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Vol. 1
サステイナブルに生まれ変わるパリ
エシカルなセレクトショップ「Merci」
ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。
(*この記事は「宣伝会議」2017年11月号からの転載です)
パリで始まった小さな消費革命
はじめまして。富士フイルムの山本です。先般、東京本社からフランスの現地法人に異動となり、現地から皆さんのお役に立ちそうなトレンドをご紹介させていただくことになりました。
フランスといえば、日本では高級ブランド品やワインのイメージがありますが、「伝統を守りながら、最先端の流行を創造・発信し続けている」という意味ではビジネス上のヒントが隠れているように思います。一方、文化や国民性は日本とずいぶん異なるので、異文化理解の観点も踏まえてトレンドを読み解くため、専門家の渡辺と共にレポートをお届けしていきます。
数年前から「エシカル消費」(倫理的消費)がマーケティングのトピックスとして注目されつつあります。モノを買うときに「社会や環境のためになるか、ならないか」を基準に判断する消費の概念です。
この「エシカル消費」が、パリの感度の高い人々の間で広がりつつあります。こうした流れに一役買ったのは「Merci」(メルシー=ありがとう)という人気のセレクトショップです。店内にはファッション、小物、インテリアなど様々なジャンルの厳選された商品がセンス良く並び、古書に囲まれた居心地の良いカフェも併設されています。特筆すべきは、商品購入代金の一部が必ず寄付に回り、消費者やステークスホルダーを巻き込んで社会貢献活動をしている点です。
創設者はかつてのビジネスでの成功を社会に還元できないかを考え、単純な寄付ではなく、持続的に社会貢献できる仕組みとしてMerciを立ち上げました。Merciという店名には社会全体に対する感謝の意味が込められているのです。
私が商談で同店に初めて訪問した際、コンセプトを司るダニエル・ローゼンストロック氏(アートディレクター)から「寄付行為よりも大切なことは、人々が生き方・暮らしを変えることなんだよ」と優しい語り口で紹介されたことが今でも印象に残っています。
コンセプトには一流ブランド(サン・ローラン、ステラ・マッカートニー他)も賛同し、同店向けに特別モデルを割安で提供するなど、「Merci=ありがとう」の輪は目に見える形で波及しています。ともすると禁欲的なイメージもあるエシカルの概念を上質で洗練されたライフスタイルとして打ち出した点は「Merci」の巧みさと言えるでしょう。
ファッションも脱・商業主義
外見より、内面の美しさ重視へ
「なぜ『Merci』が支持されるのか?」、その理由をひも解いていく中で、フランス特有のトレンドも見えてきました。
例えば、フランスのファッション業界では商業主義だった業界のあり方がずいぶん前から問われ始め、2004年から「エシカルファッションショー」という展示会が開催されています。つまり、フランスではファッションを「外見の美しさ」から、生産者や消費者の「内面の美しさ」へと拡張した運動があり、「Merci」が支持される土壌はできつつあったのかもしれません。
山本 真郷 / 渡辺 寧
- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。