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韓流ドラマの進化系「梨泰院クラス」で学ぶリーダー像

2020.05.29 渡辺 寧

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韓流ドラマが人気

最近(2020年5月)のNetflixのランキング、Top10は韓流ドラマか日本アニメかという感じですね。

韓流ドラマはこれまであまり観る事が無かったのですが、お勧めされて「梨泰院クラス(イテウォンクラス)」を観てみました。

Itaewon Class | Netflix Official Site

In a colorful Seoul neighborhood, an ex-con and his friends fight a mighty foe to make their ambitious dreams for their street bar a reality. Watch trailers & learn more.


あまり期待してなかったにも関わらず、ハマってしまい、そのまま16話一気に観てしまいました。序盤の怒涛の展開に、「ちょっと待て、こんな設定あり得ないだろ」と思いつつも、いつの間にやら取り込まれていた感じです。

個人的には、ポン・ジュノ監督「グエムル -漢江の怪物-」を2006年に観て以来、韓国「映画」は好きで、折に触れて観ています。「母なる証明」「オールド・ボーイ」「息もできない」「トガニ」みたいな、理不尽さをえぐり出して描いてくるものと、「猟奇的な彼女」みたいな、ストーリー展開にハラハラさせられるものとあり、韓国映画は独特の世界観。ポン・ジュノ監督「パラサイト」は去年のアカデミー賞を取りました。

映画『パラサイト 半地下の家族』オフィシャルサイト

第72回カンヌ国際映画祭<最高賞>パルムドール受賞!世界がその才能を絶賛する若き巨匠ポン・ジュノ監督×名優ソン・ガンホ。”ネタバレ厳禁!”100%予測できない展開に全ての感情が揺さぶられる、超一級エンターテインメント作品!


一方で、韓国「ドラマ」「冬のソナタ」ブームの時のイメージが強く残っていて、中年の女性が観るものという位置づけ。これまでほとんど観たことがありませんでした。

見方は色々あるが・・・

「梨泰院クラス」は韓国で2020年の1~3月に放映され、放送回毎に視聴率を伸ばし、最終的に16.5%の視聴率だったとのこと。

色々な見方が出来るドラマだと思います。老人と若者の戦いとみる事も出来るし、大企業とベンチャーの戦いとみる事も出来るでしょう。また、父と子の血の濃さの話としてみる事も出来ます。人気の要素の最も大きなものは、複雑な恋愛感情だとは思いますが、それを支える物語の背景には様々な要素が詰まっています。

個人的には、このドラマは本当に興味深かった。ストーリーを楽しみながら、その背後に脈々と流れる韓国文化を感じました。

文化の中心には価値観があります。価値観とは「何を良いことと考えるのか、何を悪いことと考えるのか」「何を美しいと思うのか、何を汚いと思うのか」といった評価基軸の体系のこと。特に現地で人気があるドラマや映画には、そうした価値観が色濃く表現されることがあり、それを読み解くのが面白い。

韓国を理解することは、多くの新興国の価値観を理解する鍵になる

「近くて遠い隣人」

多くの日本人にとって、韓国はそういう存在だと思います。日本と韓国は地理的には非常に近いし、日本に在住したり観光に来る韓国人の数は多いのだけれど、実は良く理解していない国。2000年位のタイムスパンで見れば、朝鮮半島は日本と最も深い交流があった場所なのだろうけれど、この100年くらいは、日本人は日本海側よりも太平洋の向こうにある国(米国)を注視して来たので、相対的に関心が薄れていたのかもしれません。

しかし、時代が変わりつつあります。東アジアにおいては中国の影響力が極めて大きくなっています。また、ASEAN諸国の発展とインドの成長まで考えると、アジアの東端に位置する日本は、引っ越しの出来ないこの位置でどのように近隣諸国と共生環境を作り出せるのかということを考える必要が出てきます。米国だけ見ていてば良いという時代は急速に終わりつつあります。

