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日本文化の異質性を生かせ!ラグビー日本代表から学ぶ異文化マネジメント

2019.02.03 渡辺 寧

プロスポーツの監督・コーチからマネジメントを学ぶ

個人的にここ数年、プロスポーツの監督やコーチがいかにして強いチームを作り結果を出しているのかということに非常に興味を持っています。

プロスポーツは、特定のフィールドとルールのもとに勝敗を競うわけですが、これは特定の市場で競合とのシェア争いをする企業活動と似ています。また、プロスポーツの監督やコーチは、会社で言えばマネージャーで、自分でプレーして結果を出すのではなく、自組織を「勝てるチーム」にして結果を出すことが求められます。プロスポーツは成績が上がらなければ短期間で交代させられてしまう厳しい世界ですが、企業のマネージャーも結果が出せなければ数年で異動や降格になることもあります。

このように、プロスポーツの世界は企業活動と似たところが多く、これを理解することは企業で成果を出すための大きな示唆になると感じます。

こうした観点も含め、ホフステード・インサイツ・ジャパンでは、海外でマネージャーとなる日本人の方々に異文化理解の知見を提供することが多く、日本人マネージャーが海外でどのような考え方でどのような行動をしていくことが望ましいかを考えています。

エディー・ジョーンズ ラグビー元日本代表ヘッドコーチ

2019年は4年に一回のラグビーワールドカップが日本で行われ、これから更に日本でもラグビー人気が盛り上がっていくことと思いますが、やはりラグビー日本代表チームへの注目を大きく高めたのは2015年のワールドカップでの南アフリカ戦でしょう。

優勝候補だった南アフリカを劇的な逆転勝ちで破った試合は、人々を驚かせました。それまでの対南アフリカの戦績は日本の1勝21敗2分け。試合前にイギリスの大手ブックメーカーが出したオッズは日本が34倍で、南アフリカ1倍だったそうです。それがあの劇的な逆転勝利。

そして、それまでのワールドカップで1勝しかしたことが無かった日本代表は、2015年の大会を3勝1敗で終え、グループステージ突破はならなかったものの、世界で勝てるチームへと変化したことを印象付けました。

このチームを率いていたのが、オーストラリア人のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)です。

(「ハードワーク」講談社)

2012年に日本代表ヘッドコーチに就任し2015年のワールドカップで退任をしたエディー・ジョーンズHCが、どんな考えでどのように日本代表チームを作ったのかは非常に興味があるところです。

「私は外国人のリーダーとして、異国である日本に行きました」
(出典「ハードワーク」)

という彼の立場は、海外でリーダーとなった日本人マネージャーの立場そのものです。彼が、彼にとっての異文化である日本文化をどう読み解き、どのように組織作りに生かしたのかを知ることは、海外で活躍する多くの日本人マネージャーの役に立つと思います。

オーストラリア文化と日本文化の融合

エディー・ジョーンズHCの発言には、随所にオーストラリア的価値観(これをコンテスト的価値観とも呼びます)が見え隠れします。

例えば、エディー・ジョーンズHCは「目標」について、

「目標は漠然としたものや抽象的なものではいけません。数値等で具体的に表現され、結果が出たときに達成できたかどうか、はっきり分かるものでなければなりません」(出典「ハードワーク」)

と言っています。また、目標について語った後に「スケジュール」についても言及しており、

「目標を掲げたら、次に決めなければならないのは、スケジュールです。目標さえしっかりしていれば、スケジュールはおのずと決まってきます。またスケジュールは、当初考えていたものとは大きく変わることもあります。
ところが、スケジュールが変わることを嫌がる人が、思いのほかたくさんいます」(出典「ハードワーク」)

と言い、自分は1シーズンで50回スケジュール表を変えることがある、と述べています。

下記は、6次元モデルにおけるオーストラリア・日本の集団主義/個人主義不確実性回避のスコアです。これを見るとオーストラリアは日本文化に比べ、個人主義で不確実性回避が低い文化であることが分かります。個人主義で不確実性回避が低い文化においては、コミュニケーションはローコンテクストを前提に明確に行うべきで、また段取り等は柔軟性を持って変えていくのが当たり前と思われる傾向にあります。

(図1 集団主義/個人主義、不確実性回避の日本・オーストラリアのスコア)

「目標は数値等で具体的に表現されるべきで、スケジュールは50回でも書き直すのが当たり前」というエディー・ジョーンズHCの考え方はオーストラリアの文化背景そのものに見えます。

こうした、オーストラリア的価値観を維持しつつ、エディー・ジョーンズHCは日本にあった組織作りを模索しています。この日本チームにあった組織の在り方をエディー・ジョーンズHCは「ジャパン・ウェイ」というキーワードで表現しています。

