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AIで頭が良くなる人、悪くなる人:認知能力の二極化について考えた話 – 歩きながら考える vol.97

2025.08.01 渡邉 寧
「歩きながら考える」

今回は、AIを使うことで認知能力が落ちるリスクにどう対処するかということについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は夕方の散歩をしながら、ちょっと考えたことを話してみようと思います。AIと認知機能の話は過去にも何回か書いたことがあるので、最近よく見るこの手の話なんですが、今回もさらにまた少し考えたので、今日はそれを整理して緩く話していきたいと思います。

きっかけは7月16日の朝日新聞に載っていたニューヨーク・タイムズの記事です。「AIを使う誘惑、効率求めるほど浅くなる思考」っていうタイトルで、なかなか考えさせられる内容でした。

AIを使うと脳活動が55%も低下する?MITの実験から見えてきたこと

記事で紹介されていたMITの実験がなかなか衝撃的でした。小論文を書くという課題で、自分の頭だけで書く群、検索エンジンを使う群、AIを使う群の3つに分けて脳波を測定したところ、AI使用群の脳活動が最大55%も低かったというんです。

これ、当たり前といえば当たり前かもしれません。道具を使うということは、その機能を外注するってことですからね。でも、55%って数字を見ると、「えっ、そんなに?」って思いませんか?

前にも書きましたが、これって検索エンジンの時にも同じような議論がありました。「ググればいいや」と思って何も覚えなくなった結果、長期記憶を外注してしまったというのが検索エンジンの時の議論でした。

でも、AIの場合はもっと深刻で、考えることまで外注しちゃっているわけです。

しかも面白いのが、AIを使った人の83%が、後で自分の文章から引用できなかったという話。つまり、AIに書いてもらった文章は、自分の記憶に残らないんですよね。

AIが作り出す認知能力の格差

ここからが本題なんですけど、AIを使うと全員が頭悪くなるかっていうと、そうでもないんじゃないかと思うんです。むしろ、使い方によって認知能力の格差がすごく広がるんじゃないかって。

問題は、AIに丸投げする人と、AIを道具として使いこなす人の差がどんどん開いていくってこと。前者は脳を使わないから認知能力が退化していく。後者は、AIを使って知識を拡張して、そこから自分で深掘りしていくから、むしろ賢くなっていく。

特に心配なのが、子どもたちのことです。脳が発達している段階で、考えることを外注する習慣がついちゃうと、どうなるか。

「コグニティブ・オフローディング」っていう言葉があるんですけど、要は認知的な作業を外部に預けちゃうことです。大人がやる分には、すでに基礎的な思考力があるからまだいいかもしれない。でも、子どもの頃からこれをやっちゃうと、そもそも思考力が育たないんじゃないかという強い疑念があるわけです。

歩きながら考えていて思ったのは、小学生とか子ども世代の場合は、AI禁止という時間を設けることが必要かもしれないってこと。例えば、テスト会場にはAIを持ち込めないという制約を一つつけることで、普段どのようにAIを使うかという使い方が一定程度ガイドされてくると思うんです。そろばんや計算機と一緒ですね。テスト会場に持ち込んではダメということになると、計算練習を事前に大量にすることになりますね。テスト会場でAIが使用禁止なのであれば、事前にAIを使わないで考えたりアウトプットの練習をするようになると思います。

年代別の「型」を作る:エビデンスベースのAIリテラシーへ

認知能力の発達を考えた上で、じゃあ、我々はAIをどう使っていけばよいのか。私が思うのは、年代ごとに適切なAIの使い方を「型」として示すということが必要なんじゃないかということです。

その型はエビデンスベースで研究によってバックアップされていることが望ましいですね。なんとなく「こうした方がいいんじゃない?」じゃなくて、脳科学や認知科学の知見に基づいた指針があると良いですね。ガイドラインなのでゆくゆくアップデートがあるにしても、その時点で最大限に科学的に考えた末の結論として「型」があると良い。

例えば、AIとの「スパーリング」っていう使い方。AIを編集者として使ったり、議論の相手として使ったり。自分のアウトプットを作るために、AIから新しい視点をもらって、それを自分で咀嚼して、また考えて…っていうサイクルを回す。これも一つの「型」ですよね。

でも、これができるのは、ある程度思考力の基礎ができている人だけかもしれません。子供だとスパーリングにならなくて、AIに答えを出してもらっちゃう(=思考を外注する)ようになるかもしれない。だから、発達段階に応じた使い方の型として提示されていると良いですね。

小学生なら、まずは自力で考える時間をしっかり確保する。中高生なら、AIを参考程度に使いながら、批判的に検証する力を育てる。大学生以上なら、AIをフル活用しながら、より高度な思考を展開する、など。

こういう「年代別AIリテラシー」みたいなものを、研究に基づいて作っていく必要があるんじゃないかなって思います。文部科学省もガイドラインを出してるようですが、エビデンスベースで具体的な「型」になっていくと良いと思いますし、幅広い教育研究者の意見も聞きたいです。

まとめ

というわけで、今日は「AIで頭が良くなる人と悪くなる人」について、歩きながら考えてみました。皆さんは、自分のAIの使い方、どう思いますか? アウトプットを作るために使ってますか?それとも、丸投げしちゃってますか?

もしこの記事を読んで何か感じることがあったら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。AIとの付き合い方、みんなで知恵を出し合って考えていけたらいいなと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

渡邉 寧

博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い

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