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歩きながら考える vol.3 – 管理されるほど自律が高まる? ギグワーカー研究が示す逆説

2025.03.08 渡邉 寧
「歩きながら考える」vol.3

このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。

歩きながら考えるvol.3管理されるほど自律が高まる? ギグワーカー研究が示す逆説

ギグワーカー研究を見ていて驚いたこと

えー、どうもこんにちは。今日はですね、ギグワーカーの研究について、ちょっと歩きながらお話ししてみようと思うんですよ。ギグワークってわかりますかね?短期間や単発の仕事を受けて報酬を得る働き方ですね。代表的なところで言うと、Uber Eatsなど。最近はタイミーなどの「スキマバイト」が広がっているので、こちらの方が一般的かもしれません。

これから、ギグワークが更に広がりそうな気配を感じていて、ギグワーカーの幸福感に興味があって調べてるんですね。で、このギグワーカーについての研究を調べていたら、ちょっと面白いことがわかったんです。

何が面白いかっていうと、「アルゴリズミック・マネジメントを受けるほど、自律性を感じる」っていう逆説的な現象なんですよね。「アルゴリズミック・マネジメント」というのは、Uberなどのシステムから仕事の依頼を受けたり、作業手順を教えてもらったり、仕事の評価を受けたりする、システムによるマネジメントのことです。

普通に考えると、アルゴリズムによるマネジメントって、すっごい細かく管理してきそうじゃないですか。で、「管理されれば管理されるほど、自律的には働かなくなる」って思いますよね。

実際、ちょっと前の研究を見ると、アルゴリズムによるマネジメントの負の側面が報告されていました。ところが、最近の実際の調査を見ると、アルゴリズムから細かい指示をバンバン受けているはずの配達員の方々が、「意外と自分は自律的に仕事している」って感じてるっていうんですよ。

ギグワーカー研究を見ていて驚いたことイメージ

選択すると自律性を感じる

これ、どうしてこうなるかっていうと、「選択する機会」が影響しているらしいんです。

アルゴリズミック・マネジメントを受ける側の対応には大きく2パターンあるらしいんですね。1つは、アルゴリズムの指示にそのまま従うやり方。「このルートで配達してください」「この案件受けますか?」って聞かれたら「はいはい」って受けるわけですね。でも、その際に必ず「この仕事を受けるかどうか」っていう選択が入るじゃないですか。ここで「なるほど、これで大丈夫だ」「よし、やろう」って自分で判断してる感覚が生まれるんですよ。それが結果として自律性を高めるらしいんです。

もう1つは、アルゴリズムの“裏をかく”やり方です。例えば、ワーカー用アプリだけじゃなくて、お客さん用のアプリも立ち上げて「どこで高い料金が設定されてるか」を探りながら、自分に有利な仕事を狙う。いわばアルゴリズムの盲点を突くわけですけど、これも「自分で工夫して稼ぎ方をアレンジしている」っていう手応えがあるんですよね。だから、こっちも自律性を感じる。

つまり、管理されてるようでいて、あちこちで「選ぶ」行為が頻繁に発生しているから、それが自分なりの判断をしている感覚につながっている。で、人間のマネージャーと違って、アルゴリズムはものすごく頻度高くオファーを出してくるわけですよ。「この配達、どう?」「こっちもあるよ」って。そうすると、配達員は「やる」「やらない」をたくさん選ぶことになる。すると、管理されているはずなのに、自律性の感覚が上がる、と。

選択すると自律性を感じるイメージ

マイクロマネジメントが効果的になるという逆説。文化との関係も

面白いなーと思って論文を読んでて、そこで思ったんです。実は、これってギグワークの世界だけじゃなくて、普通の企業でも同じ話なのではないか、と。要は、部下に対して「これやれ!」って一方的に命令するんじゃなくて、「AとB、どっちを先にやりたい?」とか「この計画をこう進めるか、それともこっちのルートで行くか?」みたいに、ちょっと選択肢を細かく提示する。すると、マイクロマネジメント気味にも思えるんだけど、実際には部下にとっては自律的に働いているという感覚が上がるかもしれない。これ、面白くないですか?

それから、文化の話とかけ合わせると、更に示唆深いんじゃないかと思うんです。

ホフステードの6次元モデルで言うと、一般的に権力格差が高い文化では、上司は部下に対して頻度高く指示出しをしてその進捗確認をするのが当たり前と思われることがあるわけですね。アジア諸国に赴任をした日本人マネージャーが、「現地の部下が自分の頭で考えてくれない。全部細かく指示出しをしないとならない」と言って困っているのをよく見ますが、これ、効果的なマイクロマネジメントの仕方を知らない、ということなのではないかと思うんです。

「これやって!」「あれやって!」というのは、単なるマイクロマネジメントでモチベーションを下げてしまうかもしれないけど、「これやる?」「あれやる?」と頻度高く、選択する機会を提供するマイクロマネジメントは自律性の感覚を上げてモチベーションを上げるかもしれない。

マイクロマネジメントが効果的になるという逆説イメージ

AIを通じて人間のマネジメントを捉え直す

AIのマネジメントの仕方から人間のマネジメントを捉え直すと面白いと思いましたね。

AIって普通、「人を管理して効率だけを求めるツール」みたいに捉えられがちなんですが、むしろそこに「選択肢を細かく提示する」という設計思想を入れることで、「自分で考えて判断する機会」をめちゃくちゃ増やすことができるわけです。管理されながらも自律性を高めるっていう、すごく逆説的だけど魅力的なアイデアですよね。

というわけで、ギグワーカーの研究から見えてくるのは、「人って管理されると窮屈に感じる」というわかりやすい図式だけじゃなくて、「管理されるシステムそのものが自律感を高める役割も果たす」という、ちょっと逆説的な側面があるんだよってことなんです。

これ、これからの働き方を考えるうえでも、なかなか示唆に富んだポイントじゃないでしょうか。僕としては、AI研究の中で追求してみたいテーマだなと思いました!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。この記事が面白いなと思ったらぜひSNSでシェアして感想を教えて下さい!ではまた!


渡邉 寧

代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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