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今日のテーマは、日本企業のAI活用における経営層の役割について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
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こんにちは。今日も仕事と仕事の間に散歩をしながら、ちょっと考えたことを話してみます。きっかけは、2月27日の日経新聞に載っていた記事。PwCコンサルティングが48の国と地域、約5万人を対象に実施した「グローバル従業員意識/職場環境調査『希望と不安』2025」の結果を紹介したもので、職階ごとの生成AI使用率を日本とグローバルで比較しているんですが、これを見ていて色々考えちゃったんですよね。
日本の職場とAIは「相性が良い」はずだ
僕は前から、日本の職場とAIの相性は良いんじゃないかと思っているんです。この手のテクノロジー導入に関して日本が保守的で遅いというのはわかっている。でも、本質的には合っていると思う。
というのも、日本の職場って、書類仕事や細かい情報の整理、複雑な情報共有や承認取得のプロセスがやたらと多いじゃないですか。今まさに年度末で、僕も経費精算をやらなきゃいけないんですが、大量のペーパーワークが出てきて、何人もの人が書類を集めて、チェックして……。こういう作業こそAIが入ったら劇的に楽になりそうだし、みんな潜在的に「なんとかしたい」と思ってるんじゃないかと。
しかも、日本はメンバーシップ型雇用のところが多い。欧米で一般的なジョブ型雇用の社会では、AIで自分の職務が自動化されたら解雇に直結しかねないから、現場主導でのAI導入へは抵抗が出そう。AIによる労働力の代替は利益に直結する話だから、経営層のトップダウンでのAIの置き換えは進むだろうけど、現場の協力が無い中でAI導入ってほんとに上手く行くのかな、という疑問がある。でも日本のメンバーシップ型なら、ポジションがなくなっても他の仕事をすることが期待される。自分の仕事をAIで合理化してもクビにはならない。だったら、AIの侵食を拒絶するみたいな話にはなりにくいはずで、ジョブ型の社会よりも相性が良いと思うわけです。

ただし、個人の工夫だけでは変えられない
ただ、この「相性の良さ」を活かすには、1つ大きな条件があると思っています。それは、個人ではなく組織全体のオペレーションが変わることです。
多くの若手・中堅社員は、元々あった組織のオペレーション全体の中に入って、そこで仕事を覚えて、慣れて、回せるようになって、それで給料をもらっている。経費精算にしても、データ入力にしても、自分の業務は前後の工程や他の人との協働の中に組み込まれている。自分のところだけAIで効率化しても、全体のプロセスが変わっていなければ結局うまくいかない。そもそも、毎日の業務を回すので精一杯で、オペレーションのより良いやり方を考える余裕やアイデアがある人は、そんなに多くないかもしれません。
さらに文化的な要因が重なります。ホフステードの指標で見ても、日本は個人主義の社会ではない。仮にアイデアがあったとしても、「もっとこうした方がいいのに」と声を上げにくい。角が立つのは嫌だし、わがままだと思われたくない。だから我慢して、「まあ、こんなもんかな」と受け入れてしまう。営業やコンサルタントのように「一国一城の主」的に動ける人はAIを自分の判断で導入できるけど、組織のオペレーションの一部として働く大多数の人にとっては、個人の工夫だけではどうにもならないわけです。

だからリーダーの旗振りが必要だ
そうなると、この状況を変えられるのはリーダーです。リーダーは全体のオペレーションを見渡せる立場にいる。「この経費精算のフロー、AIで再設計しよう」「この承認プロセス、自動化できるんじゃないか」と、組織全体の仕組みを変える旗を立てられるのは、経営幹部しかいない。「うちはこうやっていこう!」という明確な旗印が立てば、みんな動きやすくなるはずなんです。
ところが、ここにもう1つの壁がある。
今回のPwCのデータを見ると、旗を立てるべき経営幹部自身のAI経験が足りない。調査によれば、生成AIを毎日使っている経営幹部は日本で約2割にとどまります。「この業務フロー、AIで再設計しよう」という具体的な旗振りをするには、自分で使い倒した経験が要る。でも、その経験がない経営幹部が大半だとしたら、旗の振りようがない。
さらに文化的な壁もあります。日本の組織は、ホフステードの研究で見ると権力格差がそこまで高くない。世襲の企業などを除くと、社長がトップダウンでどんどん進めるというよりは、集団指導体制というか、権力が分散している。仮にAIに詳しい経営幹部がいたとしても、明確な一本の旗が立ちにくい構造があるわけです。

追い風なのに、帆を張る人がいない
結局、現場には余裕がなく、声を上げにくい文化があり、経営幹部にはAI経験が足りず、権力は分散していて旗が立ちにくい。何重もの壁で現状維持になってしまう。
これ、すごくもったいないと思うんです。本質的には、若手・中堅が担っている定型業務こそAIで大幅に効率化できる可能性があり、メンバーシップ型雇用なら浮いたマンパワーを別の事業や新しい取り組みに振り向けられる。職場のブルシットジョブを減らして幸福度を上げる、大きなチャンスなのに。追い風の条件は揃っているのに、帆を張る人がいない。
だからこそ、経営幹部には本腰を入れてほしい。それができないなら他の人に交代した方がいいとすら思います。経営幹部のAIリテラシーは、今この瞬間、組織の競争力と従業員の幸福度の両方に直結しています。
というわけで、今日は日経新聞の記事から、日本の職場とAIの「相性の良さ」と、それを活かすために何が必要かについて歩きながら考えてみました。もったいないなと思うんですよね。みなさんの職場ではいかがでしょうか?
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてもらえると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い