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幸福度のデータ、どこを見て何を考える?地域のウェルビーイングを解くヒント – 歩きながら考える vol.32

2025.04.28 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今日のテーマは「地域の幸福データ」の分析の観点について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題を平日(月~金)の毎朝ラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。

こんにちは! 今日も帰り道を歩きながら、頭に浮かんだモヤモヤをシェアします。テーマは「住民の幸福度データ」。最近、住民調査について色々と考えていて、その一環でデジタル庁のウェルビーイングダッシュボードをチラッと見ました。色々と思うことが有ったので幸福度データの分析の仕方をゆるく考えて話してみます。幸福に関する政策に興味ある人に、ちょっと耳を貸してもらえると嬉しいです。

デジタル庁のWell-beingダッシュボード

きっかけは、デジタル庁が提供している「地域幸福度ダッシュボード」。これ、面白いなーと思って触ってみました。全国の自治体が住民のウェルビーイング(幸福感や暮らしやすさ)を調査して、地域ごとにデータがズラッと並んでる。たとえば、「この町は文化っぽい雰囲気があってスコア高いね」とか「健康のスコアが低いな、なんでだろ?」みたいな感じで、いろんな項目の得点が見えるんです。

最初は「自治体毎の横比較できるところまでデータの整理が出来ているんだ」って興味深く見てたけど、だんだんモヤモヤが。というのも、見える化の次のステップは、ちょっと難しいなーと思ったから。スコアを見て、そもそも現状が課題なのかどうか判断しなければならない。また、課題と判断するのであれば、なぜ課題なのかをデータから明確に説明しないとならない。更に、どういう構造でその課題が成り立っているのかをデータから分析して示さなければならない。

探索的分析は結構たいへん・・・

ここまでやるのは、結構たいへんだぞ、と、そう思ったわけです。自治体の横比較が出来るようになっているが故に、他の自治体と比べて幸福度の得点が高いのか低いのか、というところに目が行きそうですが、自治体ごとに前提条件が違う中、単純に他と比べて高いか低いかでは、現状が課題なのかどうかは判断できそうにありません。

住民調査は、以前のブログでも書きましたが「健康診断」的な要素で作られることがあって、その場合、「これが問題なんじゃないか?」という仮説ベースで調査票が組まれるというよりは、どちらかというと、包括的に様々な角度でデータを集めて、そこから探索的に分析を進めるということになるのだと思います。

この「探索的な分析」というのが結構難しいな、と思います。どういう切り口で分析を進めると価値ある示唆に繋がるのかがモヤモヤします。ビジネスにおける伝統的な(AI以前の)分析は、仮説ベースで行うことが多いので、なおさらモヤモヤが募ります。

とは言え、いくつかポイントが有るとは思うので、ここではそれらを書いておこうかと思います。この手の探索的分析のコツは他にも色々とあるはずなので、適宜アップデートしていきたいです。

ポイント1:データの「ばらつき」に何を見る?

まずは、データの「ばらつき」にヒントがあるのかな、と思いますよね。幸福度って、県や市などの平均値を見るのも意味あるとは思いますが、細かく見ると、めっちゃ幸せな人もいれば、そうじゃない人もいる。このばらつきが「現状が課題なのかどうなのか?」を考える最初のヒントになるんだろうと思います。

幸福度は、キレイな山形(正規分布)にはならないことがあり、高い人と低い人で、二つ以上のグループに分かれることがあります。これは何らかの異なる構造が作用している可能性を示唆しているので、その背景に、どういう「問題の構造」があるのかを読み解くことが地域の幸福度向上を考える最初の一歩になるのだと思います。

ポイント2:データの「切り方」の塩梅

そのバラツキを確認した上で、次に見るんだろうな、と思うのが、セグメントの切り方。地域? 年代? 性別? 仕事してるかどうか?セグメントを切る切り口は色々ありますが、どの切り口でどれくらい細かく切るのがベストか、試行錯誤するんだろうと思いますね。

ざっくりすぎても細かすぎても「共通した幸福の構造」は出て来ません。理論、過去のケース、地域のヒヤリング等を通じて、ここでセグメントを切る切り口の候補をいくつかストックしておく必要がありそうです。

この「塩梅」の話、ちょうどいいグループを見つけるのって、ほんと難しいと思うんですが、これが見つかると探索的分析が一気にぐっと進むと思います。

ポイント3:社会の価値観に基づいた分析

もう一つ、大事だと思うのは、そもそもの分析の方向性を「価値観」に連動させること。

例えば、個人的には「低い幸福度の人をどう底上げするか」。平均値を上げるという考え方より、下の方の人たち(たとえば下位25%くらい)に絞って、「なんで低いんだろう?」「どうすれば上がる?」って考える方が、大事なのではないかと思います。

社会の良し悪しって、平均的にどうかというよりも、弱い立場に追い込まれた時に、それでもなんとかやっていけるし、再起出来る、と思えるかどうかが大事なんではないかと思います。

まあ、これはホフステードの次元で言えば「女性性」寄りの価値観なので、例えば「男性性」寄りの価値観の人は別の考えをするかもしれません。

違う価値観なのであればそれはそれで良くて、その価値観に基づいた分析の焦点を明確にする必要があると思います。「こういう価値観で社会を見ているから、こういう分析をするんです」ということですね。

なので、分析を始める前に、どういう価値観で分析をするのかを明確にしたほうが良いのではないかと思います。例えば、北欧のような社会を一つの手本とすることがありますが、それは

・権力格差が低く
・個人主義で
・女性性が高く
・不確実性の回避が低い

という価値観のパターンになります。このパターンの価値観で地域の幸福度を見るのだから、例えば、

・個人が自分の意見を安心して表明できる社会か?
・コミュニティ内で、相互の思いやりはどの程度あるか?
・行政サービスの柔軟性はどの程度あると思われているか?

といったような項目の状況をきちんと分析しないといけないね、という根本的な分析方針が決まってくるのだと思います。

まとめ:モヤモヤは次のステップへ

というわけで、今日はデジタル庁のウェルビーイングダッシュボードから始まったモヤモヤを、歩きながら考えてみました。データのばらつき、切り方の塩梅、価値観に基づいた分析…。どれも、データで社会を良くするヒントが詰まってる。モヤモヤしてるけど、それが次のアイデアへのエネルギーになる気がします。上手く付加価値を出したいものです。

もしあなたが「私の町のデータ、こう見てみたい!」とか「こんなダッシュボード欲しい!」って思ったら、ぜひSNSでシェアしてコメントください。デジタル庁のダッシュボード、覗いてみるのも面白いかも!

最後まで読んでくれて、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!


渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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