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AIが官僚の仕事を救う?文書主義とLLMの意外な相性 – 歩きながら考える vol.70

今日は、AIは官僚の仕事と非常に相性が良いのではないか?という話について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は駅から家に帰りながら、ちょっと面白いことに気づいたので、そこから浮かんだアイデアを話してみようと思います。
立て続けに2つの記事を読んだんです。1つ目は日銀が生成AIを導入するという記事。2つ目はキャリア官僚の志願者が10年で3割減ったという記事。全然違う記事なんですけど、これを続けて読んでたら「あれ、これってもしかして…」と思ったんですよね。官公庁におけるAI活用が何を変えるのか、ちょっと考えてみたくなって。歩きながら、ゆるく共有してみます。
官僚の仕事が「爆速」になる?1日100回の意思決定サイクル
まず最初に、日銀が生成AIを導入するという記事の中で、データの分析、図表を作成するためのプログラムを書くところでAIを使うという話が出ていました。
これ読んで、「あ、これ私の経験と同じだ」と思ったんです。私も研究でデータ分析をよくやるんですけど、取得したデータを分析するためにRのコードを書かなきゃいけないんです。昔は、どんなに早い人でも、コード書くのに結構時間かかってました。過去に書いたコードを組み合わせたりするわけですが、エラーが出ることがあり「あれ、なんでエラー出たのかな」って確認して、変数名の修正して…みたいな。
でも今は、基本的にAIがコードを書いてくれるようになったので、分析が爆速になりました。数百行のコードが1秒で出てくる。これによって何が変わるかっていうと、「考えて分析して、アウトプットを出して、評価して」っていうサイクルが、1日10回だったのが100回くらい回せるようになったんです。
これ、官僚の仕事にも当てはまると思うんですよ。情報を調べて、データを分析して、政策を考え、シミュレーションをして、文書を作って、関係各省と調整して…このサイクルが10倍速になったら、どうなるか。今まで1週間かかってた政策検討が、半日で終わるかもしれない。
文書主義がAI時代の「強み」に変わる逆転現象
ここで面白いのが、日本の官僚制の特徴である「文書主義」が、実はAI時代にめちゃくちゃ相性が良いかもしれないってこと。
社会学者のマックス・ヴェーバーは、近代官僚制の特徴として「文書による事務処理」を挙げました。すべてを文書化することで、後から検証できるし、組織として一貫性のある意思決定ができる。でも同時に、アメリカの社会学者ロバート・マートンは、この文書主義が「訓練された無能力」を生むと批判したんです。
マートンの指摘はこうです。本来、効率的な組織運営という目的のために作った文書作成という形式が、時間が経つにつれて、その形式を守ること自体に過剰なリソースを使うようになる。結果として、本来やるべき仕事ができなくなったり、本質的な問題解決やイノベーションが進まなくなったりする、と。
でも、ちょっと待てよ、と。現在のLLM(大規模言語モデル)って、まさに文章の学習によって作られてるわけですよね。つまり、文書中心の仕事こそ、AIが最も得意とする領域なんです。
官公庁の「フォーマットが結構細かくて、書きっぷりにも色々な制約がある」っていう、今まで非効率の象徴だった部分が、実はAIにとっては「学習しやすい明確なパターン」になる。なんか、弱みが強みに変わる瞬間を見てる気がしません?
「理不尽な仕事量」から「国を作る知的労働」へ
キャリア官僚の志願者が減ってる理由の一つが、理不尽な仕事量だって言われてます。国会対応とか、大量の資料作成とか。
でも、その「大量の資料作成」こそ、AIが支援できる部分なんです。つまり、官僚は本来の仕事である「国という大きな単位の社会を作っていく」という知的労働に集中できるようになる。
ここからが本題なんですけど、AIによって官僚職の魅力が復活する可能性があるんじゃないかと思うんです。
官僚の仕事の本質って何かというと、国という単位で、そこに暮らす人々の幸福度にダイレクトに影響を与える、極めて意義の高い仕事なんですよね。しかも、数十年から100年という超長期のスパンで国の政策を考えていく。
民間でも意義深い仕事はもちろんできます。でも民間の場合は、やはり利益を出し続けなければ事業運営ができないという制約がある。だから、そこまで長期の事業計画を考えたり、国レベルで影響が及ぶような事業を考えたりする機会は、それほど多いわけではない。
それに比べると、官僚の仕事というのは、超長期かつ範囲が広い、専門性が非常に高い仕事なんです。AIによって、書類仕事や無駄に見えるプロセスみたいな労働量が相対的に小さくなれば、頭を使って国の未来を考えるという、本質的な仕事により多くのリソースを投入できるようになる。
その結果、官僚という仕事の持つ本来の魅力が際立ってくる。そうなれば、今は敬遠されがちな官僚職を目指す人が増える未来もあるかもしれません。
まとめ:AIで官僚職が「復活」する未来
というわけで、今日は「AIが官僚の仕事を救うかも」という話を、歩きながら考えてみました。
もしこの記事を読んで「なるほど」とか「いや、それは楽観的すぎる」とか思った方がいたら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。みんなでこの可能性について議論できたら面白いなと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い