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今回は、2025年の参議院選挙で見られている外国人排斥の動きと労働力不足について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は参議院選の各候補の主張を動画で見ながら、ちょっと考えていることについて話したいと思います。外国人排斥を主張する政党が、もはや泡沫政党と呼べなくなっています。また、複数の政党から同じような主張が出てきています。
一方で、日本の外国人問題ってこれまで「労働力不足をどう補うか」という観点の一つとして議論されてきたじゃないですか。現に今も230万人の外国人労働者が日本で働いている。
もし本当に外国人を排斥したら、この労働力不足の問題はどうなってしまうのでしょうか?今日はこの問題について考えてみたいと思います。
384万人分の労働力が足りなくなる現実
まず、現状でどれくらいの労働力が不足しているか。
パーソル総合研究所の推計によると、2035年には約384万人分の労働力が不足するそうです。原因はシンプルで、少子高齢化による人口減少。団塊世代が後期高齢者になり、若い世代は減る一方。これはもう避けられない現実なんです。
もしこの不足分も含めて、外国人を入れずに日本人だけでやっていくなら、何らかの形で労働力を確保する必要があります。
特に深刻なのが、すでに外国人労働者が多く働いているエッセンシャルワークの分野です。サービス業、製造業、介護、建設…。コンビニ行っても、建設現場見ても、介護施設行っても、外国人の方々が働いてますよね。
つまり、エッセンシャルワークの中で労働力不足の問題を解決しない限り、日本社会は回らない。
AIエージェントがデスクワークを劇的に変える
一つの可能性は、日本の労働人口(現在は約7000万人)の中で、最適化をして余剰な業界から不足しているエッセンシャルワークへ労働力を移動させることかもしれません。その際に考えられるのが、AIとロボットを極限まで活用するということです。
例えば、デスクワークを考えてみましょう。労働者の30〜40%程度がデスクワークに従事しているとすると、2000〜3000万人がこの仕事をしていることになります。
デスクワークの仕事は、AIによって劇的に変わる可能性があります。なぜなら、デスクワークの仕事は文書に関係する程度が大きいからです。
日本の組織は文書主義で動いています。取り決めやルール、発注書・受け取り書、それから報告を文書として残して、それによって集団内の共通認識を作って物事を前に進めていく。官僚組織が最たるものですが、日本企業でも同じようなやり方をしていますよね。
最近だとClaude CodeとかGemini CLIなどが出てきて、AIに自律的なエージェントとして動いてもらうことが一般化してきました。すなわち、単純にチャットするだけじゃなくて、そこから他のアプリケーションを操作して、例えばPowerPointのスライドを作ったり、Excelの表を作ったり、それをネット経由でメールで送ったりということが、すでに可能になっています。
これを活用すると、デスクワークの仕事が劇的に減るのは目に見えています。プログラマーだと、最近のアメリカのIT企業では、1人の従業員が扱える仕事量は5~10倍になるとよく言われています。多くのデスクワークはここまで生産効率が上がるわけではないと思いますが、数十パーセント程度の効率性アップは楽に見込めるのではないでしょうか。そうすると、百万人単位で、エッセンシャルワークに移れる労働人口が見込めるようになります。
エッセンシャルワークでもAI・ロボット化は進む
さらに、エッセンシャルワークの領域でも、AI・ロボットによる効率化は着実に進むでしょう。
例えば、小売店舗では無人レジやセルフレジの導入が加速していて、Amazon Goのような完全無人店舗も実験段階から実用段階に入ってきています。工場では産業用ロボットの活用がさらに進化し、これまで人間にしかできなかった複雑な作業も自動化されつつあります。
物流倉庫でも、ピッキングロボットや自動搬送車が当たり前になってきました。建設現場でも、ドローンによる測量や重機の自動運転など、省人化技術の導入が進んでいます。
これらの施策を積極的に推進することで、エッセンシャルワークの領域においても必要な労働力の数自体を減らしていくことができるはずです。
これらを全て合わせると、ざっくりとした数値上は、もしかしたら外国人を入れる必要はないということが可能になるかもしれません。
ただし賃金の問題は政策的解決が必要
このような形で7000万人の労働人口の中の流動性を高めたり、配分の最適化を促すような方向に進めたとして、ただし賃金の問題は政策的な修正が必要になるかもしれません。
例えば、介護職の平均年収は400万円程度で、全産業平均の460万円と比べて50~60万円も低い。なぜか。それは介護報酬制度によりサービスごとに収入額が定められ、事業者が受け取る報酬には上限があるためです。事業者の収入は介護保険料に基づく報酬単価とサービス提供量で決まるため、人手不足が深刻でも支払える賃金には限界があります。人手不足で業務が回らないのに、払える給料にキャップがあるようでは、そこで制度は回らなくなってしまいます。
AI化で企業が得る生産性向上の利益を、法人税や社会保険料として回収し、それをエッセンシャルワークの賃金原資にする等、社会全体での富の再配分が必要になるでしょう。
また、建設業などの外国人労働者の賃金を見ると、日本人に比べて安いことが指摘されています。経営者からすると、人件費を抑えられるのは魅力的だったのだと思いますが、安い外国人労働力を使う方針は中長期で見ると社会にとってあまり良い効果をもたらさない可能性が見えています。現状の外国人排斥感情の源泉になっているし、人件費を抑えられるので、経営努力をしなくても会社が回ってしまい、結果として生産性が下がる結果を招いてしまっているように見えます。
AIとロボット化で腹を括る時
今回は、参議院選挙で外国人排斥の話を聞いていて、外国人を入れないということをするのであれば、果たして労働問題は解決可能なのかどうかということを考えてみました。
結論として、もしそれを選ぶのであれば、AIとロボット化を極限まで進めていくということを国として進めていく必要があり、腹決めをする必要があると思います。
今回、外国人排斥が選挙で声高に叫ばれるようになりました。私は感情論の外国人排斥は価値観として受け入れられません。一方で、そういう感情論が出るのであれば、これをきっかけとして「どうやって労働力不足を解決するか」という現実的な議論を進めて行くべきだと思います。AI化による生産性向上と、エッセンシャルワークでの省人化技術の導入、そして待遇改善。これらをセットで進めれば、外国人に頼らずとも384万人分の労働力不足は解決できるかもしれません。その具体的な方法論を示していきましょう。
でも、それには相当な覚悟と政策転換が必要です。本当にその道を選ぶのか。それとも、現状のまま外国人労働者に頼り続けるのか。
この参議院選で、私たちはその選択を迫られているのかもしれませんね。
みなさんはどう思いますか?ぜひSNSでシェアして、ご意見を聞かせてください。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い