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学部留学生を増やすのが、人口減少ニッポンの「最も現実的な解」かもしれない話 – 歩きながら考える vol.94

今回は、大学学部からの外国人留学生を増やすことに関して。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、留学生の話をしようと思います。7月26日の日経新聞で「留学生増へ大学定員緩和」っていう記事を読んだんですけど、留学生問題って日本企業の雇用システムや大学の国際競争の話と絡むので、このあたりをちょっと緩く掘り下げて話してみようと思います。。
で、今日の結論を先に言っちゃうと、大学学部のところから海外の留学生を受け入れるというのは、人口構成を考えると最も現実的なアプローチなんじゃないかって話です。歩きながら、ゆるく考えてみますね。
外国人労働者を「一括り」にする危うさ
まず最初に、7月20日の参院選で外国人排斥のテーマが明示的に出てきたじゃないですか。日本の中における外国人労働者をどうするかっていうのが1つのテーマになってました。
でも、この「外国人労働者」って一括りにするのは変ですよね。だって、エッセンシャルワーカーなどの特定職で低賃金で働いてもらう目的で、特定技能制度や技能実習制度を使って入れようとしてきた外国人の話と、日本への留学を経てそれぞれの就労資格を得て働いている外国人や、高度専門職として働いている外国人の話って、全然違う話じゃないですか。
で、今回の大学留学生を増やそうという話は、明らかに後者、つまり日本の大学新卒と同じような若い人に関係する話です。
なぜ「学部から」の留学生受け入れが現実的なのか
ここからが本題なんですけど、なぜ学部段階から留学生を受け入れるのが現実的かっていうと、これは日本の雇用システムの特殊性と深く関係していると思うからです。
日本では、専門スキルや能力、知識は大学や大学院で身につけるものではなく、企業の中でOJTを通じて身につけることがこれまで一般的でした。つまり、最終的に修士や博士の学位を取得するにしても、一度企業の中に入って、その中で必要とされる専門領域や知識を再度明確にして、その後で中期のキャリア構築の中で、人によっては大学に戻って修士、博士を取っていくというのが一般的だったと思います。学部を卒業した後すぐに大学院に進学したとして、それが専門知識として高く評価されるかというと、必ずしもそうでも無かった。
で、政府は博士課程の学生を増やすことを考えて、JSTのSPRINGのように日本人学生だけじゃなくて海外の留学生にも生活費と学費を援助するという仕組みを作ったんですけど、これがこの間の参議院選で問題になったんですよね。「なぜ日本人じゃなくて外国人に金を払うのか」っていう、ちょっと勘違いした議論になってしまった。
でも本質的に、博士課程から大学院の教育課程の留学生を増やすことが日本の産業界に結びつくかというと、それはちょっと怪しいんじゃないかと思います。そのあたりは以前のブログで書きました(「外国人排斥問題から考える:博士課程の奨学金問題に見る日本の人材戦略の問題点 – 歩きながら考える vol.83」)。なぜなら、さっき言ったように、まず学部卒業後に企業に入って、その後大学院に戻るというパターンの方が、正直今のところの日本の雇用制度を考えると、実業界での知識や高度専門労働者を育成するという点で現状に合っているからです。
そう考えると、増やすべきは学部の留学生ということになります。もしくは、もっと言ってしまえば、高校ぐらいから留学生を増やすというのも一つの可能性かもしれません。
学部で日本に留学してもらい、日本語や日本文化への文化適応をし、新卒として一度職業経験を積み、必要であれば修士・博士に進学するというパターンです。
日本の大学、このままじゃマズいけど…
もちろん、課題もあります。
今の日本の大学って、留学生から見たらちょっと魅力がないかもしれない。だって、日本だと大学の意味って、難関大学に入学したことによる「地頭の良さの証明」みたいなものとして使われてきたじゃないですか。どこの大学のどこの学部の入試を突破したのかっていう、その勝負で入社できる企業のランクが決まってくる、みたいな。
だから、大学入学後の大学における教育の水準が高いかどうかとか、学部で何か新しい知識とかスキルを身につけることがキャリアに役立つかとか、そういうのはあんまり関心が払われてこなかったように思います。少なくとも、僕が卒業した時はそうだったし、25年ぶりぐらいに大学戻って授業とか見てると、あまり変わらないなあという気がすごくしました。
そうなってくると、学部教育の質に定評がある欧米の大学と比べられてしまうと、やっぱりちょっと見劣りしちゃうっていうところがあるかもしれません。大学のランクも、国内のドメスティックなブランド競争になっていて、グローバルでどうなのかなというのはちょっと気になります。
確かに今は、中国や韓国の学生も来てくれてますけど、「本当はアメリカ行きたい」とか「本当は欧米の大学に進学したい」けど、家計的に難しいから日本で、っていう人が多いんじゃないかと思います。
それでも、これが一番現実的かもしれない
というわけで、今日は留学生増加の話から、なぜ学部段階での受け入れが現実的なのかを歩きながら考えてみました。
大学側もおそらく留学生を受け入れるなら、より魅力的な学部教育、海外から見た時により魅力的な大学教育を提供できる形に変えていく必要があるでしょうね。それは結果的に、日本の大学改革のきっかけになるかもしれない。
そして何より、日本の中で長い間キャリアを築いて平和的に一緒に暮らしていける人たちが増えてくっていうのは決して悪いことではないので、そういう流れを作る1つのきっかけとして、学部留学生を増やすっていうのはありなのかなという風に思ってます。
もしこの記事を読んで「確かにそうかも」とか「いや、もっといい方法があるんじゃない?」とか思った方がいたら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。人口減少社会でどうやって知識労働の担い手を確保するか、みんなで知恵を出し合っていけたらいいなと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。そろそろ目的地に着きそうなので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い