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日本人のマネジメントはアジアで評価が低い
海外での組織マネジメントは日本人にとっては難易度が高いことが多いようです。事実、日本人マネジメントの評判は海外で芳しくありません。
海外赴任者の課題を明確化するために、実態調査を行った早稲田大学政治経済学術院教授の白木三秀先生は、調査を通じて、トップマネジメント層もミドルマネジメント層も共通して、日本人マネージャーの評価は現地人マネージャーより劣っているという事実を示しました。
内容は衝撃的です。トップマネジメントに関しては現地マネージャーよりも勝っている項目は一つも無く、特に「社外の人脈」「社外の交渉力」の無さに関して低く評価されています。ミドルマネジメントに関しては、状況は更に深刻で、8割方の項目で統計的に有意に、現地マネージャーに劣ると評価されています。
白木三秀先生は、
ミドルマネジメント層は、現場の人たちとともに働くので、語学力を含め、異文化を受容し理解するという異文化リテラシーと柔軟性が大いに求められますが、こうしたスキルが世界標準レベルに達していないのが現状です。(出所「日本人マネジャーの評価はこんなにも低い。真の「グローバルな働き方」とは?」早稲田大学政治経済学術院教授 白木 三秀(後編))
と言って、日本人マネージャーの異文化リテラシーの低さを指摘します。
アジアにおけるマネジメントは、日本のそれとは異なる
オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、国民文化を6つの次元で表し、文化の違いを数値で客観的に把握するモデルを提示しました。
この6次元モデルに基づくと、アジアには大きく2つの文化パターン(メンタルイメージ)があることが分かります。一つは「家族」と呼ばれる文化パターンで、中国・ベトナム・インド・インドネシア・マレーシア等がこのパターンに当てはまります。もう一つは「ピラミッド」と呼ばれる文化パターンで、韓国・タイ・台湾・バングラデシュ・パキスタン等がこのパターンに当てはまります。
日本もアジアの東端に位置するわけですが、日本のホフステードの数値パターンは、「家族」にも「ピラミッド」にも当てはまりません。
つまり、どのアジア諸国と比べても、日本文化はどこかが違うのです。
文化は価値観の体系を核に作られています。よって、文化が違うということは、根本的な価値観が異なるということです。これは、組織内での上司・部下の関係性や、いざこざの解決の仕方、外部との交渉の仕方など、あらゆる面で影響をしてきます。
ドラマ「梨泰院クラス」のチャン会長はなぜ失敗したのか?
アジアで仕事をする場合、その土地の文化を理解した上で、自分が発揮するリーダーシップや組織づくりを調整していくことが必要になります。
これは、もう本当に意識して自分の行動を変えていく必要があるのですが、その為には何か参考となる「実例」が欲しい。「ああ、なるほど、こういうリーダーシップが効果的なのか」とか、「こういう考え方で、ああいう行動するとダメなのか」という目に見える実例があると、自分の行動を変える参考になります。
私は海外で仕事を日本人向けの異文化トレーニングの場に立つことが結構あるのですが、アジアで仕事をする人には強く「現地のドラマとか映画観まくった方が良いですよ」とお勧めをしています。
前回の記事で、Netflixで人気になっている韓国ドラマ「梨泰院クラス」が、アジアにおけるリーダーのあり方や組織の作り方において参考になるという話を書きました。
韓流ドラマの進化系「梨泰院クラス」に学ぶリーダー像
最近(2020年5月)の Netflixのランキング、Top10は 韓流ドラマ か日本アニメかという感じですね。 韓流ドラマはこれまであまり観る事が無かったのですが、お勧めされて 「梨泰院クラス(イテウォンクラス)」 を観てみました。 In a colorful Seoul neighborhood, an ex-con and his friends fight a mighty foe to make their ambitious dreams for their street bar a reality. Watch trailers & learn more.
