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昭和と令和で変わらない事(下)|ほうれんそう運動に見る日本文化

2020.06.10 渡辺 寧

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日本文化とは何なのか?

外国人に「日本文化ってどんな文化ですか?」と聞かれたとしたら、どのように説明するでしょうか?

ある集団における、人々の考え方や振る舞いが、繰り返し繰り返し同じパターンを見せることが良くあります。日本でも繰り返し観察されるパターンがあり、「日本文化ってどんな文化ですか?」と聞かれたら、こうしたパターンと、それを発生させている仕組みを説明することになります。

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、文化とは「あるグループとあるグループを分ける心のプログラミング」と言いました。

多文化環境で生活や仕事をする場合、他者の文化的背景、すなわち他者の心のプログラミングを理解する必要があります。そして、他者の心のプログラミングを知る為には、まず自分の心のプログラミングを知る必要があります。なぜなら、自分が分からないと、他者とどこが同じで何が違うのかが分からないからです。

「日本文化ってどんな文化ですか?」と聞かれて、上手く説明できる日本人はそんなに多くないのかもしれません。しかし、この、「そもそも日本文化とは何なのか?」ということを、もう一段深く理解し、意識化することは、今の日本人にとても必要なことだと感じます。なぜなら、自分達の日本文化を深く理解することによって、異文化の人達と協働する際に、違いの共通理解を持ったうえで、どのように協働していくのかという合意を作ることが出来るようになるからです。

以前の記事で、昭和と令和の組織論を見た時に、30~40年経っても変わらない、3つの共通点があると述べました。

昭和と令和で変わらない事(上)|ほうれんそう運動に見る日本文化

サービス業において、企業の付加価値は、その創出を担う人材と組織の質に依存してきます。その為、経営層にとっては、どのように優秀な人材を確保し、トレーニングし、 個が上手く協働する組織を作り上げるかが重要な問題 になってきます。 人材と組織についての書籍は、それこそ本屋に行けば数多く並んでいるし、新刊も次々に出てきます。どうすれば、人と組織は強くなっていくのか。 誰もが成功モデルの正解を知りたい

共通点は、簡潔に言うと下記の3つです。

①集団内の上下左右を超えたコミュニケーションが重要
②会社が内集団の中心にある
③現場志向

これらは、どこの日本組織でも必ず共通というものではありませんが、多くの組織で観察されるものだと感じます。平成生まれが会社の中堅以上になり始めている昨今、昭和という時代は遥かかなたの昔のように感じます。一方で、こうした項目が40年隔てても変わらず重要に見えることがあります。この背景には、日本文化の存在が見て取れます。

変わらない組織論の背後をホフステード理論で読み解く

ヘールト・ホフステード博士は、国民文化を数値化する研究を過去50年に渡って行ってきました。この研究は今日でも多くの研究者が引用しており、6つの軸のスコアで国民文化の相対的な位置関係を表すことにより、国によって異なる人々の行動や考えを、その背後にある価値観の違いを元に解釈することが進められています。


(出所 多文化世界 G・ホフステード、G・J・ホフステード、M・ミンコフ)

ホフステードは、国民文化は価値観を基盤としており、その価値観は幼少の頃から家庭内で再生産されると述べています。その為、国民文化は非常にゆっくりと(100年位の時間軸で)変化するものとされています。

6つの軸における日本のスコアは、Hofstede Insightsのホームページで確認することが出来ます。(ページの一番下にCountry Comparison Toolというツールがあり、国名を入れるとその国の6次元モデルのスコアが出てきます)

Home – Hofstede Insights

Hofstede Insights’ workshop for our leadership team provided a powerful tool (Hofstede’s 6D framework) and range of very practical insights that will enable our leaders to integrate their newly acquired intercultural competencies in our practices, our processes and our strategy. I recommend Hofstede Insights’ services to any organisation working in an international environment.

このスコアを眺めると、なぜ、日本の組織は昭和でも令和でも変わらず、①集団内の密なコミュニケーションが重要で、②会社が内集団の中心にあり、③現場志向なのかが理解しやすくなります。

Hofstede Insights
(日本の6次元スコア 出所 Hofstede Insights)

日本は、権力格差と集団主義・個人主義スコアが真ん中

まず、なぜ、日本の組織では①集団内の上下左右を超えたコミュニケーションが重要なのか?を考えていきます。

この説明になるのが、日本の権力格差(Power Distance = PDI)集団主義・個人主義(Individualism = IDV)のスコアです。日本のPDI・IDVのスコアはそれぞれPDI=54・IDV=46です。スコアは0~100の間で動くので、PDIとIDVに関して、日本は「高いとも低いとも言えない」文化です。

要は真ん中の文化です。

では、権力格差が高いわけでも低いわけでもなく、個人主義でも集団主義でもない「真ん中の文化」ということは、どのような経営スタイルとして実際に観察されやすくなるのでしょうか?

