BLOGブログ
論理的とはどういうこと? 文化で変わる論理性と効果的なプレゼンテーション – 歩きながら考える vol.52

今日のテーマは、文化によって何が「論理的であるか」が変わるという話について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは! 今日も移動時間を使って、頭を整理しながらゆるくおしゃべりしてみようと思います。もうすぐ仕事の研修会場に着くんだけど、その前に、プレゼンの文化差について話したいと思います。研究発表の議論ミーティングでしっくりこない経験から、論理的なプレゼンというものの文化差について話してみます。
アメリカの結論ファースト、研究発表で盛り上がらない
「今回のプレゼンはキマった!結論が明確!わかりやすくまとめられたから聴衆は満足するだろう!」と思っていたのに、なぜか聴衆の反応が薄く、質問もコメントもほとんど無く、がっかりしたという経験をされたことありませんか?
私はこの手の経験が多くて、特に、研究発表でプレゼンをして議論をする場で、あまりにも反応が薄くてモヤッとすることがありました。
学会の質疑応答でもそういうことが結構あって、「あら、興味ない話をしてしまったかな?」みたいな気まずい空気。まあ、研究内容は個人の関心に基づいていて、割と細かい話をするわけなので、反応が薄くてもしょうがないかなと思っていたのですが、最近、盛り上がらない原因の一つが「プレゼンの仕方」にあるのではないかと思うようになりました。きっかけは、名古屋大学の渡部雅子さんの本『「論理的思考」の文化的基盤』で読んだ話。論理的であるということが、文化によって変わってくるという話です。
自分のプレゼンは、基本的にピラミッド・ストラクチャーで「コンクルージョン(結論)・ファースト」の形式で作ります。ビジネスっぽいスタイルで、結論を先にドーン!と言って、その結論をサポートする論拠と証拠をサクッと並べるスタイルですね。マッキンゼーやBCGなどのコンサルティングファームでスタンダードな形式で、企業のプレゼンは基本的にはこのスタイルを踏襲していると思います。
これは、アメリカをはじめとした「経済原理に基づいた論理性」で、相手を説得して行動を促すためには良い形式だとは思います。ただ、どんなときでも有効な「論理的」スタイルではないというのがここでの話。ビジネスの場面では、相手を説得し、行動に移ってもらうことが多いのでハマるけど、ビジネス以外の状況では違う形の論理性の方が相性が良いのかもしれません。
例えば、研究コミュニティでのプレゼンは、相手を説得して行動を取ってもらうことを目的としているわけではないので、アメリカ的な「論理性」に基づいたプレゼンはあまり求められていないのかもしれません。
欧米のスタイル差、不確実性回避が鍵
科学的で論理的な議論は、もともと欧米の個人主義の中で生まれたのだと思いますが、欧米の中でもスタイルに差があります。特に、アングロサクソン系(アメリカとかイギリス)と大陸ヨーロッパ系(ドイツやフランス)で、論理性の出し方がちょっと違います。渡邉さんの本でも、経済原理に基づいたアメリカ型の論理性と、政治原理に基づいたフランス型の論理性が比較されています。
フランス型の論理性は、弁証法の考え方に基づいており、「事実を確認すると〇〇と考えることが出来る」「一方で、同じ事実に基づいても△△という考えもできる」「これらの議論を統合すると▢▢という見方が考えられる」というように、熟慮と第三の答えを探す姿勢のことを「論理性」と呼ぶ傾向が出てきます。
これらの「論理性」の違い、ホフステードの文化次元の議論と組み合わせると、個人主義文化の中での論理性の違いについて、少し理解が進むかもしれません。アメリカは結論ファーストが「論理的」。ホフステードの文化次元理論で言うと、アメリカの文化は、不確実性回避が低くて(スコア = 46)、短期志向(スコア = 26)。結論をパッと言って、短期的に、フレキシブルに行動に移せることに価値が置かれる傾向にあります。一方、ドイツやフランスは不確実性回避が高く(それぞれの指数 = 65, 86)、長期思考(それぞれの指数 = 83, 63)細かいデータや事実をガッツリ並べて、みんなで時間をかけて熟考して結論を磨き上げるのが「論理的」。そんな「論理性」が自然に受け入れられているところで、コンクルージョン・ファーストでいきなり結論言われても、「いやいや、まずは事実の提示から始めてくれ」ってなるかもしれませんね。
ここから考えると、研究コミュニティはアメリカ型の「論理性」じゃなくて、ヨーロッパ大陸型の「論理性」の方が相性が良いのかもしれません。データや前提をじっくり共有しないと、信頼されず議論が動かない気がする。
場面で切り替えるのが「本当の」論理性
この話が重要だと思うのは、「論理的」なプレゼンって一つじゃないってことですね。ビジネス文脈で、聴衆を説得してアクションを取ってほしいのであれば、アメリカ型の結論ファーストのプレゼンが相性が良いかもしれない。一方で、研究発表の場や、ブレストを目的としたプレゼンの場であれば、大陸ヨーロッパ型のプレゼンの方が相性が良いかもしれない。大事なのは、場面でプレゼンのスタイルを切り替えること。
ビジネスミーティングなら結論3分、学会なら背景とデータで10分、みたいなテンプレートを頭に入れておく。日本は不確実性回避が高い(指数 = 92)から、こういうルールがあると、みんな安心して準備できるんじゃないかと思います。チームや企業で「場面別の論理的プレゼンテーションの指南書」を作ったら、プレゼンもマネジメントもスムーズになるんじゃないかと思います。
まとめ:文化で論理性をハック
というわけで、今日は「『本当の』論理的プレゼン」を歩きながら考えてみました。場面に応じて、何が「論理的なのか」の認識を切り替えられるようになると良いですね!
もし、この話が面白いと思ったら記事をSNSでシェアしてくれるととても嬉しいです。「自分もプレゼンで空回ったことある!」って人いたら、是非体験談を教えて下さい!
研修会場に着いたので、今日はこの辺で。最後まで読んでくれてありがとうございました!また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い