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世界の中でズレて行く日本|国民文化の違いと世界の広告表現

2021.10.28 渡辺 寧

世界の広告賞から見える価値観の変化

宣伝会議の月刊誌で1961年創刊のクリエイティブ雑誌に「ブレーン」がありますが、その2021年9月号に「国民文化の違いと世界の広告表現」というテーマで記事執筆の依頼を頂きました。

毎年6月頃に、カンヌライオンズなどの世界の海外広告賞が発表されており、今年の受賞作品を見て、その根底に流れる考え方や価値観の変化の潮流を国民文化の観点から分析するという内容でした。

個人的に、マーケティングの領域でホフステードの知見を活かす仕事は面白いと思っています。特に広告表現は、その時代の世界の価値観の潮流を表現していることがあり、地域横断的に内容分析をしたり、大量の広告表現を分析することで、共通したパターンを発見することに繋がります。

今回、世界の広告賞についての分析ということで、カンヌライオンズを始めとした海外広告賞の出品・受賞作品を数十本ほど観る中で、「世界の価値観は、日本とはだいぶ違うところに向かっているのではないか?」ということを感じています。

というのも、大量の広告表現を一気に見ると個別の作品分析からは見えない、共通した価値観のパターンが見え、そのパターンと日本の価値パターンのズレを感じるからです。

今回見た世界の広告賞への出品作品は、いくつかの例外を除き、大半が何らかの形で社会正義に関するテーマを取り扱っていました。そして、「何を正義とするのか」という観点が、日本の今の社会の主要な焦点とは異なるところに当たっているように感じました。

扱われているテーマの大半は、弱者や困っている人の社会的包摂やケア、人権、環境保全などで、また「何を正しいと考えているのか」を極めて明確に、多くはポジティブなトーンで表現していました。

例えば下記のようなもの。

嚢胞性線維症(CF)という難病の子供が必要な、気道クリアランス療法の辛さを軽減するため、Spotifyライブラリにある40Hzの曲を使う
Claire’s Place Foundationの広告動画 ▼

スタッフの80%が障害者である石鹸メーカーのBeco社が、他社での障害者雇用を促進するため、#StealOurStaffというメッセージを使い、自社の障害者スタッフをヘッドハントするように呼びかけたもの
Beco社の#StealOurStaff広告動画 ▼

コロナ禍で、店を閉めざるを得なくなった店舗のため、ハイネケンが通常の広告予算付け替え、閉まっている店舗のシャッター等に広告を出すことで小さな店舗を応援した活動
ハイネケンのシャッター広告紹介動画 ▼

プラスチック問題を解決するために開発された、海藻由来の「食べられる」プラスチックNotpla。持続的な消費生活をめざすというもの。
NOTPLA広告動画 ▼

日本での現状は?

日本でも社会正義を題材とした広告をみることはあります。例えば、P&GがパンテーンのCMとして作った#PrideHairはLGBTQ+の題材を扱っています。

P&Gの#PrideHairはLGBTQ+のテーマに関するもの
P&Gの#PrideHair広告動画 ▼

しかし、このような広告を目にすることは有っても、まだまだ例外的ケースで、こうした広告が作られたこと自体がニュースとなるというのが日本の現在地のように見えます。

もちろん、今回観たグローバルの広告も、広告賞に出品された特殊な事例で、日本と実質的な差はそこまで無いということなのかもしれません。しかし、それでもなお、日本で生活していると肌身に感じる一般的な価値観パターンと国際広告賞に見られる価値観パターンの間には大きな差があることを感じます。

国民文化の次元で考えると、社会正義、特にマイノリティに関する題材が日本で少なかったとしても、その事自体はあまり驚くことではありません。ホフステードスコアで日本文化を見ると、日本は個人主義とは言えず、男性性が高い文化であることがわかるからです。

日本文化は、女性性の高い文化ではないので、弱者(マイノリティ、障害者、未来の世代・・・)に対する注目そのものに大きな価値が置かれるわけではありません。また、個人主義傾向の強い文化とも言えないので、弱者であったとしても、一人一人の権利や幸福追求を尊重するべきだ、という考えが当たり前と思われるわけでもありません。

これで良いのか?日本の価値観

良い悪いは別として、高い男性性と集団主義傾向は日本文化の元々の立ち位置なので、社会正義を中心とした広告表現が日本であまり見られないというのはそれほど驚く話ではないのかもしれません。

しかし、ここで考えないとならないのは、情報流通もモビリティもグローバルとの連結が深まっている現代で、グローバルな価値観はより個人主義的で、より女性性の高い方向に進んでいるのではないか?ということです。そして、このグローバルの価値観変化の潮流の中で、日本は価値観的な鎖国状態になっているのではないか?ということです。

世界の潮流を見ていると、若い世代は、年配の世代に比べて明確に環境保全や人権、ダイバーシティ&インクルージョン、ワークライフバランスを意識しているように見えます。これは、社会正義をそもそもの価値とする女性性の方向に世界全体が動いていることを示しているように見えます。

また、経済的な発展/所得の向上は個人主義的な傾向を高めることと相まって、経済成長し、個々人の所得が増加している多くの国・地域は個人主義的な価値観の方向に動いています。

こうした価値観の変化に沿って、注目される社会課題は変化しています。欧州の政治状況を聞いていると、社会問題は多数あるものの、気候変動への対策が社会的センターピンと多くの有権者に認識されているように見えます。気候変動への対策は、「今だけ・現世代だけ・自国だけ良ければ良い」ということを許さないもので、将来世代も含めた全ての人が幸福に持続可能に生きていく権利を保証しようとする、女性性×個人主義的価値観の流れに沿っています。

気候変動対策にとどまらず、世界の多くの方向性が女性性×個人主義の価値観をベースとして作られているように見える中、その流れから断絶されてしまうと、そこから生まれる新しい産業でも立ち遅れ、また世界からの信頼も得られないということになるのではないか。

カンヌライオンズを始めとした世界の広告賞の受賞作品を多く観る中で、そんなことを強く感じました。

文化に良い悪いは有りませんが、次世代の環境に適応しやすい/しにくい文化は存在します。日本が文化的にそのような状況に陥らないよう、国の中でのサブカルチャーを作る仕事がますます重要になっていくと感じます。


WRITER

渡辺 寧

Hofstede Insights Japan
代表取締役
シニアファシリテーター

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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