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中国の「囲碁」とアメリカの「チェス」:米中交渉を文化のレンズで読み解く – 歩きながら考える vol.30

今日のテーマは「米中の交渉スタイル」について。昨今の米中の貿易交渉を事例に考えます。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題を平日(月~金)の毎朝ラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
こんにちは。今日はプールに向かう道すがら、「異文化交渉」の話をゆるくシェアしようと思います。2025年、トランプ政権が各国にビシバシ関税をかけてきて、米中交渉がまたヒートアップしてますね。その中で、私が特に面白いのではないかと思ってるのが、文化的な観点から見た時の米中の交渉スタイルの違い。中国は「囲碁型」交渉で、アメリカは「チェス型」交渉と言われています。果たして、この話が今回の米中交渉でも見られるのか。
それぞれの「カード」と「弱点」も絡めて、歩きながら考えてみました。グローバルな舞台での交渉に興味ある人は、ぜひ最後まで付き合ってください
中国の「囲碁」とアメリカの「チェス」、交渉の時間軸が違う
まず、興味深いと思っているのが、交渉スタイルの文化的な違い。中国の交渉は「囲碁」に例えられるのに対し、アメリカのスタイルは「チェス」に例えられます。先日出版した、『異文化理解で磨くグローバル交渉力:「なぜ」を読み解く文化の7タイプ』(原題:Negotiate Like a Local)でも紹介されています。この比喩、初めて読んだとき「なるほど!」ってなりました。めっちゃ分かりやすくて、交渉の「時間軸」の違いをわかりやすく表現しています。
囲碁って、盤面全体で長期的な陣取り合戦をするゲームですよね。局所ごとの勝敗にこだわるんじゃなくて、「この局面は捨てても、最後には勝つ」ということを狙います。時間軸で言えば、5年後、10年後の「全体の勝ち」を狙う感じ。中国の交渉もまさにそんな感じな気がしませんか?ホフステードの文化的次元でいうと、中国は「長期志向」の文化(スコア87)。だから、目の前の小さな譲歩や負けはそこまで気にしてないんじゃないか、と思いますね。直近で負けても最終的に盤面を制すればいい、みたいな大局観で動いてる可能性があるのではないかと思っています。
対して、アメリカはチェス型。チェスって、相手のキングをバチッと仕留めるのがゴールで、割と短期決戦のイメージ。中国が「何年かけてもいいから陣地を広げる」なら、アメリカは「次の手でチェックメイト狙いたい」みたいな感じでしょうか。ホフステード指標だと、アメリカは短期志向(スコア26)。だから、交渉でも目に見える成果をすぐ欲しがる傾向があるし、国内の政治を考えて「目に見える短期の成果」を見せたいプレッシャーが働くのではないでしょうか。
この違い、米中貿易交渉のニュース見てると、めっちゃ感じませんか?例えば、トランプ政権が関税ドーン!ってかけて、アメリカ側は「よし、これは効いたはずだ!」って思うかもしれない。でも、中国は「そういう手が来ることは想定済み」って、じっくり先の手を考えてそう。この時間軸のズレがあるとすると、めっちゃスリリングじゃないですか? 『異文化理解で磨くグローバル交渉力』で、この「囲碁 vs チェス」の例えを見た時、確かにねーと思いました。
米中の「カード」と「弱点」、どっちが我慢強い?
もう一つ、米中交渉で面白いのが、両サイドが持ってる「カード」と「アキレス腱」のバランス。どっちも強い武器持ってるけど、致命的な弱点も抱えてる。この綱引きが、交渉の行方を左右しそうですよね。
中国のカード、いくつかありますね。まず、レアアース。中国は世界のレアアース生産の約7割を握ってるそうです(出典「中国のレアアース、世界シェア7割 G7も危機感、EV普及なお依存」)。半導体とかEVとか、ハイテク産業に必須な素材だから、輸出規制をチラつかせられると、米国の企業は困るかもしれません。実際、2023年にガリウムとかゲルマニウム制限の動きを見せた時、米国への経済的インパクトが懸念されたのは記憶に新しいところです(出典 “Quantifying potential effects of China’s gallium and germanium export restrictions on the U.S. economy“)。更に、米国債。中国は大量の米国債を持っており、これを売るとなると、米国の金利が上がりそうです。米政府の国債の利払いが先々厳しいことになるかもしれません。
一方で、中国にも弱点が。中国は、ホフステードの「権力距離」が高い(スコア80)集団主義の国で、共産党の一党独裁。政治の自由は制限されてるから、民衆が政権の正当性を疑い始めると、厳しいことになるんではないでしょうか。歴史的に、中国は生活困窮から各地の軍閥を中央が抑えられなくなり、王朝交代が起きるということを繰り返しています。貿易戦争で景気が厳しい状況になり、それが長期で続くと、不満が溜まって政権の正当性が揺らぐ。これは、習近平政権にとってアキレス腱じゃないかと思います。
一方、アメリカもカードと弱点がある。カードは、やっぱり巨大な市場。米国市場へのアクセス制限されると、中国企業が困るのはもちろん、各国が困るので、中国を孤立させようとするアメリカの動きに同調する国も出そうです。と同時に、米国の政権は長期での我慢比べになった時、どの程度耐えられるのかというのは気になります。短期志向の文化ゆえ、国内の政治圧力で、トランプ政権は「すぐ成果!」と焦りそうです。長期の我慢比べになると、世論とか議会とかでグダグダになりそう。
この「カード」と「弱点」のぶつかり合い、どっちが我慢強いかで決まりそうですね。中国は「10年後の勝ち」を狙ってるけど、国内の不満を抑えられるか。アメリカは「今勝ちたい」けど、持久戦に耐えられるか。まるで、囲碁とチェスの盤面での競争が繰り広げられているようで、先々の行く末から目が離せません。
コロナ禍で気づいた「チャイナリスク」とのリンク
この米中交渉、コロナ禍での気づきともつながってるんですよね。2020年、マスクすら国内で作れないって気づいたとき、米国も日本も「うわ、製造業空洞化しすぎ!」と焦った。あのとき、グローバル化で中国に生産が集中してたことに一般の人も気付いた。今、米国が中国のサプライチェーンを「狙い撃ち」してるのは、理解できる面もあると考える人も多いんじゃないでしょうか。トランプの関税も、ただの経済政策じゃなくて、もっと大きな「自国回帰」の流れ。アメリカの狙いがうまくいくかどうかは、かなり微妙な気もしますが、ある種の人々の自然な不安感からくる必然だったのかもしれません。
まとめ:文化のレンズで交渉を覗く
米中交渉って、経済や政治だけの話じゃなくて、文化に紐づいた政治体制の違いも関係している。中国の「囲碁」とアメリカの「チェス」、どっちが盤面を制するのか、気になりますね。どうなったとしても、日本への影響も甚大であることが予想されるので、継続してウォッチしていく必要がありそうです。
もし、みなさんの中で「中国との交渉、こんな経験あるよ!」とか「アメリカの短期志向、わかる!」みたいな話があったら、ぜひSNSでシェアしてコメントください。
というわけで、今日は「中国の囲碁とアメリカのチェス」を歩きながら考えてみました。プール着いちゃったんで、この辺で終わりにしようと思います。最後まで読んでくれて、ありがとうございます。 また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い