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東アジアでAI経営者が早く受け入れられると思う理由- 歩きながら考える vol.143

今日のテーマは、中国のとあるゲーム会社で採用されているAI CEOが好評だという件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
(*文化以外のテーマを含む全てのブログは筆者の個人Webサイトで読むことが出来ます)
こんにちは。今日も移動時間を使って、ちょっと面白いニュースから考えたことを話してみたいと思います。テーマは「AI上司」について。最近、中国の企業で導入されたAI CEOの話を聞いて、これは東アジア特有の現象かもしれないなって思ったんですよ。歩きながら、そのあたりを考えてみます。
AI CEOが社員から「公平で信頼できる」と評価される
きっかけは、2025年9月30日の日経新聞の記事です。中国福建省のオンラインゲーム開発会社、ネットドラゴンWebソフトが、2022年からAI CEO「唐鈺(タン・ユー)」を導入しているという話。全社の業務データを学習して、社員の評価やフィードバック、プロジェクト管理までこなしているそうなんです。
で、何が興味深いかって、平均年齢30歳の4000人超の社員が、このAI上司を高く評価してるってこと。結果に不服を申し立てるケースはほとんどないらしいんですよ。記事によると、理由は「人間の上司だと私情が入るけど、AIなら成果に基づいて公正に評価してくれる」から。
これ、すごい逆説的じゃないですか。AIって冷たいとか人間味がないって批判されがちなのに、実際には「人間より信頼できる」って言われてる。この現象、僕は東アジア、特に中国で発生していることに意味があると思うんです。
なぜ東アジアでAI上司が受け入れられやすいのか:アニミズム的世界観
AI上司の導入って、おそらく東アジアの方が欧米より早く進むんじゃないかと僕は見ています。その理由の一つが、AIに対する文化的な捉え方の違いなんです。
AIの文化差に関する研究によると、東アジアと西欧では、AIやロボットへの態度が根本的に違うそうです。東アジアは「メンタライゼーション」、西欧は「ヒューマナイゼーション」というアプローチをとる傾向があると。
メンタライゼーションっていうのは、要するに「ものにも心が宿る」というアニミズム的な世界観に基づいてるんですね。山や木に神が宿るって考え方、日本人にはピンとくるじゃないですか。人間じゃないものに対しても、対等な存在として心や意識を認める感覚。だから、AIに対しても「共存する存在」として受け入れやすい。
一方、ヒューマナイゼーションは、「それがどれだけ人間に近いか」で判断する。でも常に人間が一段上にいるっていう前提がある。この背景には、キリスト教的な世界観があるんじゃないかと文化研究では言われています。人間は神に似せて作られた特別な存在で、他の被造物より上位にいるっていう思想ですね。
だから、西欧では人間に近いけど人間じゃないAIに対して、「不気味さ」とか「脅威」を感じやすいのではないかと言われています。ターミネーターやマトリックスみたいな「AIが人間を支配する」恐怖がはもしかしたら西欧の方が強く持っているのかもしれません。
東アジアではドラえもんみたいに友好的なAIが親しまれるけど、西欧では敵対的なAI像が主流。この違いが、AI上司の受容にも影響してるんじゃないかと思います。
もう一つの理由:内集団・外集団のドロドロした人間関係
それからもう一つ、もっと現実的でドロドロした理由もあると思うんですよ。それが内集団・外集団の政治です。
中国みたいな集団主義の社会では、内集団と外集団の区分けがすごくはっきりしてますね。で、中国の場合、その内集団の基盤が「血縁関係」なんですね。つまり、同じ会社の中にも、複数の内集団が存在しています。
集団主義では、内集団のメンバーに利益を与えるのは当たり前。採用や昇進で自分たちの身内を引き立てる。その代償として、外集団の人は犠牲になる。だから、もし自分の上司が別の内集団のメンバーだったら? 自分の評価がとんでもないことになる可能性がある。そりゃ怖いですよね。
この構造って、日本人にはちょっと理解しづらいかもしれません。なぜなら、日本の伝統的な大企業では、「会社」そのものが内集団として機能してきたから。同じ会社のメンバーは利害を共有してる、みたいな感覚がある。もちろん派閥争いは日本でもあるので、その延長で考えれば、中国の社内における内集団政治が理解しやすいかもしれません。
結局、一番怖いのはAIじゃなくて人間なんですよ。集団主義の文脈だと。身近にいる誰かが裏切ったり、はめてきたり、ハシゴを外したりすることの方が、よっぽど脅威。だったら、私情を挟まず成果だけで公平に評価してくれるAI上司の方がマシ、って感覚になる。これ、すごく納得できる話じゃないですか。
まとめ:AI上司は希望か、それとも…
というわけで、今日は中国のAI CEOから始まって、東アジアでAI上司が受け入れられやすい文化的・社会的背景まで、歩きながら考えてみました。アニミズム的世界観と、内集団・外集団の政治。この二つが重なって、「AI上司の方が信頼できる」という逆説的な状況が生まれてる。
もし、この記事が面白いと思ったら、ぜひSNSでシェアしてくれると嬉しいです。みなさんは、AIが上司になる未来、どう思いますか? コメントで意見を聞かせてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い