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今日のテーマはAIによって、知的好奇心があればいくらでも主体的に学べる時代になってきた件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
(*文化以外のテーマを含む全てのブログは筆者の個人Webサイトで読むことが出来ます)
こんにちは。今日は駅から家に向かって歩きながら、ちょっと気になる記事について考えてみようと思います。最近読んだ朝日新聞の記事(2025年9月11日)で、図書館にAI司書が導入されているという話を見かけたんですけど、これがなかなか示唆に富んでいて。歩きながら、これからの学びの形について考えてみたいと思います。
AI司書が変える図書館の風景
まず記事の内容をざっくり説明すると、図書館で本を探すときにAIが手助けしてくれるサービスが広がり始めているという話なんです。
面白いのは、ヴィアックスが主催する「L-1グランプリ」という司書のコンテストに、SEKITOBAという会社が開発した「AI司書SHIORI(シオリ)」がゲスト参加したところ。「映画化された恋愛小説なんですが、タイトルがわからなくて…」みたいな曖昧な相談でも、ピンポーンと正解を言い当てちゃうんだそうです。
で、ここで重要なのは、このAI司書って特定の図書館の蔵書に依存しないってことなんですよね。つまり、どこの図書館にいても、専門的な知識を持った優秀な司書さんのサポートを受けられるようになる。地方の小さな図書館でも、都心の大規模図書館と同じレベルの検索支援が受けられるって、これめちゃくちゃ大きな変化じゃないですか。
自己主導型学習時代がやってきた
でも、本当に考えなきゃいけないのはここからなんです。
AIが「めちゃくちゃ頭のいい家庭教師」みたいになって、24時間365日、いつでも質問に答えてくれる時代。これって、学習の主導権が完全に個人に移るってことなんですよ。学校のカリキュラムとか、先生のペースとか関係なく、自分が知りたいことを、知りたいタイミングで、どんどん深掘りできる。
子どもの教育で考えてみると、例えば恐竜が好きな小学生がいたとして。今までだったら、図書館で恐竜の本を何冊か借りて終わりだったのが、AIに「なんで恐竜は絶滅したの?」「隕石ってどのくらいの大きさだったの?」「今も恐竜の子孫っているの?」って、疑問が湧くたびに質問していける。しかも、その子のレベルに合わせて説明してくれる。
社会人の学びも同じですよね。仕事で新しいスキルが必要になったとき、今までだったらセミナーに申し込んで、決まった日時に、決まった内容を学ぶしかなかった。でも今は、通勤電車の中でも、昼休みでも、自分のペースで必要な知識を吸収できる。
知的好奇心格差という新たな分断
ただ、ここで新しい問題が生まれてくると思うんです。それが「知的好奇心格差」。
自己主導型の学習って、結局「自分で問いを立てられるか」にかかってるじゃないですか。好奇心旺盛で、「なんで?」「どうして?」って聞きまくる人は、AIという最強のパートナーを得て、どんどん成長していく。一方で、そもそも疑問を持たない、質問することに慣れていない人は、このツールを活かせない。
これ、従来のデジタルディバイドとは違う種類の格差なんですよね。スマホは持ってる、インターネットも使える、でも「何を聞けばいいかわからない」。学校教育でも、今まで以上に「問いを立てる力」が重要になってくるんじゃないでしょうか。
ちなみに、研究者の世界では既にこの恩恵をフルに受けていて。職場の幸福について研究するにしても、経済学、心理学、医療、経営学…いろんな分野の知見を横断的に集められるようになった。問いを中心に研究を進める研究者にとっては、本当にいい時代になったと思います。
まとめ:好奇心を育てる社会へ
というわけで、今日はAI司書の話から始まって、これからの学習がどう変わっていくのか、歩きながら考えてみました。
自己主導型学習の時代は、確実にやってきている。でも、それは同時に「知的好奇心格差」という新しい課題も生み出している。「問いを立てる力」「疑問を持つ習慣」が持てるかどうかで、大分人生が変わってきそうな気配を感じます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い