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今日のテーマは、SNSと社会の分断について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題を平日(月~金)の毎朝ラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。
こんにちは! 今日も移動時間を使って、ちょっと考えごとをシェアしようと思います。もうすぐ家に着くんで、その前に、最近気になったニュースから浮かんだアイデアをゆるく話してみたいなと。テーマは、SNSの誹謗中傷と分断。2025年の今、なんでネットってこんなギスギスしてるんだろう? ってことを、歩きながら考えてみます。
きっかけは朝日新聞の記事
先日、2025年4月30日の朝日新聞で、ネットの誹謗中傷についての記事を読みました。記事では「犬笛」という現象が説明されていました。これは、インフルエンサーが支持者だけに通じる特定のメッセージを出すと、フォロワーたちが一斉にターゲットを攻撃し始めるという行為のことです。例えば、あるインフルエンサーが特定の人や場所をほのめかすような投稿をすると、フォロワーたちが「この人を叩くぞ!」と自発的に行動を始めるような感じです。YouTubeやTwitter/Xのコメント欄を見ていると、このような現象が確かに起きているように思います。
この記事に注目したのは、この、ネット上の誹謗中傷と意見対立が、このまま行くと更にひどいことになるように思うからです。アメリカの民主党支持者と共和党支持者の分断がかなり深刻なことになっているのは見聞きしていましたが、同じことが日本でも起こりはじめたのかな、と思います。
異なる道徳基盤に対しては、感情的な反応が出る
この問題を考えるのに、ジョナサン・ハイトという心理学者の研究がめっちゃ参考になります。ハイトの「道徳基盤理論(Moral Foundations Theory)」では、人間の道徳って、ケアや公正、忠誠など、6つの基盤に基づいているとされています。リベラルは「ケア」や「公正」を重視するけど、保守は「忠誠」や「権威」も大事にする。自分たちが大事だと思う道徳基盤を、相手グループは重要だとは思わない。この違いが、ネットでバチバチ対立する原因の一つ。
さらに面白いのが、ハイトの「象と象使い」のメタファー。人間の判断って、感情(象)が主導して、理性(象使い)は後からついていくだけ。SNSのコメント欄で、誰かの意見を見て瞬間的に「ムカつく!」って反応するのは、象が興奮してる状態。逆に、過激なコメント書いて「いいね」もらうと、感情が満足してなんか気持ちいいんだと思います。
僕も、SNSで政治系のポスト見て、「いや、そりゃ間違ってるだろ!」って思うこと、しょっちゅうなんですよ。みなさんも、コメント欄でちょっと熱くなったこと、ないですか?
誰もが「正義の攻撃者」になるリスク
更に、人間の脳の仕組みとSNSの設計が悪魔的に相性が良いのがやばいなーと思います。
感情的反応が、SNS上で同質性の強いセクトを作ることにつながっているように見えます。ここで関係するように思うのが「社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory)」。
社会的アイデンティティ理論は、ヘンリ・タジフェルとジョン・ターナーが1970年代に提唱したもので、人はそもそも集団への所属感を感じるもので、ある集団に属することで「自分は正しい!」というアイデンティティが強化されるとされます。SNSのライブ配信とか見てると、みんな同じ意見で盛り上がってるでしょ? そういう場に、対立するグループの人が入ってきて「変なコメント」書くと、一斉に袋叩きになりますよね。
この「正義感で攻撃する」現象、実はリベラルも保守も関係ない。たとえば、多様性を掲げるリベラルなコミュニティのライブ配信などに、意見の異なる保守の人がチャット欄で異なる意見を言うと、「何言ってんだ!お前、出ていけ!」と言って、コメント欄の他の参加者が一斉に叩くこと、ありますよね。
なんか、僕たちがSNSで「正しい」と思って取っている行動が、実は構造的に異なる意見グループ間の溝を一層深めてるって、ゾッとしません?
