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今日のテーマは東アジアの少子化が特に急速である件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
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こんにちは。今日は移動時間を使って、少子化について考えたことを話してみようと思います。先日もフランスや北欧で少子化が再加速しているという話をしたんですが、今回は東アジアの状況について。2025年6月6日の日経新聞の記事を読んで、これはちょっと深刻だなと思ったので、歩きながら考えてみます。
教育費が高すぎて、子どもを諦める東アジア
東アジアの少子化の原因って多岐に渡ると思うんですけど、教育費負担の重さは結構大きな理由っぽいんですよね。
日本の出生率1.15、韓国は0.75でOECD加盟国で唯一1を切ってる、中国も2024年の出生数が954万人で2016年のピークから半減。この数字、ヤバくないですか?
最近、知り合いから塾の代金聞いてびっくりしたんですけど、月10万とか普通にあるじゃないですか。年間120万円。子ども2人いたら240万円。そんなお金、どこから出るのって思いません?
で、なんでこんなに教育にお金かけるのかって考えると、やっぱり「いい大学に入って、いい会社に入って」っていう、昔からのルートの存在感が大きいんだろうと思うんですね。
韓国のドラマとかNetflixでよく見たりするんですが、いい大学入って、財閥系の大きな会社に入って、その中で出世競争を生き抜いて、みたいなメインストリームが描かれてて、それに対する反抗心というか、アンチテーゼというか、そういうものを描いているのを見ますよね。そういうドラマが共感を呼ぶとしたら、それはとりもなおさず良い大学・良い会社というルートが厳然たる存在としてあるということの証左なのだろうと思います。
権力格差が生む「上昇志向の呪縛」
ここでホフステードの文化次元理論の話をちょっとしたいんですけど、「権力格差」っていう指標があります。これ、社会の中で権力の不平等がどれくらい受け入れられているかを示す指標で、中国は80、韓国は60、日本は54。
権力格差が高い社会だと、社会の上位に移動することが富の源泉になる。でも同時に、上に行けば行くほど席の数は減るので、競争が激烈になる。さらに厄介なのは、権力格差が高い文化では、親が子どもに「ちゃんとした教育を与えなければ」と思うのも一種の規範、つまり「そうしなければ親失格」みたいな圧力になっているようですね。
アメリカでも学歴競争は厳然とした事実としてありますが、同時に流動性が高いので、学歴を高めるタイミングにはもっと幅があると思います。必要な時に必要な学位を取ってポジションを上げて行くスタイルだと思います。
これ、文化として社会の常識みたいになっているから、個人の選好とは関係がありません。
この上昇志向の意識自体は変えようがないので、このままいくと、どこまで行っても子供の競争は緩くはならず、親のプレッシャーもなくならず、少子化は止まらなさそうです。だから、少子化対策の一つとして、親のプレッシャーを下げるには別のアプローチが必要なんだと思います。つまり、「万が一上に上がれなかったとしてもいいじゃない。普通に食べていけるんだから」という状態を作る。そうしないと、怖くて子どもなんて持てないでしょう。
「食える仕事」を増やすには金がかかる
じゃあ、どうやって「普通に食える仕事」を増やすのか。
今の社会を見ていて、仕事自体はたくさんあります。むしろ人手が足りないくらい。問題は賃金水準が低すぎることです。例えば介護職。人手不足で大変なのに賃金が上げられない。なぜかって、介護報酬を国が決めちゃってるから。賃金を上げるには介護報酬を上げる必要があって、そのためには税金を投入しないといけない。医療スタッフも同じ構造です。
食糧生産だって、所得補償をすれば農家の収入は安定するけど、それには予算が必要。
教師の話もしましょう。今、教師には残業代がまともに払われてない。でも民間企業並みに払ったら、教師は100万人くらいいるから、年間1兆円規模の残業代が必要になる。教師の仕事は、本当は次世代の子どもたちを育てる意義深い仕事なのに、労働条件がブラックすぎて教師になりたいという人が減っているそうです。
要するに、国の支出をこういうところに振り分けられれば、「普通に食える仕事」は増やせる。でも、その予算はどこから出すのか?という問題に突き当たる。
防衛費GDP比5%?その金で何ができるか考えてみた
ここで別の話が絡んでくるんですけど、トランプ大統領がNATO加盟国に国防費GDP比5%を要求してて、アジアの同盟国にも同じ水準を求めるって言ってるんです。
日本の防衛費って、2025年度でGDP比1.8%。これを5%位にするってことは、年間15~20兆円くらい追加で必要になる。
15~20兆円ですよ?さっき言った介護報酬の引き上げ、医療スタッフの待遇改善、農業の所得補償、教師の残業代、全部出来そうな金額じゃないですか。
中国だって、これから膨大な高齢者を支える社会になるのに、軍事費増やしてる場合じゃないでしょう。韓国も出生率0.75なんて危機的状況で、防衛費どころの話じゃない。
そう考えると、東アジアで安全保障体制を作って、各国が軍事じゃなくて内政、特に少子化対策に金を使えるようにした方が、よっぽど合理的じゃないですか?
「男らしさ」の競争をやめて、東アジア少子化共同体をつくる夢
もう一つ、ホフステードの話をすると、「男性性」っていう指標があって、日本は95と突出して高く、中国も66で高いんです。男性性が高い文化では、競争や成功を重視する傾向が見られるわけですが、軍事の領域で「あっちがやるなら、こっちもやったるぞ」みたいな反応は本当にやめて欲しい。軍拡競争なんてやってる場合なのか、と思います。
ここで思い出すのが、1954年の「ロバーズケイブ実験」です。社会心理学者のシェリフらが行った実験で、少年たちを2つのグループに分けて競争させたら激しい敵対関係が生まれた。でも、その後がすごいんです。両グループが協力しないと解決できない「上位目標」、例えば壊れた給水タンクを直すとか、動かなくなったトラックを押すとか、そういう課題を与えたら、敵対関係が協力関係に変わっていったんですよ。
これ、まさに今の東アジアじゃないですか。日中韓が軍事で競争してる限り対立は深まる一方。でも「少子化」っていう、各国が直面している共通の危機があるわけです。これこそ「上位目標」として、協力のきっかけになり得るんじゃないでしょうか。
ホフステードの男性性・女性性って、必ずしも性差やジェンダーの話じゃないんですけど、でも各国のリーダーが男性中心じゃなくて女性中心になったら、もしかしたら「競争より協調」っていう方向に変わるかもって思っちゃいますよ。日本も中国も男性性高いから、なおさらそう感じます。
まとめ
というわけで、今日は東アジアの少子化について、教育費の話から始まって、権力格差、食える仕事の創出、防衛費との兼ね合い、そして文化的な競争心理まで、歩きながら考えてみました。
日中韓って、歴史問題とか領土問題とかでいがみ合ってるけど、少子化問題に関しては完全に「同じ船」に乗ってる。原因も似てる。権力格差があって、教育競争が激しくて、若者が将来に希望を持てない。
だったら、この問題では協力できるはずなんです。軍拡競争なんてやめて、その金で「普通に食える仕事」を増やして、子どもを産み育てられる社会を作る。それが本当の意味での安全保障じゃないでしょうか。
もしこの記事読んで何か思うところがあったら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。こういう大きな問題こそ、みんなで考えていく価値があると思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い