韓国を理解することは、アジアにおける日本の共生の道を考える1つのヒントになります。なぜならば、日本よりも韓国の方が、文化的には他のアジア諸国に近いからです。

オランダの社会心理学ヘールト・ホフステード博士の調査に基づき、世界を文化圏に分けて説明をしたHuib Wurstenによれば、韓国は文化的「ピラミッド」という文化パターン(メンタルイメージ)に属します。


(出所 “The 7 Mental Images of National Culture” Huib Wursten)

「ピラミッド」文化圏には、他のアジア諸国・地域では台湾タイが含まれ、更に地域を広げれば中東・トルコ・アフリカ・ロシア・中南米(アルゼンチンとコスタリカを除く)が含まれます。

つまり、これらの国・地域では、生活様式や見た目などの表面的な差は各国によって当然あるものの、価値観としては韓国と近いものを想定して生活・仕事をすることが有効ということになります。

梨泰院クラスから何が学べるのか?

では、そんなアジアの時代における我々の生きる道を考える上で、具体的に「梨泰院クラス」を通じて、我々は何を学べるのでしょうか?

いの一番に私が思うのは、「権力格差が高く」「集団主義で」「女性性が高い」文化におけるリーダーのあり方についての学びです。この文化傾向を持つチームや組織におけるリーダー像が、パク・セロイという主人公を通じて非常に分かり易く描かれています。

日本と韓国の6D
(図1 日本と韓国の6Dモデルにおける文化差 出所 Hofstede Insights Group 図表作成筆者)

上の図は、ホフステードの6次元モデルのスコアを日韓で比較したものです。スコアは0~100の間で動き、45~55を中間ゾーンとして、それより高いスコアを「高い文化」、低いスコアを「低い文化」として考えます。

日韓のスコアを比較すると、下半分の3つの軸は共通上半分の3つの軸が異なることがわかります。

韓国文化と日本文化半分同じで半分違うのです。

ドラマの中でパク・セロイが見せる言動には、上記の傾向として示されている韓国文化が色濃く滲み出しています。

ホフステードのモデルは、文化の違いを相対的に把握する上で有効な補助線になります。日本文化と韓国文化がどこが似ていて違うということは数値の差として理解出来ますが、具体的にそれがどのようなことなのかを知るには、パク・セロイの言動は生きた教材となります。(注|この先ネタバレが含まれます。ドラマを観た後に読むことをお勧めします)

韓国文化が日本文化と似ていること

まず似ている所。上の図表の下半分3つの軸が日韓共通なんですが、この3つの共通性は、多くの日本人が感覚的に共感出来ると思います。

例えば、人生の楽しみ方(IVR)は日本も韓国も低く、同時に両国とも長期志向(LTO)のスコアを示します。この文化傾向は、第1話からパク・セロイの境遇の中に描かれています。パク・セロイが居酒屋ダンバムを出店するまでの時間と苦労の長いこと長いこと。彼は高校を退学になった後、刑務所に収監され数年過ごした後、更に遠洋漁業の漁船に乗り、工場労働をし、苦労してお金を貯めます。

将来の為に苦労をし、貯蓄をする、ということはこの文化の価値として認識されます。それが、主人公の背景としてドラマの序盤で描かれます。ビジネスのパートナーでありパク・セロイに想いを寄せるチョ・イソが、パク・セロイの腕の傷に気が付いて「この傷は?」と聞き、パク・セロイの過去の苦労を知り、より深く「この人を守る」と決意するシーンがあります。このシーンは、パク・セロイとチョ・イソとの関係性が深まったことが伝わる重要シーンの1つです。価値観は感情と強く結びついているのですが、正にこの、価値観に基づいた感情の深化がチョ・イソの中で起こったが描かれているシーンでした。

もう1つ韓国文化が日本文化と似ている点として、不確実性の回避(UAI)の高さがあります。これは、一見パク・セロイの行動には見て取れないかもしれません。ただ、「ファンドの出資を受けてフランチャイズ化を一気に進めよう」と言うチョ・イソに対し「一店舗づつ成功させた方が良い」と、パク・セロイが言うシーンがあります。

