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「私」から「私たち」へ:出世の鍵は主語のシフト? – 歩きながら考える vol.49

2025.05.26 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今日のテーマは「主語をI(=私)からWe(=私たち)に変える効果」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは! 今日も移動時間を使って、ちょっと考えごとをシェアしようと思います。今週は東京で、いま新宿の街を歩きながら、駅に向かってるんですけど、5月17日の日経新聞のコラムで山田尚史さんが書いていて面白いな、と思ったことについて話したいと思います。記事では、会社で活躍する若手メンバー向けに、「私(I)」ではなく「私たち(We)」という視点を持つと、職場での出世や影響力の鍵になるという話が語られていました。今どきの職場で、この「私達(We)」のマインドセットがどう響くのか、歩きながら考えてみます。

コラムで語られる「私達(We)」の力

山田尚史さんがコラムで語っていたポイントはシンプルで面白かったです。主語を変える、という話。職場で質問されたとき、「私はこう思う」とか「これが私の課題です」と、主語を「私」で語ると、リーダーとしてはちょっと弱い。逆に、「私たち」という主語で考えると、自然とチームや組織の課題に目が向くことになるので、ぐっとリーダーっぽくなる。例えば、「私」の代わりに「私達」を主語にすると、「私の問題は〇〇なんです」じゃなくて、「私たちの問題は〇〇なんです」になる。自然と視座が組織目線になります。

これは、めっちゃ納得感があるんじゃないでしょうか。だって、普段の会話で「私」って言うのではなく、「私たち」って意識すると、視野がパッと広がる。例えば、会議で「私たちの部署は、どう進めるのが良い?」って話す人、なんかリーダーっぽくて頼もしく見えますよね。この「私たち」のマインドセット、日本の文化とめっちゃリンクしてるところもあり、そこが面白いんですよ。ちょっと、掘ってみましょう。

上下と左右:リーダーシップの二つの顔

この「私」か「私たち」かの話、文化的に見ると二つの意味があると思います。一つは「上下の話」、つまり権力や階層の視点。もう一つは「左右の話」、つまり仲間やチームとのつながり。

まず、上下の話。コラムの「私たち」は、リーダーが組織全体を高いところから見て、責任を取る視点の話がメインかなと思いました。オランダの社会心理学者・経営学者のヘールト・ホフステードの文化研究に基づくと、日本は権力格差が真ん中より少し高く(スコア54)、階層の意識は根強くあります。集団のメンバーは組織内の権力の不平等さを受け入れる傾向が強くなります。そのため、メンバーはリーダーは「私たち」の責任を背負って、チームや会社を導く姿勢を持っていることを期待します。別の理論だと、比較文化心理学者であるトリアンディスの定義で「垂直的集団主義」ということになるんだと思います。日本だと、課長や部長が「うちの部署として」って話すとき、この雰囲気ありますよね。「私たち」の視点は、この垂直的集団主義において期待されるリーダーシップの醸成に効きそうです。

で、もう一つの左右の話。これは、チームや周りの人の気持ちを考える視点。先程のトリアンディスは、この視点を「水平的集団主義」と呼びました。また、アメリカの文化心理学者であるヘーゼル・マーカスとミシガン大学の北山忍先生の「相互協調的自己観」の観点とも考えられます。相互協調的自己観って、自己と周囲の他者との間の境界が曖昧な状態。日本は相互協調的自己観が主流ですが、自分だけでなく自然と周囲の他者の気持ちや考えに意識が向きます。たとえば、会議で「みんなの意見を聞いてから決めよう」って姿勢、めっちゃ日本っぽい。コラムの「私たち」の視点は、この感覚ともリンクしており、日本の文化的背景と相性が良いと思います。

日本の話? いや、グローバルな話!

で、この「私たち」の視点、日本だけじゃなくて、集団主義で権力格差が高い文化圏では共通して重要な視点なのではないかと思います。ホフステードの指標だと、中国(権力格差80、個人主義20)、韓国(権力格差60、個人主義18)、台湾(権力格差58、個人主義17)、マレーシア(権力格差100、個人主義26)、サウジアラビア(権力格差72、個人主義48)、コロンビア(権力格差67、個人主義13)など、アジア・中東・南米・アフリカ等がこのパターンに当たります。

まとめ

というわけで、今日は日経のコラムから始まって、「私」から「私たち」へのシフトが日本やアジア、中東、アフリカ、南アメリカのような権力格差が高く集団主義の文化におけるリーダーシップ醸成の鍵なのかもしれないという話を歩きながら考えてみました。上下の責任感と左右のつながり、グローバルな文化の共通点、心の仕組み、実際のアクションまで、重要になると思います。

もしこの話が面白いと思ったら、ぜひSNSでシェアしてくれると嬉しいです。僕もまた、このテーマでコラム書いたり、職場で実験したり、進捗をまたブログでシェアしたいと思います。

駅に着いちゃったんで、今日はこの辺で。最後まで読んでくれて、ありがとうございます! また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!

 

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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