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こんにちは、宮森千嘉子です。
ホフステード組織文化診断からわかることー2つの事例を通じてー
組織文化をツールとして活用するための第一歩は、組織の行動に大きな影響を与えているものの目には見えない組織文化を視覚化し、何が課題なのかを、客観的に、可能な限り正確に可視化することです。ホフステード博士は、組織文化を「組織で働く人々の関係性:お互いとの関わり方、仕事との関わり方、組織外との関わり方」と定義しました。そして定量的・定性的で広汎な科学的統計調査を経て、組織の文化が目的/戦略と整合しているかどうかを測定するモデルを構築しました。
前回のコラムでもご紹介しましたが、このモデルは次の6つの次元(切り口)で、組織文化を視覚化します。
次元1 組織の効果性 (手段重視 対 目的重視)
次元2 顧客志向のあり方(組織の内部論理重視 対 外部ステークホルダー重視)
次元3 仕事の進め方(緩やか 対 厳格)
次元4 職場の関心のあり方(上司・部署 対 自分の仕事の中味、専門性)
次元5 外部との関わり方(オープン 対 閉鎖的)
次元6 経営・マネジメントの重点(従業員重視 対 仕事重視)
一つひとつの次元の詳細に入る前に、組織文化診断で何がわかるのか、2つのケースを通じてご紹介しましょう。
【事例1】製造業A社の海外法人における品質問題
日本の製造業A社は、オランダの製造拠点の品質問題に頭を抱えていました。日本では考えられない品質不良が頻発し、日本から派遣された駐在者は、品質改善に対して技術的、製造プロセス面からできることは全て導入しましたが、どれも上手くいきませんでした。初期段階は上手くいっても、いつの間にか、同じ問題が繰り返し起こるようになるのです。拠点長は、これは製造からみたハードの問題ではなく、従業員の質、人と組織の問題ではないかと考え、従業員がホフステードセンターに組織文化診断を依頼しました。
製造拠点の主要組織の文化診断を行った結果、下記のことが明らかになりました。
製造に関わる全ての部署が次元1「手段志向(手順を盲目的に守ってさえいれば良い)」で、次元3「仕事の規律が緩い」という結果がでました。その数値はオランダ企業の製造部門平均と比較しても劣るもので、拠点長の仮説、ハードなプロセスの問題ではなく、人と組織の質が問題であることが皮肉にも証明される結果となりました。また、製造に関わる全ての部署が次元5「閉鎖的」な傾向を示し、経営の重点も次元6「業務」に置かれていました。さらに、日本人の拠点長と駐在者のリーダーシップもオランダ人に受け入れられず、組織との一体感も極めて低いという結果が出ました。
オランダ人は、日本人経営チームに不信感を抱いていたのです。日本人チームは製造上の問題を解決しようと最大限の努力をしてきましたが、その分析と決定はいつも本社と駐在員の間で行われ、オランダ人従業員がそこに関わることはありませんでした。彼らは次から次へと導入される新しい手法がなぜ必要かも知らされず、慣れたと思ったらまた違うことがトップダウンで下りてくる状態に大きな不満を持ち、意識的にせよ、無意識にせよ、「日本のやり方」を拒否し、言われたことだけやっておけばいいという意欲を欠いた状態になっていたのです。また、オランダ人は、トップダウンで自分の意見が聞かれなかった決定事項を受け入れない国民文化を持っていることも、日本人経営チームは見過ごしていました。
この結果を見た拠点長は思い切って駐在員の数を思い切って減らし、オランダ人に信頼されていた人材だけを日本から呼び戻しました。同時にオランダ人のマネジャーの数を増やし、新しい製造手法の導入には常にオランダ人も意思決定に参加させるようにしました。また、オランダと日本の国民文化に関するトレーニングも導入し、お互いの違いを理解し受け入れる素地をつくりました。変革にはかなりの痛みを伴い、数年単位の時間がかかりましたが、品質不良率は改善しました。
【事例2】欧州内に多数の拠点を持つ病院系列
欧州内に多数の拠点を持つ病院系列では、緊急病棟での院内感染率が高いという問題を抱えていました。まず7箇所の病院で組織文化診断を行い、その結果、次元3「仕事の規律」が緩く、次元5「閉鎖的(情報を隠す傾向)」な組織文化を持っていることが判明しました。医師や看護師が忙しすぎて、感染症を起こさないためのプロセスを守ることを疎かにし、また都合の悪い情報は見て見ぬふりをしていたと考えられます。 このケースでは、組織文化の視覚化により「どの次元」を解決すればよいかが明らかになったので、病院の経営陣、事務局、医師、医療スタッフを含めた改善のためのプロジェクトが立ち上がり、医療スタッフへの負担軽減とあわせてプロセス遵守意識の徹底が進められた結果、院内感染症は激減したのです。この大きな成果を経験した病院スタッフは、その後自らホフステードセンターの認定を取得し、現時点では27の系列病院で組織文化診断結果を基にした変革を進進めています。
ホフステードによる組織文化診断モデルは、「今までなんとなく、こんな感じ」だと感じていたことを数値で視覚化し、変革への隠された阻害要因も明らかにします。次回は、各次元が何を見ているのかについて、具体的事例を交えながら詳しく触れていきます。
組織文化診断
ホフステードの組織文化モデルは、6つの独立した次元(切り口)と2つの半独立の次元で組織文化を診断します。文化を可視化することで、戦略と文化を整合させ、組織のゴール達成を支援します。課題に応じて半日~2日程度のワークショップを作成・実施します。
宮森 千嘉子
ファウンダー
サントリー広報部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。また50 カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。「組織と文化」を生涯のテーマとし、企業、教育機関の支援に取り組んでいる。英国、スペインを経て、現在米国イリノイ州シカゴ市在住。異文化適応力診断(IRC) , CQ(Cultural Intelligence) , GCI (Global Competencies Inventory), 及びImmunity to Change (ITC) 認定ファシリテータ、MPF社認定グローバル教育教材<文化の世界地図>(TM)インストラクター、地球村認定講師、デール・カーネギートレーナーコース終了。共著に「個を活かすダイバーシティ戦略」(ファーストプレス)がある。青山学院大学文学部フランス文学科、英国 アシュリッシビジネススクール(MBA)卒。