この発言には不確実性の回避が見て取れます。そして、このファンドの出資案件は、後に敵であるチャン会長の策略であることが発覚します。着実さ(=パク・セロイ)の方が正しかったということが分かるくだりで、不確実性の回避(UAI)の高さの文化的価値観が描かれているシーンとして観ることが出来ます。

この3つの軸のスコア傾向は、韓国も日本も変わらないので、リーダーとしてのあるべき振る舞いには日韓における文化的な差はありません。

韓国文化と日本文化が異なる所

日本と韓国の6Dモデルにおける文化差
(図1の一部抜粋)

韓国文化と日本文化が異なるのは図表の3つの軸です。これは、どのようなリーダーの振る舞いの差として表れて来るのでしょうか?
韓国は日本より、

①権力格差が高く
②集団主義で
③女性性が高い

ということはモデルから分かります。
そして、この3つはパク・セロイの言動としてドラマの中でくり返し・くり返し描かれています。このことに気付いて、この価値観を体感し、自分の価値観を広げる学びに繋げられると素晴らしい。

まず、第一話からいきなり出てきて、非常に分かり易いのが③女性性の高さ

パク・セロイとオ・スア(パク・セロイの初恋相手)の出会いは駅のホームでした。ホームレスの手を振り払ったオ・スアに対してパク・セロイが、酷いじゃないかと声をかけます。更に、そもそもの家族設定として、パク・セロイは父親と強い絆で繋がっていますが、その父親は会社(長家)の孤児院支援の担当者です。そして、パク・セロイは転校先の高校で長家の長男であるチャン・グニョンがイ・ホジン(同級生)を虐めているのを目撃し、グニョンを殴ります。

時間が経って、パク・セロイが居酒屋バンダムをオープンさせた後も彼の女性性の高さが見て取れます。工場勤務時の友人として連れてきた料理長マ・ヒョニは料理の下手なトランスジェンダーだったし、ウェイターのチェ・スングォンは前科持ちのヤクザです。途中で雇ったトニーはギニア人と韓国人ハーフで国籍未取得です。パク・セロイも含めて、バンダムのメンバーは社会的にはマイノリティであることが描かれています。

女性性の高い文化では、弱者に対するケアを考えます。マイノリティ社会的弱者になりやすい為、多様性を理解した上でその包摂をしようとします。パク・セロイは彼の行動の中で、繰り返し周囲の人々の包摂をしようとします。マ・ヒョニに料理の腕を磨くチャンスを与えるシーンや、トニーの父親探しに協力するシーン、また近隣の経営不振店舗を無償で手伝うシーンなど。

ここまで徹底して弱者に配慮する様は、女性性の文化における「強さ」だと感じます。女性性の高い文化においてはこの様なインクルーシブ(包摂的)なリーダーが必要。

権力格差が高く、集団主義の文化におけるリーダー像

ここまで「女性性」に関する韓国文化について述べてきました。これは日本と異なる所。ここからは、残りの2つの軸の話をしていきます。実際に韓国人と一緒にプロジェクトをしていて、日本人との違いを最も強く感じる点がここかもしれません。私も、自分のプロジェクト経験上、この文化差は強く感じました。

なんかね、韓国だと「濃い」んですよ。人間関係が。そして、上下の絆が強い。

パク・セロイと敵対する長家のチャン会長は、「私は権威主義者だ」と自分で言っており、極めて高い権力格差の価値観の持ち主であることが分かります。

パク・セロイとチャン会長は相反する立ち位置で描かれているので、チャン会長が権力格差が高いならパク・セロイは権力格差が低いのかと思いがちですが、実際にはパク・セロイの権力格差が高いことを示すシーンが無数に登場します。パク・セロイ権力格差が高い価値観に立っています。ここを見誤ってはいけない。

