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男性の孤独を救うのはやっぱり「仕事」?中高年のおてつたび効果 – 歩きながら考える vol.36

今日のテーマは、中高年男性の「孤独」問題に対し、「おてつたび」のような仕事のマッチングサービスが解決策になるのではないかという考察について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題を平日(月~金)の毎朝ラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
こんにちは。今日も移動時間を使って、ちょっと考えごとをシェアしようと思います。もうすぐ家に着くんですけど、その前に、最近読んだ新聞記事から浮かんだアイデアを話してみたいなと。テーマは「おてつたび」というサービスと、シニア、特に男性の孤独について。2025年の日本で、これがどう響くのか、歩きながら考えてみます。
おてつたびって何? シニアの新しい挑戦
きっかけは、2025年4月19日の毎日新聞の記事。おてつたびってサービス、知ってますか? 2019年から始まったプラットフォームで、地方の事業者、人手不足に悩む農家や旅館とかと、旅をしながら働きたい人をマッチングするんです。最初は若者向けだったらしいんですが、最近、シニアの利用も増えているそうです。記事では、65歳の女性が長野の柿農園で働いて、地元の人との交流を楽しんでる話が出てました。収入も大事だけど、人と交流も楽しい、と。
これ、めっちゃ面白いなと思ったんですよ。だって、日本って労働力不足が深刻じゃないですか。そこに、シニアが「旅行がてら働く」って形で入っていく。しかも、ただ働くだけじゃなくて、新しい場所で友達作ったり、コミュニティに溶け込んだり。なんか、一石二鳥どころか三鳥くらいある気がする。記事によると、2021年には利用者の8%だった50歳以上が、2025年には27%まで増えているそうです。シニアのアクティブな仕事の仕方、ちょっと興味深いと思いませんか?
で、僕が特に気になったのは、このおてつたびが、単なる労働力の話じゃなくて、シニアの「孤独」問題にも何かヒントをくれそうってところ。そこから、ちょっと深い話に飛び込んでみます。
男の孤独、女のネットワーク
最近、自分でも感じることがあるんですけど、特に中高年の男性って、社会的に孤立しがちだと思うんです。女性に比べると、友達や地域のつながりが薄いというか。内閣官房の2023年の調査(人々のつながりに関する基礎調査)でみると、UCLA孤独感スケールで、男性全体の7.5%が孤独感が常にあると見なされる状態(10点以上)で、女性の6.2%よりもちょっと高い。そんなに大きな差には見えないかもしれないけど、そもそも男性は「孤独であることを認める」のが、社会的役割として困難であると言われているので、そこから考えると、男性の孤独というのは、実感値の方が正確で、データで見える数字以上にあるのではないか?とも思います。
ちなみに、男性の方が女性よりも孤独を感じるというのは、割と最近の237か国(地域)の調査でも見られていて、データだと、特に個人主義文化・若年男性が最も孤独を感じているそうです。
なんでこんな差があるんだろう? って考えたら、人類学の話が頭に浮かびました。サラ・ブラファー・ハーディという研究者がいて、彼女の『Mothers and Others』では面白いことが書かれています。すなわち、女性は昔から「協同育児」というネットワークの中に居た。赤ちゃんはめっちゃ手がかかるから、母親だけで子育てをするのは難しく、他の集団メンバー(アロマザー:allomother)と協力して子育てをする必要があった。
女性が母親としてそのネットワークの中に居たとすると、女性にとって、他者に共感し、他者が考えたり感じたりしていることを理解する能力は、協働的な繁殖集団でやっていくために必要な能力だったのではないかと思います。もちろん、男性もそれは必要なのだけど、「マザー(mother)」なのか「アロマザー(allomother)」なのかという違いは、その必要性に違いをもたらしたのではないか。
孤独が引き起こす怖い未来
さて、孤独感に性差があるとすると、ここからが、ちょっと頭が痛い話。団塊ジュニア世代、つまり1970年代前半生まれの人たちが、これからどんどん高齢者になる。このままいくと、孤独な中高年男性が大量に出てくるんじゃないかと思います。孤独って、精神的にキツいだけじゃなくて、健康にもモロに影響するんです。研究だと、孤独は心臓病や認知症のリスクを上げるって言われてる。
でも、もっと心配なのは、社会への影響。孤独で辛い気持ちを紛らわそうとして、他者に対して攻撃的な人が増えるのではないかという懸念です。実験によると、孤独を感じている人は、そうでない場合と比べて、たとえ相手が融和的な態度を取っていたとしても敵対的な行動を取る傾向が高まることが示されています。昨今のSNS見てると、極端な意見が盛り上がり、酷い誹謗中傷をしている人を見ることがあります。見ていると、そのような活動に参加している人は圧倒的に中年以上の男性のように見えます。この現状の背景に「男性の孤独問題」があるような気がして、これは、なんか嫌な未来だなって、思います。
おてつたびでつながりを取り戻す?
でも、ここで解決策の一つになるかもしれない!と思っているのが、「流動性高く、仕事をする」ということです。そして、それをサポートするプラットフォーム(おてつたびとか、スキマバイト系)が、実はこの問題に一役買えるんじゃないかって。
今の中高年の男性は、世代的にこの「ハザマ」にいる。だから、「仕事をし続ける」という伝統的な男性観に繋がりつつ、その仕事を流動性が高い状態で行うことで、「新しい人たちと関わり、そこで相手を思いやり、関係性を作る」という練習を積み重ねることで、新しい男性観に適応していくということが出来るのではないか、と思うのです。
例えば、農家で数週間働いて、地元のおじいちゃんおばあちゃんと話したり、一緒に汗かいた仲間とビール飲んだり。そんな小さな交流が、ソーシャルキャピタル、つまり信頼やつながりのネットワークを少しずつ作っていく。女性はこういう場でネットワーク作るの得意かもしれないけど、男性だって、気の合う人と出会う確率はゼロじゃない。
僕は今、ギグワークやスキマバイトの調査を始めてて、おてつたびみたいな働き方が孤独や繋がりとどう関係し得るのか、データで確かめたいと思ってるんです。もし、これが本当に孤立する中年以上の男性の救いになるなら、今後の日本にとってめっちゃ大事な話になるんじゃないか、と思っています。
まとめ:仕事でつながる未来を
というわけで、今日はおてつたびから始まって、中高年男性の孤立問題まで、歩きながら考えてみました。地方を元気にしながら、中高年男性に新しいつながりを作れるかもしれない働き方、なんか可能性を感じません?
もし、この記事が面白いと思ったらぜひSNSでシェアしてくれると嬉しいです。また、みなさんの中で「おてつたび、やってみたい!」とか「孤独問題、こうしたらいいんじゃない?」みたいなアイデアがあったら、ぜひコメントください。僕も、調査の進捗とか、またブログでシェアできたらいいなと思ってます。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます。家に着いたんで、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い