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アメリカが目指す未来:改革保守と幸福感 – 歩きながら考える vol.37

今日のテーマは、アメリカのトランプ政権を支える「改革保守」の考え方について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題を平日(月~金)の毎朝ラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
こんにちは。今日もプールに向かう道すがら、ちょっと話してみようと思います。テーマは「アメリカの改革保守と日本の幸福観」。最近、毎日新聞(4月22日)の記事で、トランプ政権を支える「改革保守」という動きが報道されてました。これ、今後のアメリカを考える上で知っておいた方が良い観点だと思いましたので、歩きながら、そのあたりをゆるく掘り下げてみます。
トランプ政権の裏にある「改革保守」って何?
まず、改革保守って何?ってところから。
アメリカの保守派の中に、トランプ政権を思想的に支える「改革保守」というグループがあって、シンクタンク「アメリカン・コンパス」を主催するオレン・キャスという人がそのブレーンの一人。彼が先日来日して講演した内容が記事(「ポスト・モダニズムへの反逆 トランプ大統領を担ぐ米国の改革保守」4月22日毎日新聞)になっていたんですが、そこで語ってたことがなかなか興味深いんです。
キャスは、トランプを「過渡期の破壊者」と呼んでました。思想家じゃなく、既存の体制をぶっ壊す役割を担ってるって。で、改革保守の本当の動きは、トランプの後、副大統領のJDバンスや国務長官のマルコ・ルビオあたりがどう動くかにかかっていると述べています。で、彼らが何を問題視してるかというと、グローバリズムや資本主義の「負の側面」。特に、労働者層の生活がズタズタになったこと。
グローバリズムにおいては、経済のパイを大きくすることでみんな豊かになるという前提を置いていました。新しい市場を開拓して、資本を投下して、それが更に資本を生み出す。一方で、オレン・キャスが明確に指摘しているのは「消費を最大化させることで幸せになるという考え」は間違いだったということ。大きくした経済のパイの、その恩恵が労働者には全然届かず、むしろ雇用が海外に流れ、製造業が空洞化して、家族やコミュニティがバラバラになったって話なんです。この「経済成長=みんなハッピーじゃない」って視点、なんか考えさせられませんか?
消費至上主義と幸福のズレ
ここから、僕が思い当たるポイント。
アメリカの幸福観って、基本「ハピネス」ですね。今、ここで感じる、強くポジティブな感情を最大化させ、ネガティブな感情を最小化させ、人生に満足した状態を作ること。そうした状況を作るための一つの、しかし有力な手段として、おそらく「消費」があった。新しい商品を買ったり、美味しいものを食べたり。
しかも、これが個人主義と結びついている。一人一人が欲しいものは違うわけだから、選択(チョイス)がアメリカではキーワードになる。だから、選択肢が山ほどあることが「幸せ」と結びついてる。
この幸福観は資本主義と相性が良い。一人一人のニーズにあった新しい商品を次々と出し、どんどん消費を促すことで消費のパイは拡大をしていく。そして、そうした消費を安価に提供するためには、製造業はアメリカ国内ではなく、労働力が安い新興国に出した方が良い。
アメリカの幸福観はアメリカ国内の消費と相互に関係しながら進んできた。そして、アメリカ市場は新興国に対して開かれたので、新興国の経済発展に寄与した。しかし、残念なことに、結果としてアメリカの製造業は空洞化し、労働者層は安定した仕事や家族、コミュニティを失って、むしろ不幸になった。
だから、アメリカの改革保守は、価値観の巻き戻しを目指している。彼らが目指してるのは、消費じゃなくて「安定した雇用」「しっかりした家族」「強いコミュニティ」を軸にした社会。
トランプ政権の経済政策はめちゃくちゃに見えるかもしれませんが、こうしてみると、考えていることは理解は出来る、と感じる方も居るのではないでしょうか?
日本の幸福観との関係を考える
一方、僕ら日本の幸福観は、アメリカの「ハピネス」的なものとはちょっと違います。
ポジティブな感情をガンガン追い求めるより、ネガティブも含めて「まあ、人生いろいろあるよね」って受け入れる。悪いことがあれば、その先に良いことが来るかもしれない、みたいな循環的な見方。あと、「もったいない」精神ってあるじゃないですか。消費をバンバン増やすことが幸せって、なんかちょっと罰があたりそう。あんまりピンとこない人も多いと思う。
で、改革保守が言っていることは、消費を最大化させ、個人の「ハピネス」最大化を目指すことを良しとする方向性への、一つのカウンターなんじゃないかと思います。他国の製造業の発展の為に、アメリカ市場を使わせる余裕は今のアメリカには無く、よってアメリカ市場を関税とドル安で閉じることによって、消費の最大化は出来なくなるが、それはそれで良いのだという方向性に、舵を切ろうとしているようです。
10年後の世界はどうなる?
この改革保守の動き、もし本格化したら、10年、20年でアメリカの社会がガラッと変わる可能性がある。資本主義と最も相性が良かったアメリカの幸福観 – 個人消費拡大によるハピネスの最大化、に修正が入り、「安定」「家族」「コミュニティ」に幸福の基盤を求めるような傾向が少し強くなるかもしれません。
そして、昨今、金融市場が大きく動いているのは、こうしたアメリカの動きに対して、資本主義そのものが強烈な拒否反応を示していると言うことなのかもしれません。
日本文化の感覚からすると、物事は基本的に上がったり下がったり循環するものなのだから、消費のパイがこのまま無限に拡大し続けていくという未来像はどうにも納得感がありません。そういう意味で、アメリカの改革保守の思想は、よくよく聞いてみると、「そういう話しなら理解できる」と思う人も居るのではないかと思います。
まとめ:価値観の転換を歩きながら考える
というわけで、今日はアメリカの改革保守と日本の幸福観の意外なリンクを、歩きながら考えてみました。トランプ政権の裏にある大きな価値観の転換は、どこか日本の考え方に近いようにも思え、ちょっと興味深いと感じます。こういう視点で世界を見ると、未来がちょっと楽しみになる。
もし「日本の幸福観ってこうだよね!」とか「アメリカのこの動き、どう思う?」みたいなアイデアがあったら、ぜひSNSでシェアしてコメントください!
最後まで読んでくれて、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い