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大の里の横綱昇進に見る、個人と集団のハイブリッド文化 – 歩きながら考える vol.54

2025.06.02 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今日のテーマは、大の里の横綱昇進を機に考える、文化統合の可能性について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、先日の大の里の横綱昇進から考えた「現代日本人のアイデンティティ」について話してみたいと思います。朝日新聞の記事を読んでて、これからの日本人の方向性のようなものを感じました。今回はそんな話を、ゆるく考えてみようと思います。

土俵の壁にモニター。相撲界も合理的トレーニング?

今回の話のきっかけは、2025年5月28日の朝日新聞の記事(「大の里が破った定説 大卒力士が大相撲を席巻、稽古は効率的に」)を読んだこと。記事を読んでいて、「へー、そうなんだ」と思ったのが、大の里の母校・日本体育大学の稽古法です。土俵が3つあって、それぞれの壁面に大型モニターが備え付けられてる。取組が終わったら即座に映像で自分の動きを確認できるシステムとのこと。

だいぶ合理的なんだな、という印象をもちました。客観的な視点で自分の動きを把握して、即座にフィードバックを受けて、次の修正に活かしていく。ビジネスの世界でよく言う「即時フィードバック」と「PDCAサイクル」の完璧な実践例ですよね。

監督の斎藤一雄さんも元アマチュア横綱で医学博士。「相手に力を発揮させないために何をすべきか」勝利から逆算から考える、極めて戦略的なアプローチです。相撲って日本の国技だから、精神論とか根性論の世界かと思ってたんですが、最近の実態は合理的アプローチなんですね。

でも面白いのは、こうした合理的アプローチを取り入れながらも、相撲の本質である「品格」や「礼節」は全く失われてないこと。むしろ、効率性と伝統的価値観が見事に融合してる。これ、現代日本の多くの組織が目指してる姿なんじゃないでしょうか。

「輪島にはまだまだ叶わない」発言の文化的意味

そのように感じたのは、大の里の横綱昇進時のコメント。非常に興味深かったです。大の里は同郷の先輩横綱である輪島について言及された際に「番付的には並びましたけど、輪島にはまだまだ叶わない」って言ったんですよね。

これ、単なる謙遜じゃないんです。京都大学の内田由紀子先生とスタンフォード大学のヘーゼル・マーカスのオリンピック金メダル選手の受賞式でのコメントに関する文化差研究では、北米の選手は成功を自分の能力のおかげだと言及する傾向がある一方、東アジアの選手は他者への感謝・謝辞を示す傾向が強いことが示されています。

大の里のコメントは、まさにこの典型例じゃないでしょうか。自分の成果よりも、先輩への敬意を優先する。でも同時に、科学的稽古法で個人のパフォーマンスを最大化もしてる。つまり「個人の能力向上」と「周囲への配慮」を両立させてるんじゃないかと感じます。

これって、現代日本人の多くが「立派な人」と考えて、自分もそう有りたいと努力してる姿じゃないですか?職場では効率性や成果を求め、個人的な成果を上げることを追求するけど、同時に「空気を読む」ことも「周囲に対して配慮を示す」ことも行う。グローバル企業で個人として成果を出しつつも、飲み会では「お疲れ様でした」って挨拶する。そんな文化的な使い分けを、大の里は相撲の世界で自然にやってるように見えます。

ハイブリッド文化としての現代日本人の方向性

こうして見てみると、大の里の事例が教えてくれるのは、「対立するものを統合する可能性」なんじゃないかと思います。

個人主義vs集団主義や、相互独立性vs相互協調性って、文化的な対立軸として語られますが、個人のレベルだと、現実の私たちは、状況に応じてこの両方を使い分けてますよね。大の里みたいに、科学的合理性で個人の能力を最大化しつつ、同時に伝統的な価値観や人間関係も大切にする。

これって実は、現代日本が提示できる新しい姿なのかもしれません。文化的に「どちらか一方である」んじゃなくて、「どちらも同時に実現する」という第三の道。グローバル化が進む中で、自分たちらしさを失わずに成長していく方法として、参考になるんじゃないかと思います。

まとめ:大の里から学ぶ文化統合の力

というわけで、今日は大の里の横綱昇進から、現代日本人の文化的アイデンティティまで考えてみました。伝統と革新、個人と集団、科学と精神性。こうした一見対立する要素を自然に統合していく力って、ちょっと憧れますね。

もしこの記事が面白いと思ったら、ぜひSNSでシェアしてくれると嬉しいです。また、みなさんの職場や日常でも「伝統と革新の両立」で悩んでることがあったら、ぜひコメントで教えてください。大の里の事例から、何かヒントが見つかるかもしれません。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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