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毎日が給料日だったらどうなる?日本型雇用に「日々決算」を組み込む案 – 歩きながら考える vol.61

今日のテーマは、給料を「月給」から「日給」に変えることの効果に関して。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日はお昼のランチ時間を使って、最近考えていることを話してみようと思います。給料の支払い方について考えてたら、「毎日が給料日」っていうアイデアにたどり着いて、これがなかなか興味深い展開になったので、歩きながら考えてみますね。
若い世代が求める新しい給与支払いの形
きっかけは、2025年5月23日の日経新聞で見た「サヨナラ給料日、若者は正社員も「前払い」 導入企業2倍」っていう記事でした。最近の若い人たちの間で、従来の月給制度にこだわらない給与支払い方法が人気を集めているそうです。給料日を待たずに働いた分の給料を受け取れる「前払いサービス」の導入企業が2倍に増えているとか。
記事のコメント欄で知ったんですけど、アメリカでは給料の支払い頻度が全然違うらしいんです。「2週間に1度」が43.0%で最多、「毎週1度」が27.0%。日本で一般的な「毎月1度」は、わずか10.3%しかないそうです(出典 U.S. Bureau of Labor Statistics)。
日本では正社員なら月給が当たり前で、誰も疑問に思わない。でも世界的に見たら、それが普通というわけではない。なぜこんなに違うのか、ちょっと考えてみたいと思います。
日本型雇用の光と影
日本の大企業で一般的なメンバーシップ型雇用は、長期的な雇用関係を前提としています。もともとは、安定した雇用環境の下で、じっくりと人材を育成し、その所属意識からくるモチベーション向上を期待するシステム(家族型組織文化)でした。
月給制度も、この長期的な関係性の一部として機能していたんだと思います。毎月決まった日に決まった額が振り込まれることで、生活の安定と将来への見通しを提供していた。
でも最近は、この仕組みの負の側面に光が当たるようになってきました。仕事の方向性がブレても修正しにくい、余剰人員の問題、個人のスキルと仕事内容のミスマッチがあっても雇用が継続してしまう。長期的な安定性が、かえって組織の硬直化を招いているケースもあるように見受けられます。
稲盛和夫さんの「日々採算」という知恵
ここで思い出したのが、京セラ創業者の稲盛和夫さんの経営哲学です。稲盛さんは「日々採算をつくる」という考え方をとても大事にしていました。
「経営というものは、月末に出てくる採算表を見て行うのではありません。細かい数字の集積であり、毎日の売上や経費の積み上げで月次の採算表がつくられるのですから、日々採算をつくっているのだという意識をもって経営にあたらなければなりません」
稲盛さんは、毎日の数字を見ないで経営するのは「計器を見ないで飛行機を操縦することと同じ」だと言っています。これ、個人の働き方にも応用できる考え方じゃないでしょうか。
長期志向の中に規律を持ち込む「日々決算」
ここで提案したいのが、日本型の長期的雇用の安定性を維持しながら、給与支払いタームを超短期化するというアイデアです。つまり、「毎日が給料日」にする。
もちろん、日々のパフォーマンスで給料が変動するわけではないかもしれません。金額は同じであることが大半でしょう。でも、毎日給料が振り込まれることで、「今日1日、自分は何の仕事をしたのか」を振り返るきっかけになる。朝の計画と夜の振り返りが、自然と習慣化されるのではないでしょうか?
これは、長期志向の中で短期的な規律を持つための仕組みなんです。メンバーシップ型という集団主義的な枠組みは維持しつつ、その中で個人の振り返りと成長を促す。日本的な良さを残しながら、個々人の能力開発や職場全体のモラル向上を制度的に担保する方法になるかもしれません。
日々の仕事内容を微調整し、スキルと仕事のマッチングを改善し、同時にモチベーションも維持する。「日々決算」は、そのための一つのツールになり得るんじゃないでしょうか。
技術が可能にする新しい働き方
システムの問題や経理の手間など、実務的な課題はあるでしょう。でも、PayPayなどのフィンテックサービスの普及で、技術的にはもう可能な時代です。
労働基準法も「毎月1回以上」と定めているだけで、毎日払いを禁じているわけではありません。あとは、この仕組みをどう活用するかという発想の問題です。
若い世代が前払いサービスを求めているのは、もちろん日々の生活費が必要だからという要因が大きいとは思いますが、直感的に仕事と報酬との間隔は短いことが当たり前と感じている点もあるのではないかと思います。働くことの意味や価値を、もっとリアルタイムで実感したいという欲求の表れと言えるかもしれません。その欲求に応えながら、日本型雇用の良さも活かす。そんな新しい働き方が、「日々決算」から生まれるかもしれません。
というわけで、今日は「毎日が給料日」というアイデアについて、歩きながら考えてみました。日本型雇用の課題と、稲盛さんの経営哲学、そして新しい世代の価値観が交差するところに、面白い可能性があるなと思います。
もし、この話について何か思うところがあったら、ぜひSNSで感想を聞かせてください。長期的な安定と日々の振り返り、この両立についてみなさんはどう思いますか?
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い