確かに、パク・セロイは女性性が高い価値観を持っており、優しく見えるのですが、そのことと権力格差の高低は関係がありません。

例えば、ダンバムメンバーに対して、パク・セロイは明確に上の立場に立っていることが良くわかります。

例えば、マネージャーのチョ・イソは極めて優秀で、パク・セロイは経営のかなりの部分をチョ・イソに任せていますが、ここぞという大きな問題解決パク・セロイが決断し実行しています。(例えば、店舗の立ち退きを迫られた際に、別のビルを買ってチャン会長の妨害工作を防ぐ、等)一方、チョ・イソはIQ164のソシオパスで、頭脳系のキャラクターですが、パク・セロイに全幅の信頼を置いており、「会長は私を失望させたことがない」と言い切ります。

チャン・スングォンに至っては「兄貴についていけば間違いない」と圧倒的な弟分の位置づけだし、途中で裏切ることになりますが、チャン会長の次男であるチャン・グンスがダンバムで働くことにしたのは、警察署でパク・セロイに「お前は未成年だ。だから責任が取れないんだ」と言われ、「この人は大人だ」と思ったからです。(パク・セロイもスングォンのことは「かわいい弟」と言っている)

権力格差が高く、集団主義の文化における、強いチーム/組織では、メンバーはリーダーの為に身体を張ります。自らが捨て身になったとしても敵に立ち向かいます。(チョ・イソは「社長に手を出すやつは全員ぶっ潰す」と言っているし、マ・ヒョニも、トランスジェンダーに対する冷たい視線の中、TV番組の料理対決で戦い抜く、等)一方で、リーダーはメンバーを全力で守ります。(パク・セロイは「商売は人と信頼だ」と言って、メンバーを切らない、見捨てない)

上は「器」を示し、下は「忠義」を示す。

そして、両方がかみ合わさった時にチーム/組織としての力を発揮する。それが、権力格差が高く集団主義の文化における強いチーム/組織です。この感覚は、日本人にも分かるのだけれど、日本でここまで明確に提示されるのは任侠映画くらいのもので、通常の映画では稀ではないかと思います。

偉い人は偉いのである

このように、権力格差が高い集団主義の社会では、偉い人「器」が違うはずなのです。そこからブレてはいけないし、「器」の小さな人は上の立場になってはいけない。ここで、もしかしたら多くの人は「自分はそんな「器」ではないから、とても上には立てない」と思うのかもしれません。しかし、「器」とはそういうことではないし、だからこそパク・セロイの言動は学びになるのです。「私には上に立つことはできない」などと悲観する必要はありません。

なぜなら、「器が大きい」とは、ただ単に、「その社会において価値とされることを理解し、そこからブレない」ことでしかないからです。もう一度、パク・セロイの言動を見返してみましょう。彼は別に聖人ではないし、飛びぬけて頭が良いわけでもありません。しかし彼は、「信念を持って生きろ」という家訓から一切ブレず、親を想い、長期志向で、弱者を包摂し、仲間を守り、この国の価値に反する存在(=長家のチャン会長)を許さなかっただけです。

このブレなさ具合のことを「器」と呼ぶのであり、そのような道を選ぶことは誰にでも出来るはずなのです。

ある文化において、何事かを成し遂げたいのであれば、このことを良く理解することが大切だと思います。つまり、「何が価値あることなのか」ということを理解し、その価値からブレないということです。

「梨泰院クラス」韓国文化における、リーダーの一つの在り方を見せてくれました。そして、韓国文化と似た価値観を見せる文化はアジア諸国の中に他にもあります。そうした文化圏における「偉い人」を理解するうえで、「梨泰院クラス」をよくよく考察して観ることはとても役に立つと思います。

海外であれ、日本国内であれ、そこにはその土地の価値観が存在します。それが一体どの様なものなのか。考え直すきっかけとして「梨泰院クラス」を観てみてはどうでしょうか?


WRITER

渡辺 寧

Hofstede Insights Japan 取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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