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歩きながら考える vol.4 – ギグワークから考える“やる気”と“成果”の設計方法

2025.03.11 渡邉 寧
「歩きながら考える」vol.4

このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。

歩きながら考えるvol.4ギグワークから考える“やる気”と“成果”の設計方法

ギグワーカー研究で見た“驚きの数字”

えー、こんにちは。今日もですね、前回に引き続き、ギグワーカーの調査について、ちょっとお話ししてみようと思います。最近読んだ論文で「え、それホントなの?」と驚くような数字を見たんですよ。

何にびっくりしたかと言いますと、ギグワーカーのワーク・エンゲイジメント(仕事への熱意とか没頭具合)と仕事の成果との関係が、見たことが無いレベルで高かったんです。ワーク・エンゲイジメントが、ほぼパフォーマンスを説明してしまうような程度(統計的には、決定係数の増分が0.9くらい)。

最初は、何かの間違いだと思いました。確かに、ワーク・エンゲイジメントと成果にはそれなりに相関がある(たとえばこのメタアナリシスだと中程度の効果量が報告されている)とは言われていて、だからこそワーク・エンゲイジメントへの興味が高いのだと思いますが、ここまで高いのはちょっと想定外でした。

ギグワーカーイメージ

じゃあどうしてギグワーカーの調査だとそんなに成果に直結するのか、ちょっと考えてみました。たとえばUber Eatsの配達員さんをイメージして「こういうことなのかな」と思ったのですが、「もう一件いけそうだな」と思ったら、それだけ収入につながるじゃないですか。やる気がある=仕事を取る=すぐ報酬アップ、という非常にシンプルでダイレクトな構造なのかもしれない、と。だから、ワーク・エンゲージメントが成果に強く結びつきやすいのかもと。

オフィスワークのワーク・エンゲイジメントで考えると

一方で、普通の会社勤め(ホワイトワーカー)だと、やる気が上がっても、すぐに売上や評価に反映されるわけではありません。企画を考えても承認が必要だったり、市場にサービスが出るまで時間がかかったりして、成果が上がるまでタイムラグがありますね。だからこそ、ギグワーカーに比べるとワーク・エンゲイジメントがそこまでダイレクトに成果に結びつくわけではない(決定係数が0.8や0.9にはさすがにならない)。

オフィスワークのワーク・エンゲイジメントで考えるとイメージ

とは言え、この話を「ギグワークは特殊」で終わりにせずに、「この仕組みを普通の会社でも取り入れられないものだろうか?」と思うわけです。つまり、ギグワーカーのように「やったらすぐ何らかの結果や評価につながる」仕掛けをつくる、という考え方ですね。

例えば、最終的な売上や利益が遠い指標なら、その手前の行動(顧客のリストアップ数や訪問回数など)をKPIとして評価する。そして、行動が成果に直結する手前のKPIを達成したら報酬を出す仕組みにする。行動と成果を細かく結びつけておけば、「もう一歩進んでみよう」と思いやすくなるだろうな、とは思うわけです。もちろん、報酬のような外的な動機づけに頼りすぎると逆効果になるケースもあるので、そこは本当に狙った効果になるのかどうか検証が必要ですが、「頑張ったらすぐ手応えがある」仕組みは大切だと思います。

実際、Uber Eatsでいうと、配達のオファーが来たら「受ける」「受けない」を選んで、配達が完了するとすぐにいくら稼げたかわかる。行動と成果のサイクルがすごく短いですよね。そこがモチベーションの波に乗りやすいポイントなんだろうと思います。

研究を通して見えたこれからの働き方イメージ

研究を通して見えたこれからの働き方

そんなわけで、ギグワーカーの調査からわかったのは、「行動の結果が即座に成果として見える仕事デザインだとエンゲージメントと成果の結びつきが尋常じゃないほど大きくなるかもしれない」ということでした。会社員の場合、成果が出るまで時間がかかったり、評価も年1回だけということも珍しくないですけど、報酬の制度設計によっては、ギグワーカーで見られるような、ワークエンゲージメントと成果が相補的に高くなるということになるのかもしれません。もう、毎日決算くらいの勢いで、評価制度をデザインしても良いのかもしれません。

文化的に言うと、ギグワークを選ぶ大きな理由の一つに「自律的に働ける」ということがあり、これは個人主義的で短期志向の価値観と親和性があると考えられます。アメリカなどはこの文化ですね。アメリカをはじめとした個人主義の文化と親和性を感じる人が多い場合は、組織的にこのような評価デザインが有効と言えるかもしれません。

いかがでしたでしょうか? 私はこの研究を見たとき、「こんなに強い相関が出るのはなにかの間違いでは・・」とだいぶ驚きました。ただ、思い返してみると、ギグワークの業務デザインを考えるとあり得る話なのかもと思っています。

もし「なるほど、こういう考え方もアリかも」と思っていただけたら、ぜひSNSなどでシェアしてくださるとうれしいです。ご意見やご感想も、お待ちしています。最後まで読んでくださって、ありがとうございました!


渡邉 寧

代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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