その一つの形が「衆知を集めた全員経営」ということだと思います。

衆知を集めた全員経営に関しては、松下幸之助が「日本と日本人について」という著書の中で、一章を割いて説明しています。八百万神が天照大神のもとで衆議を重ねて、物事を決めた神話の世界から、日本における変わらない物事の決め方と考えられています。

(出所「日本の伝統精神 日本と日本人について」松下幸之助)

一橋大学の野中幾次郎先生は、ミドル・アップダウン・マネジメントという概念を提示しました。トップの出す壮大な「あるべき」と、様々な現場における「現実」をミドル・マネージャーがなんとか連結し、組織的知識創造を行って行くという概念です。

日本の組織では上下という一定の権力格差はあるものの、ミドルがその格差をつなぎ止め会社全体集団として組織的な運動を進めて行く。その様は正に、「真ん中の文化」における自然な組織の形態に見えます。

なぜ、日本では会社が内集団になるのか?

PDIとIDVが「真ん中」であるということは、日本における特徴的な内集団を会社の中に作り上げます。

会社で言えば、例えば、社長は一定の権力を持っていますが、そこまで偉いわけではなく、一般社員と分け隔てなく話すこともあります。と同時に、地位のある人だと認識はされるので、普段からため口で一般社員と話し合うほど権力格差が低いわけでもありません。

また、日本文化は個人主義文化ではありませんが、明確な集団主義文化でもありません。「帮」と「宗族」によって強い内集団を作る中国のような集団主義文化ではないけれど、アメリカのような個人主義文化でもないというのが日本の立ち位置です。

現代の日本では、この文化的背景が会社を中心とした内集団形成に繋がっています。日本では、血縁・地縁・宗教的背景が内集団を作る核にならないので、「一緒に働くこと」を通じて共同体が形成されます。この体制は小室直樹先生によれば、日本の村落共同体から引き継がれたもので、高度経済成長期に実際の村落から企業に引き継がれました。(出典「小室直樹の中国原論」P173)

そして、この内集団の中では、権力格差はそれほど高いわけではなく、皆が同じように汗水を垂らして「一緒に働く」ことが求められます。上下の差なく、「一緒に働く(しかも長時間)」という強烈な一次体験以外に、内集団を形成する核(コア)が無いため、日本では②会社が内集団の中心になります。

日本は不確実性の回避が高い

こうして考えると、なぜ日本の組織では③現場志向になるのかも分かってきます。例えば、農村共同体において、重要なのは農産物の生産なのだから、その農産物の育成状況を村長が認識していないというのは良しとされません。分業はするにしても、大事な現実については、皆で同じように認識し、皆で汗水を垂らし、皆で知恵を絞る方が自然です。

同時に、ホフステードの6軸に基づくと、日本は不確実性の回避の高い文化でもあります。日本の不確実性の回避(Uncertainty Avoidance = UAI)のスコアは92で、文化的には不確実な事態に備えて細かい情報も把握しておきたいという力が働きます。上下の差があったとしても「一緒に働く」ことを大切な経験として捉え、かつ不確実なことに備えて詳細を把握することを良しとする。これが、日本の組織が「③現場志向」になる背景になっていきます。

日本の組織の変わらない本質を外さない

日本の組織では、こうした背景により、トップが現場の詳細を把握し、組織を動かしていくことが求められる傾向が出てきます。

一方、アメリカの組織の場合、”Delegation”とか”Empowerment”ということが盛んに言われます。要は、上から下への権限委譲で、出来る人には立場が下であっても、どんどん権限移譲をする方が良しとされます。権力格差が低く、個人主義文化のアメリカでは、権限を与えられた方が個人はやる気になるため、このやり方の方が理にかなっています。そして、トップは日常のオペレーションには口を出しません。

アメリカ系企業で長く務めた方や、MBAでアメリカ型の組織運営を学んだ方は、日本企業においてもアメリカ型の組織運営を行いがちです。経営の仕事は大きな戦略決定に集中することで、現場の細かな事までは口出ししないという考え方は、それ自体間違ったことでは無いと思いますが、同時に、そのやり方が日本の組織に合ってない可能性は文化的には十分にあり得ます。

組織を動かす為には、その組織が根を張っている土壌を理解した上で、適した働きかけをしていく必要があります。時代と共に何が変わっていくのか・何が変わらないのか。過去・現在・未来の時間軸の上で、何が有効であり何が有効で無かったのか。そうした事実の積み重ねを把握した上で、土壌の本質を理解する必要がある。ホフステードの研究はその為の1つの大きな補助線を提供してくれると感じます。


渡辺 寧

代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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