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メディア環境を考え直す – 歩きながら考える vol.5

2025.03.15 渡邉 寧
「歩きながら考える」vol.5

このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚でお届けしています。散歩中のちょっとした思いつきを、ぜひ一緒に味わってみてください。

歩きながら考えるvol.5メディア環境を考え直す

こんにちは。今日は「日々の情報をどのメディアから得るか」というテーマで、歩きながらふと思ったことをお話ししようと思います。

テレビ断捨離から始まったネット生活

最近、いわゆる「ネット情報」から少し距離を取ろうかと思っています。X(Twitter)などのSNSでニュースは流れてくるので、それだけで事足りると思っていたのですが、考えを変えました。ネットの情報も見るのですが、「オールドメディア」代表格の新聞を読む時間を一日の中で確保するようにしています。

現代は個人主義の世の中で、メディアも個人化・個別化が進んでいます。誰もが共通して毎日見るメディアが年々少なくなり、新聞やテレビのようなオールドメディアを見る人は、特に若い世代ではかなり少なくなっていると思います。

私も例外ではありません。そもそも私は、いわゆる「オールドメディア」と呼ばれるテレビや新聞などのマスメディアからの情報収集を、ずいぶん長い間してきませんでした。もう20年以上、家にテレビが無いんです。

また、新聞も主要な情報源にはしていませんでした。仕事の都合で日経新聞や政治・経済系の雑誌を購読することはあっても、基本的にはニュースはネットで見る生活を送っていました。ネットだけでも困ることは特にありませんでしたし、「マスメディアはくだらない」と思っていたので、マスメディアの情報から距離を置いて特に問題を感じることもありませんでした。

新聞イメージ

YouTubeで芽生えた違和感~兵庫県知事選挙をきっかけに

ところが、YouTubeが登場してからは、徐々に違和感を覚えるようになりました。

その違和感が許容値を越えたのは、昨年(2024年)の兵庫県知事選挙のときでした。新聞もテレビも見ていない中で、なんとなくネット情報を追っていたのですが、ある日YouTubeを開くと、登録者数が多い人気YouTuber達が、知事選の「ウラ話」をこぞって語っていました。「〇月〇日にこんなことがあって…」「クーデターの可能性が…」「実は不倫で…」と、刺激的なストーリーを次々に見せられました。

のちに、これらは真偽のはっきりしない情報であったことが明らかに。

人間の脳って、一つひとつの事象について細かく真偽を確認するようにはできていません。特に、影響力のあるインフルエンサーが、一人ではなく複数人そろって同じような話をしていると、それだけで「皆んな同じことを言っているからこれは本当なのだろう」と思ってしまう可能性が極めて高くなります。非常に危うい状況だと感じました。

よくよく考えれば当たり前ですが、そもそも、ネットのインフルエンサーをメインの情報源にすること自体が危ういです。再生回数が直接収入に関わる以上、多少なりともセンセーショナルな情報へ誘導するインセンティブがインフルエンサーには働きます。最初は公正なつもりでも、再生回数の数字に左右されていくのは自然な流れでしょう。

情報収集イメージ

結局、複数のメディアを見るしかない

そんなわけで、XやYouTube等のネットの情報から、ちょっと距離を取る必要を感じ、私は10年ぶりくらいに情報収集の方法を見直すことにしました。

確かに、テレビや新聞などの「オールドメディア」は、これはこれで問題です。例えば、テレビや新聞などのマスメディアは記者クラブを通じて特権的な取材活動をしています。そのため、本当は批判的に報道すべき政府と構造的に利害を共有してしまっているように見えます。本当に必要なことを正しく伝えているのか?と疑問に思います。ネットのインフルエンサーとは異なるインセンティブで、歪んだ情報を伝えている可能性は大いにあると感じます。

一方で、ネット情報も構造的に偏る可能性が高い。こう考えると、結局、オールドメディアもニューメディアも構造的におかしく、情報は偏っていると考えた方が良さそうです。この場合、一つのメディアを信頼せずに、常に複数経路から情報を入手するのが最善だと考えます。

ネットの黎明期には「ネットだけあれば十分」というのが成立していたかもしれませんが、今は情報空間がいろいろな面で歪んでいる。だからこそ、自分がどんな情報に触れるのかを意識的にデザインしていかないと、いつの間にか見方や感じ方が大きく偏ってしまう恐れがあります。

身体が食べたもので作られるように、心は日々取り込む情報で作られるものだと思います。

ジャンクフードを食べ続けても、体調がすぐに崩れるわけではありません。でも長期的には生活習慣病を引き起こしたり、健康を損ねてしまいます。同じように、ネットにせよオールドメディアにせよ、偏った情報ばかり追いかけていると、自分でも気付かないうちに、長期的には認知や考え方が偏ってしまうと感じています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。参考になったと思ったら他の方にもシェアいただけると嬉しいです。この記事が、ご自身の情報環境を見直すきっかけになればと思います。それでは、また次回の「歩きながら考える」シリーズでお会いしましょう。


渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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