「日本人は、外国人に比べて、体格的に劣ります。これはどうしようもないことです。それなのに、外国のやり方を真似ていては、いつまでも勝てないのは当たり前です。日本が世界の舞台で勝つためには、長所を生かし、短所を補う必要がありました。私はそのことに考えを集中させました」(出展「ハードワーク」)

という基本認識のもと、どうすれば世界に通用する日本チームを作れるかということを検討する中で、エディー・ジョーンズは武士道精神に注目します。そして、「信頼」「忠誠心」「努力」という3つのキーワードを抽出し、チームとHCに信頼と忠誠心を持ったメンバーが努力するという基本的な組織設計の考え方を持ちます。

「昔、侍と領主の間には「信頼」がありました。その「信頼」に基づいて、侍は領主に対する「忠誠心」を持っていました。そして忠誠を果たすため、戦に備えて、日々剣術を磨く「努力」を怠りませんでした。(中略) 私は3つのキーワードを考える時、少しずつ日本代表チームをどう作るべきか、方向性が見えてきた気がしました。私は日本代表チームを、侍の手段にしたいと思いました」(出展「ハードワーク」)

このエディー・ジョーンズHCの言葉をホフステードの6次元モデルの言葉で解説をすると、

権力格差が高い文化では、権力を持つものとメンバーは相互義務の関係で結びついており、上位の者が下位の者を庇護し、下位の者が忠誠を誓うことで相互の信頼が構築される。そして、男性性が高い文化では、道を極めることが求められ、武士社会においては下の者は剣術を極め武勲を立てることで忠誠を果たそうとする」

ということになるかと思います。

下の図は、権力格差と女性性・男性性の日本とオーストラリアのスコアの比較です。日本はオーストラリアに比べ、権力格差が高く男性性が強い文化です。エディー・ジョーンズの「ジャパン・ウェイ」は日本とオーストラリアの文化差を見事に捉え、まずは日本文化を下敷きとして組織設計の大枠を作りつつ、随所でオーストラリア文化を背景とした要望を選手に対して行っています。こうした点を見るに、エディー・ジョーンズHCの組織作りは、2つの文化的価値観をうまく合わせ、組織作りに生かそうとした事例と言えます。

(図2 権力格差、女性性/男性性の日本・オーストラリアのスコア)

「郷に入れば郷に従え」ではない

エディー・ジョーンズHCは、

「部外者が何らかの活動をしようとするとき、まず大切な事は、国であれ組織であれ、そこには独自の文化があることを知ることです」(出典「ハードワーク」)

と言いますが、同時に

「ここで注意していただきたいのは、(これは)郷に入れば郷に従えとは異なると言うことです。私が言いたいのは、その場に溶け込んでしまうことではありません。そこで何かを生み出したいなら、よく観察し、できることとできないことを判別しなければならないと言うことです」(出典「ハードワーク」)

と言います。

この認識は、グローバル環境でチームを率いる際にとても重要です。「郷に入れば郷に従え」は文化適応として重要な考え方ですが、何か変革を起こす際には意識的に「違うもの」をその場に持ち込むことが必要です。

その場における「当たり前」とは異なるものは、その場にゆらぎをもたらします。そのゆらぎをきっかけとして、物事が大きく動いたり、新しい何かが生まれていきます。それは根本的な変化のメカニズムであり、変化の激しい現代において意図的・意識的に変革を起こそうとするのであれば「郷に入れば郷に従い」つつも、同時に「郷の中に異質を持ち込む」ことが必要です。

エディー・ジョーンズHCの日本代表チームの作り方は、日本文化の根本を抑えた組織づくりの方針を持ちつつ、彼が元々持っていたオーストラリア文化の要素を持ち込んだものとなっています。これはまさに「郷に入れば郷に従いつつ、郷に異質を持ち込んだ」事例と言えます。

6次元モデルを分析すると、世界には6つの文化パターンがあることが分かっており、これはメンタル・イメージというクラスターでまとめられています。日本はこの6つのどれにも当てはまらないことが知られており、よって日本は7番目のメンタル・イメージとして認識をされています。(このクラスターには日本しか属さない)

日本人が海外で仕事をする際には、日本人は常に現地に対して文化的な異質性を持ち込むことになります。この異質性を新しい価値に結び付けられるかどうかは、海外で働く日本人一人一人の意識にかかっており、その意味で、エディー・ジョーンズHCが彼にとっての異国(日本)でどのようなアプローチで組織作りをし、成果を出したのかを知ることは、グローバルに仕事をする日本の企業人の役に立つと考えます。


WRITER

渡辺 寧

Hofstede Insights Japan 取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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