この記事では、パク・セロイという主人公の価値観が韓国文化とシンクロしていることを示し、それが日本文化とは異なるということを述べました。
今回は、主人公パク・セロイの敵であり、最終的にパク・セロイに会社を買収されてしまう大企業「長家」のチャン会長が、なぜ失敗したのかということを文化の観点から考えてみたいと思います。テレビ朝日の番組に「しくじり先生」というものがありますが、チャン会長の文化的しくじりを3つのポイントで見ていきます。
下の表は、主人公パク・セロイとチャン会長、そして韓国文化の6軸のスコア傾向を比較したものです。国の文化はあくまで国のスコアで個人には属しません。よって、国としては一つの文化を形成し、それが個人に影響している一方、一人一人の価値観には差が観察されます。
ドラマを異文化の観点から観ていると、チャン会長の言動は3つポイント(軸)において、パク・セロイと異なることが見て取れます。パク・セロイは韓国文化の傾向と共振しているので、この3つの違いがチャン会長の文化的な致命傷だったのではなかろうか?という一つの仮説を、ここから書いていきたいと思います。
(図1 韓国文化に基づいたパク・セロイとチャン会長の価値観比較 出所|ホフステードスコアに基づき筆者作成)
しくじりポイント①|弱者に冷たい
一つ目のポイントは「弱者に冷たい」ということです。そもそもチャン会長の座右の銘は「弱肉強食」で、弱いものが蹂躙されるのは当然という考え方をしています。これは非常に高い男性性の価値観を感じさせます。
(図1の抜粋)
韓国は女性性文化なので、弱者に対する思いやりに価値をおきます。この価値観とチャン会長の価値観はそもそも合っていません。
第一話で、主人公パク・セロイは、転校先の高校でクラスメートを虐めていた長男のグニョンを殴ります。これが問題になって、学校に呼ばれたチャン会長は、事情を理解した上でパク・セロイに「息子に土下座して謝れば今回は穏便に済ます」と言います。
弱肉強食的価値観からすると、誰が強くて誰が弱いのかをはっきりさせるという当然の行為なのかもしれませんが、かなり高圧的です。男性性文化においても言われた相手は怒るでしょうが、女性性文化においてはこの考え方自体が女性性の価値観に全くそぐいません。
一歩間違えば、大きな感情的爆発を至る所で誘発してしまうかもしれない。組織を運営していく上では、チャン会長の価値観はそもそもかなり危ういものであったことが推察されます。
しくじりポイント②|集団主義を裏切った
二つ目のポイントは「集団主義を裏切った」ことです。
(図1の抜粋)
チャン会長はドラマの序盤から中盤にかけては集団主義の価値観を見せています。特に、長男のチャン・グニョンに対しては、能力不足ということを認識しつつも、擁護する行動を見せます。例え、それが違法であったとしても、また、他の誰かを傷つけることになったとしても、身内である長男を守ろうとします。
しかし、最後の最後で、チャン会長はグニョンを見捨てます。この時チャン会長は「長家は私であり、それは守らなければならない」という認識を示します。これはエゴイスティックな言動で、居酒屋バンダムの仲間を決して見捨てなかったパク・セロイと対照的です。
「長家=私」という宣言は、未熟な個人主義宣言です。これは、チャン会長が商売をしている韓国の集団主義文化から足を踏み外す宣言に聞こえます。
しくじりポイント③|偉い立場の義務を果たしていない
三つ目のポイントは「偉い立場の義務を果たしていない」ということです。
(図1の抜粋)
チャン会長は「自分は権威主義者だ」と言い、絶対的権力者であることを明言します。「長家」においては会長は絶対的な存在で、部下は対等な立場でチャン会長と話すことは出来ません。これは、チャン会長の組織が高い権力格差の元に運営されていることを示しています。
権力格差が高い組織運営を行うこと自体は問題ではないのですが、長家において問題なのは、チャン会長が部下に忠誠だけを要求しているということです。部下の忠誠に対しては、上位者は庇護をもって応えなければなりません。そうすることで、初めて忠誠と庇護のバランスが取れるはずなのに、チャン会長は部下を「飼いならす」存在としか見ていません。
これはチャン会長が権力者として未熟であることを示しており、上に立つ「器」ではなかったということがわかります。(最終的にはパク・セロイに土下座をして、そのことを自ら認めてしまいます。あの土下座に対してパク・セロイは非常に冷たい態度を取りますが、それは価値観を踏み外した者に対しては温かい態度など取りようが無いということだったように見えました)
その土地の価値観にそぐわない者は淘汰される
「梨泰院クラス」は大変勉強になるドラマだと思います。それは、パク・セロイとチャン会長の明確な価値観の対比が二人の言動に見て取れるからです。場面設定やストーリー展開は、ドラマなので当然現実にはあり得ないようなものが多いのですが、それでも自分のリーダーシップのあり方や組織作りの仕方と比べて気付くことは多いと思います。
このドラマは韓国のものですが、前述したように韓国は文化的には「ピラミッド」という文化パターン(メンタルイメージ)に属します。アジア圏では、この文化パターンの価値観を感じる国々が他にもあり、その意味でアジアでリーダシップを発揮する立場にある場合は参考になることが多いと思います。
その土地の価値観にそぐわないものは淘汰される。文化の問題は時として非常に大きな難しさを我々に突き付けてくることが、ドラマを通して良くわかります。
渡辺 寧
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。