こうした事前調査を元にして、ワークショップではホフステード6次元モデルの基本的な内容をレクチャーした上で、日本企業で働く際によく直面するビジネスケースを使ったグループワークを行いました。
「コミュニケーションの仕方」も「仕事の進め方」も「人間関係の作り方」も文化によってやり方に違いがあります。6次元モデルを使うことで、日本文化における標準的なやり方とその他の文化におけるやり方の違いを明確に理解することが出来ます。参加者は「なぜ、自分の職場で日本人があのような言い方をするのか。なぜあのような働き方をするのか」ということについて体系的な理解をしていました。
日本人になるのではなく、それぞれの良さを生かした外国人活躍推進を
1日のワークショップを終え、参加者からは「理解が難しい人の行動を文化の観点から考えることが出来た。チームの中に馴染みやすくなると思う」といった声や、「6次元モデルは、仕事に当てはめることが出来る素晴らしいプラットフォームだ」といった声が出ていました。
異文化ワークショップを通じて大切なことは、外国人社員を日本文化に染めることではありません。モデルの視点で日本文化を相対的に理解し、その上でそれぞれの文化的背景を持つ外国人社員の一人一人が自分たちの良さを生かした貢献が出来るようになるよう支援することです。人は誰しも、自分と異なるものには違和感を感じ、排除しようとする傾向があります。
外国人社員は、日本文化が圧倒的多数派である環境に飛び込んできたわけであり、ある意味、文化的なマイノリティです。多数派に馴染もうとすることはごく自然な行動ではありますが、組織としてはこれは少々勿体ない。多様な価値観は、不確実な時代において、新しい観点やアイデアに繋がる可能性があります。集団として動く以上、外国人社員も組織社会化の過程を経るわけですが、その過程は日本人化である必要は無く、組織としての目的を達成する為、多様性を保持した上での組織社会化であって欲しいと願います。
渡辺 寧
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。