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今回は、2025年の参議院選挙で見られている外国人排斥の動きと外国人労働者の待遇について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。昨日のブログに引き続き、今日も外国人排斥の流れについて話していきます。
参議院選挙で各候補の主張を見ていると、外国人排斥を訴える声が複数の政党から上がっているのを目にします。そして、こうした主張に対して、特にリベラル系の政党やその支持者の方々が一斉に嫌悪感と懸念を表明しているのを、ニュースや動画でよく見かけるんですよね。
「差別的だ」「排外主義は許されない」という批判。確かに、その通りだと私も思います。でも、そういう不安を感じる人たちを「差別的だ」って切り捨てるだけじゃ、問題は解決しないんじゃないかなって。今日は、その「なんとなく不安」の正体について、歩きながら考えてみたいと思います。
データでは否定される不安、でも消えない違和感
まず、外国人犯罪に関して。データを見ると外国人の犯罪率って日本人より高いとは言い切れないというのが専門家の見立てのようです。
東京大学社会科学研究所の永吉希久子准教授の分析によると、外国籍+不法残留者の犯罪率は0.4パーセントで、それは総人口における検挙率0.2パーセントより高い。しかし、母数の性質の違いを考慮する必要があり、外国人の場合は労働力として来ている若年・壮年の男性の構成比が大きい。年齢や性別の構成を考慮すると、犯罪率に差があるとは言えないということです。
また、社会保険料に外国人がタダ乗りしているという議論もよく聞かれます。これに関してもデータで確認すると、厚生労働省の統計では国民健康保険の被保険者は約2,525万人。報道によれば、外国人は91万人で被保険者の3.6%なのに、医療費は1,144億円で全体の1.27%。計算すると、外国人1人あたりの医療費は約13万円で、日本人の約37万円と比べて3分の1程度です。これは外国人の平均年齢が若いためで、むしろ保険財政にはプラスに貢献している可能性があるということになります。
じゃあ、なんで不安を感じるのか。「差別するな」って言われても、なんかモヤモヤが残る人が多いんじゃないでしょうか。
建設業で日本人の半分の給料という現実
ここで、ちょっと気になる数字があります。リクルートワークス研究所の分析によると、外国人のエッセンシャルワークの賃金は日本人よりも安く、例えば、建設業で働く外国人労働者の賃金は、日本人労働者の約半分。建設業の外国人労働者の年収は278万円で、建設業労働者の平均賃金水準の51.7%程度だそうです。
一般の人たちは、政策的に日本人と比べて安い労働力として外国人を入れてきたということを詳しく知っているわけではないかもしれません。でも、なんとなく伝え聞いているとか、ニュースで片耳に挟んだことがあるとか、そうした周囲の情報を無意識的に収集しているんじゃないでしょうか。
みんなそこまでバカじゃない。そして、不公平な状況で働かされたら相手がどう感じるか、それくらいは察することができる。
本能的に感じ取る「臨界点」のリスク
現在、日本で働く外国人労働者は約230万人。全労働者の3.4%です。
人数が少ないうちは、不満があっても我慢するかもしれない。でも、これが2倍、3倍と増えたら?同じ境遇の仲間が増えて、不満を共有する機会も増えたら?
一般の人は、そこまで合理的に考えて理解しているわけじゃないかもしれません。でも、「このままの状況で人数だけ増えたら、何か良くないことが起こるかも」というリスクを、本能的に感じ取っているんじゃないでしょうか。
世界の移民問題を見ても、人口の5〜10%を超えたあたりから社会的な緊張が顕在化することが多い。人間って、そういう「臨界点」みたいなものを、経験的に察知する能力があるのかもしれませんね。
問題は「外国人」じゃなくて「不公正な制度」
歩きながらこんなことを考えていたら、家に着いてしまいました。
結局、問題の本質は「外国人が嫌い」とかじゃなくて、「搾取を社会的に見て見ぬふりをしていること」なんじゃないでしょうか。同じ仕事で半分の給料というような、構造的な不公平。これが火薬みたいなもので、今は少量だから大丈夫だけど、量が増えたら不満が爆発し、暴力的なことや社会リソースのフリーライドが横行するようになるのではないかという本能的なリスク察知
だから、本当に必要なのは外国人を排斥することじゃなくて、この不公正な構造を変えることではないかと思うんです。同一労働同一賃金を徹底する。技能実習制度みたいな、建前と本音が乖離した制度は見直す。
そうすれば、外国人への漠然とした不安も、自然と解消されるんじゃないかと思います。
みなさんはどう思いますか?「なんとなく不安」の正体について、ぜひご意見を聞かせてください。SNSでシェアしていただけると嬉しいです。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い