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株式を持つということ、働くということ:職場の幸福感とRSU導入の可能性 – 歩きながら考える vol.93

2025.07.28 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今回は、社員への報酬制度に株を使う試み(例:RSU)が広がってきた件に関して。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は駅まで歩きながら、最近考えていることをお話ししたいと思います。

研究で職場の幸福感を扱っている関係で、私、どういう制度が働く人の幸福感に結びつくかということにはとても興味があるんです。その中で、株式報酬というのは一つの重要なポイントなんじゃないかと思っていて、今日はその話をしていきたいと思います。

自分の畑を耕すということ:一つの思考実験

まず、一つの思考実験として農業の話から始めてみましょう。もし自分が農業をやるとしたら、どういう農業の仕方だったら幸福感が高そうでしょうか。

ポイントは二つあると思うんです。一つは、自分の農地を耕しているということ。小作人として他人の土地を耕すのではなく、自分の土地を持っている。そうすると、自分の土地を土壌改良してより良い土地にしていけば永続的に収穫量が上がる。そういう継続した改善活動を含めて日々の仕事を頑張ろうという気分になるんだろうなあ、と思うわけです。

もう一つは、働いて工夫をして収穫量を上げたら、そのうちのマジョリティを自分の取り分とすることができるということ。小作料をもらって作業するだけだと、なかなかモチベーションが湧きません。工夫したり努力した分が、少なくとも半分以上直接的に返ってくるというのが大事なんだろうなあ、と思うわけです。

現代の大企業で働くということ

さて、では現代の大企業の職場を考えてみましょう。

毎月の給料が決まっていて、会社は自分のものではなく、そこで割り当てられたり指示されたことをやる。これって、農業で言えば小作人のようなものを想像させます。

もちろん、給与体系によっては、その期のパフォーマンスによってボーナス額が大きく変わるところもあるでしょうし、長期的にはパフォーマンスを上げ続けることが昇格につながり、利益を得ることができます。

ただ、それはあくまで雇用される側としての短期的・単発的な支払いに感じるわけです。その仕組み自体を所有しているわけではありません。農業で言えば、この農地を土壌改良すれば継続的に収穫量が上がるような、そういう根本的かつ本質的な工夫が、土地の所有者にとっての大きなモチベーションになる。でも会社の場合、そういう根本的な改善をしても、それが自分の所有物の価値向上につながるわけではない。

これが、職場の幸福感を考えるときの大きな問題なんじゃないかと思っています。

RSUという新しい可能性

ここで注目したいのが、譲渡制限付き株式ユニット(RSU)という制度です。最近日立製作所が導入したことが新聞報道で出ていました。

現在は管理職向けの話かもしれませんが、私はこれを若手の中核人材や希少なスキルを持った専門職にも展開していくべきだと考えています。なぜなら、それによって中長期で若手を含む幅広い従業員が活躍してくれる状況を制度的に担保できる可能性があると思うからです。

株式を持つということは、単なる報酬の問題ではありません。それは自分の工夫や努力が会社の価値向上を通じて直接的に返ってくるという構造を作り出します。会社や事業を成長させれば、それによる直接的な給与増が見込めるだけでなく、継続的に利益を生み出す装置(=会社)を所有することにより、株価上昇による売却や配当による継続的なリターンが見込めます。

目の前の仕事をどう上手くこなすかということだけでなく、オペレーションの根本的な改善により利益を出しやすい体制を作るとか、トップラインを継続的に伸ばすための長期的な顧客との関係性を作るとか、そういう活動を行う強いインセンティブになるのではないかと思います。

若手コアメンバーの中長期雇用

ちなみに、AIが入ってくることで、エントリーレベルの仕事の多くがAIに代替される可能性があります。そうなると、流動性が高く、これまでだったらジョブ型の企業に行ったような優秀な若手を、グローバルから採用できる可能性が出てきます。メンバーシップ型の雇用では、エントリーレベルの仕事はAIが行うからと言って、若手が応募しやすいポジションをすぐさまクローズするということにはならないのでは無いかと思います。そうなってくると、ポテンシャルのある若手にとって、メンバーシップ型雇用制度を持っている企業が新たな受け皿になるかもしれません。

ただし、そういった人材に中長期で働いてもらうためには、制度的な担保が必要です。自社内に留まってもらうためのインセンティブ制度の一つとして、RSUのような仕組みが有効なのではないかと思います。ジョブ型で流動性が高い雇用環境でキャリアを構築しようとしている若手/外国籍メンバーは、エントリーレベルのポジションでスキルや経験を積むと、即、より高給が見込める外資系企業等に転職することがよくあると思いますが、もう少し長く務めるとRSUの対象になるなどの制度的なインセンティブがあれば、キャリア構築の考え方を変える可能性があるのではないかと思います。

まとめ:働くことの幸福感を高める制度設計へ

というわけで、今日は職場の幸福感と株式報酬について考えてみました。

自分の畑を耕すような感覚、つまり所有感と、努力や工夫が直接的に返ってくる仕組み。これが働く人の幸福感を高める重要な要素だと思います。そして、現代の企業においてそれを実現する一つの方法が、株式報酬の積極的な活用、特に若手への展開なのではないかと思います。

株との付き合い方を変えることで、働き方や職場の幸福感は大きく変わるのではないかと思っており、この手のシェアードキャピタリズムの施策がどのように変化していくか今後とも興味深く見守りたいと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。もしこの話について何か思うところがあったら、ぜひSNSでシェアして感想を聞かせてください。職場の幸福感を高める制度について、みなさんはどう考えますか?

それでは、また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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