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「静かな退職」は本当に悪者なのか?職場で歩きながら考えてみた – 歩きながら考える vol.15

今日のテーマは「静かな退職」。職場で、必要以上に頑張らない、という働き方を意識的に選ぶケースが見られるそうです。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
歩きながら考えるvol.15「静かな退職」は本当に悪者なのか?職場で歩きながら考えてみた
こんにちは。今日はいつものように歩きながら、最近気になったテーマをゆるく話してみようと思います。テーマは「静かな退職」。先日、朝日新聞をパラパラ見てたら、「会社は辞めないけど…「静かな退職」 頑張らない働き方、共感広がる」という記事が目に入りました。
雇用や働き方の話しは、文化の違いと紐づけて考えると面白いので、今回はその話をシェアします。
「静かな退職」って何?衝撃の6割データ
まず、「静かな退職」って聞いたことありますか?英語だと “Quiet Quitting” って言うらしいんですが、簡単に言うと「決められた仕事はやるけど、それ以上は頑張らない」みたいな状態。日経MJが報じていた働きがいのある会社研究所の調査だと、各年代の2~6%程度は、そのようなメンタリティで働いていて、35歳以上でその割合が前回よりも増加しているとのことでした。
また、そもそも、多くの人は「できることなら働きたくない」と思っているようで、上記の朝日新聞の記事で紹介されていたマイナビの調査では「30代から50代の正社員の6割が『できることなら働きたくない』と考えてている」そうです。
寝起きに記事を読んでいて、「え、6割もいるの…?」ってちょっと驚きました。

とは言え「静かな退職」ってそこまで変な話しではないかも
記事読んで最初は「だいぶ熱意が失われているんだな・・・」と思ったんですけど、よくよく考えたら、「いや、ちょっと待てよ」と。これ、そこまで特殊な話しではないかもしれない、と思ったんです。
たとえば、アメリカだと働き方に「エグゼンプト」と「ノンエグゼンプト」っていう区分があります。公正労働基準法によって決まっている残業代などの取り決め規定の適用が「免除される(エグゼンプト)」管理職や専門職は、給与制で残業代なし。「免除されない(ノンエグゼンプト)」は時間給で、決められた仕事をやって残業代をもらうタイプ。もともとは、労働基準法上の労働者の区分けの言葉なんですが、それが、より高い責任と権限でより高い給料でキャリアを築くキャリアと、決められた仕事をきちんと行い、時間見合いの対価を貰うキャリアの違いに関係しています。

日本だと、1985年の男女雇用機会均等法以前の「一般職/総合職」や、現在の「正規/非正規」「地域職」のような区分けはあるかもしれませんが、これらは全国的な労働基準法上で残業代の扱いが明確に決められているアメリカほど区分けが明確ではなく、ホワイトワーカーの正社員の中のキャリアの区分けがアメリカほど明確ではないのかもしれません。
そう考えると、「指示された以上のことはやらない」というのは、ノンエグゼンプトの働き方の基本線で、それほどおかしな話しではないのかもしれないと思ったわけです。権限が無いのに、決められた仕事の枠外のことをするというのは、却って変な話しに見えるかもしれません。
一方で、エグゼンプト的なキャリアを選択しているメンバーが「静かな退職」になっちゃうと、これは話は別かもしれません。事業改善や新規事業のアイデアって、エンゲージメントの高い状態の人から出てくるので、静かな退職状態の人が増えるとと会社が停滞してしまう。
つまり、「従業員」と一括りにして、「静かな退職」の割合を語るよりは、もう一段、働く人のセグメントを細かくして、分析した方がよりよい示唆になるのではないか、と思ったわけです。
日本とアメリカ、働き方のギャップが鍵?
個人主義の社会になってくると、一人一人が求める働き方が変わってくるので、エグゼンプト的に働くのか、ノンエグゼンプト的に働くのかという個人の選択に幅が出てきます。一方、日本の場合はそこまで個人主義が徹底している社会ではありません。ホフステード指標で言うと、日本は個人主義スコア(IDV=46)で個人主義の文化ではなく、同時に男性性(MAS=95)の文化の為、集団として何か高い目標を追い求めようとする文化的傾向があります。
そんな文化背景の中で、「私は言われたことだけやります。それ以上の頑張りたいという気持ちはありません」と言われると、言われた方は「そんなんで良いのか?」とモヤモヤするのかもしれません。「集団で、一丸になってみんなで頑張るんだ!」という状況に価値観(集団主義×男性性)からすると、「指示されたことはしっかりやりますが、それ以上働く意思はありません」という意見表明は価値観に反しますよね。
まとめ:歩きながら見えた「静かな退職」の別の顔
というわけで、今日は「静かな退職」を歩きながら考えてみました。6割が「働きたくない」って衝撃から始まって、「でも、それって当たり前なのでは?」というところに一旦着地しました。日米の働き方の違いと文化の関係が面白いポイントでした。
もしあなたの中で、「うちの職場でも『静かな退職』っぽい人いるな」とか「『静かな退職』に関して自分はこう思うな」って思ったら、ぜひSNSでシェアしてアイデア教えてください。
最後まで読んでくれてありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い