インフルエンサーとフォロワーの「共犯関係」
で、もう一つ気になっているのが、インフルエンサーとフォロワーの関係。インフルエンサーが過激な発言するのって、フォロワーの「いいね」やコメントにめっちゃ影響されてますよね。たとえば、YouTubeのライブ配信で、特定のポストが「ウケる!」って気づくと、そっちの方向に意識的にしろ無意識的にしろ方向づけされていく。フォロワーも「その通りだ!」って賛意を示すから、一定の方向にどんどんエスカレート。
この構造、社会的アイデンティティ理論を元にした説明、例えばハスラムらの研究(Haslam et al., 2006)だと、リーダーシップとは、リーダーとフォロワーの相互作用の中で形成される、と考えられます。リーダーは集団の反応を見て、自分の行動を「集団の代表」として調整する。つまり、インフルエンサーは、フォロワーの賛意に応えるために、一定方向の発言を繰り返すことで「自分たちのリーダー」としての地位を固める。政治系YouTuberやTwitterのインフルエンサー見てると、たとえば、コメント欄で「最高!」「その通り!」って盛り上がると、だんだん話がそっちの方に固定化されていくことありますよね? フォロワーの反応がインフルエンサーをガイドして、ガイドされたインフルエンサーの発言がフォロワーをさらに熱くする。このループ、時と場合によってはめっちゃ危険だなって思うんです。
実際、僕もこの間、とあるYouTuberの対談ライブを見てて、良識あるコメンテーターだと思っていた人が、対談相手を激しい口調で非難し始めて、「えええ、この人こんな人だったの?」とびっくりしたことがあります。その際のコメント欄を見ると、「そうだそうだ」の大合唱。多勢に無勢という感じで、ちょっといたたまれない気持ちになりました。みなさんも、インフルエンサーの発言がコメントで加速した瞬間、見たことないですか?この、人間の感情の仕組みとSNS上のリーダー・フォロワー関係は、ちょっと危ういなあと思います。
テクノロジーで分断を止める希望
じゃあ、どうすればいいの? って話なんですが、これってちょっと対策が難しいですよね。SNS上では、個人が所属するグループを自由に移動できる(=関係流動性が高い)ので、価値観や考えが同じ人でグループが出来やすい。
更に、SNSは登録者数やビュー数などが定量化されているので、発言などの行動が「うけている」のかどうかという即時フィードバックが返ってくる。だから、集団内での発言や行動は一定方向に極端になりやすい。一方で、多様な異論は「再生数が回らない」からそもそも出にくい。更にいうと、そういう異論はグループ内の多数派の違和感を掻き立てるので、求められてないし、異論を言うと袋叩きに合う可能性もあるから、多様な意見はグループ内でだんだん縮小・消滅していく。
SNSと人間の脳のバグが、悪魔的な合体を遂げて、社会がバラバラになっていくのを目撃しているように思います。
でも、逆に考えると、テクノロジーで分断を減らす方法もあるはず。特に、山本七平の『「空気」の研究』にインスパイアされたアイデアが面白いんじゃないかと思っています。彼は、集団の感情が「空気」となって理性的な対話を邪魔するって書いてて、この「空気」を打破するには、「冷水を浴びせることが有効」って話してるんです。
感情が暴走してる時って、論理的に話して説得しようとしても、あんまり効果ないですよね。それよりも、冷水をかけるみたいに「ハッ」と目が覚めるような一言がみんなの冷静さを取り戻す。
この「冷水をかける」機能を、AIなどのテクノロジーで作れないかなって考えるんです。
例えば、山本七平が出していた例だと、「出版をしよう!」と仲間内で盛り上がっているところで、誰かが「そうは言っても、先立つものがねえなあ・・・」とポツリと言ったところ、出版で盛り上がった熱量が一気に冷めた、という話をしています。
ある瞬間に何を言うと「ハッとする」かは、人間にはなかなか思いつくものではないわけですが、AIは大規模な計算から、そのような「冷水をかける」一言をひねり出すのが得意なのではないでしょうか?熱くなりがちな対話や議論の場に、冷静さを取り戻させるAIを設置することで、感情的で極端な行為に歯止めがかけられないか、そんなことを考えています。
まとめ:自分の「正義感」を疑ってみる
というわけで、今日はネットの分断と誹謗中傷について、歩きながら考えてみました。SNSが脳のバグを悪用して、正義感を武器にみんなを攻撃者に変える。でも、テクノロジーでその流れを変えられるかもしれない。なんか、希望と絶望が混ざった話だけど、こういうの考えるの、嫌いじゃないです。
もしこの記事が面白いと思ったら、ぜひSNSでシェアしてもらえると嬉しいです。また、コメントで「自分もこんな経験ある!」とか「この解決策どう思う?」って教えてください。僕も、テクノロジーのアイデアとか、ブログでまたシェアできたらいいなと思ってます。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます! 家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い