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日本のリスク回避文化と大阪万博 – 歩きながら考える vol.44

2025.05.19 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今日のテーマは日本のプロジェクトマネジメントにおける「不確実性の回避の高さ」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは! 今日も鴨川沿いをランニングしながら、頭に浮かんだことをシェアしようと思います。もうすぐ家に着くんですけど、その前に、最近読んだ新聞記事からヒントを得た話を。テーマは、大阪万博と日本の「石橋を叩いて壊す」リスク回避文化。チェコのパビリオン担当者が「大阪で積雪対策って必要?」と困惑したエピソードから、ちょっと深掘りしてみます。グローバルな舞台で日本の「慎重さ」がどう見えてるのか、歩きながら考えてみます

チェコ担当者の困惑:日本の「やりすぎ」ルール

まず、きっかけになったのが、2025年5月8日の朝日新聞の記事。大阪万博の海外パビリオン建設が遅れてる話で、特にチェコのパビリオンのエピソードに目が止まりました。チェコの担当者が、仮設建築の許可を取るのに四苦八苦したって言うんです。日本のルールが複雑で、許可も何種類も必要。エピソードの一つとして伝えられていたのが「積雪に耐えられるか」のチェック。「大阪ってそんなに雪降るんですか?」と思ったそうです。もちろん、安全対策は万全にする必要があるわけですが、そういう印象をチェコの方が持ったの、めっちゃわかる(笑)。

この話、なんか日本の「石橋を叩いて渡る」文化を象徴してるなって思います。安全第一は大事だけど、叩きすぎて石橋壊しちゃうくらい慎重な感じ。書類を山ほど提出したり、許可のプロセスがやたら長かったり。日本の企業や行政で仕事したことある人なら、「あー、あるある!」って思うんじゃないでしょうか。万博みたいな国際舞台で、海外から「ほんとに必要な手続きなんですか?」ってと思われるの、気持ちは痛いほどよくわかります。

なんで日本ってこんなに慎重なんだろう? そこから、文化の話に飛び込んでみます。

集団のルール:日本は「不確実性の回避が高く」「規範キツめ」

この日本の慎重さを考えるのに、2人の学者の研究がめっちゃ役立つんです。まず、オランダの社会心理学者/経営学者であるヘールト・ホフステード。彼は国の文化を6つの次元で比べる研究をしました。その一つの次元が「不確実性の回避」。未知のものや曖昧さをどれくらい心理的に避けようとするかという指標です。日本はスコア92で、めっちゃ高い! つまり、リスクや不確実なことに関しては心理的に不安を感じるので、ルールや計画をしっかり作っておきたいという傾向が強くなります。チェコもスコアでいうと不確実性の回避が低いわけではない(スコア74)のだけど、日本の高さは突出しているようですね。文化的には割とルールや計画は厳密なんじゃないかと思うチェコの人から見ても、日本の「許可だらけのプロセス」は「なんでそこまで?」って感じるのかもしれません。

もう一つ、アメリカのミシェル・ゲルファンドの「きつい文化/ゆるい文化(Tightness/Loosness)」という理論でも似たようなことが言われています。きつい文化は、規範が厳しくて、ルール破りを許さない。日本は調査された33カ国の中でも特にタイトな文化の一つとされます。一方、ゆるい文化は、多少のルール上のフレキシビリティは許容される。日本だと、万博の建設で「何かあったら大変!」って、細かいチェックが山ほど入るのも、この「きつい文化」の表れなのかもしれないですね。

ホフステードの「不確実性の回避の高さ」とゲルファンドの「きつい文化」のどっちで見ても、万博における海外の担当者からのルールや規則の細かさに対する不満は、「あ、やっぱり日本らしいな」って納得感が出てきます

グローバルな舞台で日本の慎重さはどう映る?

大阪万博は、世界中から人が集まるイベントだから、各国のパビリオン建設は、異文化のぶつかり合いみたいになるのかもしれないですね。チェコの担当者が「日本のルール、厳しすぎ!」って感じたみたいに、ホフステードの不確実性の回避やゲルファンドのきつい文化が、グローバルな舞台でどう映るかが面白いところ。日本は「完璧にやらなきゃ」ってガチガチにルール作る傾向がありますが、海外からは「もっと柔軟性もってやれば良いのに」って見られがちなのかもしれません。

グローバル化が進む中で、日本の「慎重さ」は強みでもあるけど、スピードや柔軟性が求められる場面では足かせになることも。万博で見られた日本と海外との担当者の「当たり前」の間隔の違いは、単なるスケジュールやプロセスの問題じゃなくて、日本文化が世界とどう向き合うかの試金石なのかもしれません。

どうすればいい? リスクの「最適化」を考える

さて、この日本文化の「石橋を叩きすぎ」問題、どうすればいいんでしょう?

慎重であることは、それ自体、別に問題というわけではないと思いますが、 必要以上に慎重になるのは防ぎたい。そのためには、「どのくらいのリスクがOKか」を意識的に考えて明示する仕組みが必要だといます。日本は不確実性の回避が高い文化なわけだから「どれくらいルールを逸脱して良いか」もルール化したおいたほうがみんなが動きやすくなる(笑)ということかもしれないですね。なんか箱の中の箱みたいな話ですが。

たとえば、プロジェクトで「リスク評価のガイドライン」を作って、「ここまでは慎重、ここからはスピード優先」って線引きする。

2025年の今、グローバル対応やDX環境でのマネジメントを考えるのであれば、「完璧じゃなくても進む」勇気も大事なんじゃないでしょうか。

まとめ:万博で日本の「慎重さ」を知る

というわけで、鴨川沿いを走りながら、大阪万博と日本のリスク回避文化について考えてみました。チェコの「積雪ってほんとですか?」から、ホフステードやゲルファンドの文化理論を参照しつつ、「日本らしさ」を考えてみました。

もしこの話が「へー、面白い!」って思ったら、ぜひSNSでシェアしてくれると嬉しいです。家に着いたんで、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう。

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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