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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(33)パンデミック下で人は広告を受容するのか? ― 欧米の消費者意識

2021.09.03 山本 真郷 / 渡辺 寧

空いたOOH広告枠に掲示された医療従事者に向けた応援メッセージ

空いたOOH広告枠に掲示された医療従事者に向けた応援メッセージ

Vol.33
パンデミック下で人は広告を受容するのか?
― 欧米の消費者意識

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

販売活動広範にも及ぶ
自粛ムードの影響

AFP通信によると、COVID-19(新型コロナウイルス)対策で世界の人口の約6割にあたる45億人が外出制限下に置かれています(4月17日時点)。

パンデミックが発生している状況下では感染拡大を防ぎながら、生活の土台となる経済活動を維持する必要がありますが、さまざまな考えや感情が行き交う中で「自粛ムード」が販売活動広範に及び、経済活動とのバランスが保ち難くなっているように感じられます。「広告宣伝、販促活動をどういったニュアンスで、どこまで実施してよいものか?」と頭を悩ませているマーケターも多いのではないでしょうか。

「自粛」とは社会心理学で「自己検閲」にあたり、周囲の反応により、自分の意見の表明を控えることを指します。つまり、周囲の空気を読んだ言動をすることなので、国の状況や国民性によっても異なり、また各国の中でもグラデーション的な意識の差があるものです。社会が揺れ動く中で空気を読むためにも、消費者の意識に一層の注意を払う必要があるでしょう。

今月はこのパンデミック下における欧米の「広告に対する消費者意識」をご紹介します。

欧米5カ国内でも異なる
広告に対する消費者意識

多くの国・地域がロックダウンに入った直後の3月20日から4月5日にかけてEpsilon-Conversantが欧米5カ国(イギリス、フランス、アメリカ、イタリア、スペイン)を対象に、広告に対する意識調査を実施しました。同調査によると、「パンデミック下でブランドが広告を出すことは適切だと思いますか」という問いに対して、5カ国平均で62%の人が「適切」と回答し、広告接触について欧米の消費者がどちらかと言えば好意的に捉えているという結果が報告されています。

一方、国別で傾向を見ていくと、アメリカとイタリアは7割以上の人が「適切」と答えたのに対し、フランスは6割以上の人が「不適切」と答えるなど、欧米の中でも意識の差が顕著に現れています。こうした傾向の現れか、フランスでは広告の内容そのものに変化が見られ、パリ市内で目にするOOH(屋外広告)はその大半が「感染予防対策」や「医療従事者に向けた応援メッセージ」などの社会性を備えた内容に置き換わっています。

【図】パンデミック下でブランドが広告を出すことは適切だと思うか? (5カ国の回答結果)
【図】パンデミック下でブランドが広告を出すことは適切だと思うか?(5カ国の回答結果)
出展)Epsilon-Conversant

広告の受け止め方は
国の文化によって異なる?

今回のCOVID-19によるロックダウンは、住民に大きな制約を課し、大きな集団的ストレスを引き起こしているため、消費行動に関して、そこに文化の影響があるのかどうか、確定的なことを言うことはできません。大きなストレス状況下での行動は通常の購買行動とは異なる行動となることは容易に想像ができるからです。
と同時に、ほぼ世界同時に起こったパンデミックに対する人々や政治家の反応の仕方には差が観察され、その背後における文化の影響に関しては、今後様々な調査・研究が蓄積されていくと思います。

今回のEpsilon-Conversantで取り上げられた欧米5カ国(イギリス、フランス、アメリカ、イタリア、スペイン)は日本では「欧米諸国」と括られますが、明確な文化差が存在します。例えば、この5カ国の中でフランスは女性性・男性性(MAS)のスコアが43と低く、他の4か国と比べて女性性の高い文化として知られています。

女性性・男性性は、オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士の国民文化研究の中で示された6つの次元のうちのひとつです。

男性性の高い文化では、自我(エゴ)が強調されます。野心的であることは好ましいことであり、企業が競合より抜きんでて、自社をアピールすることが自然に受け取られます。一方で、女性性の高い文化では関係性が強調され、弱者への配慮が求められます。また、抜きん出ることは嫉妬の対象となります。

ビール業界で、アメリカのバドワイザーが「King of Beers」と広告を出す一方で、デンマークのカールスバーグが「Probably(多分) the best beer in the world」と競争心を抑えた広告を出したことがありました。アメリカは男性性の高い文化ですが、デンマークは女性性の高い文化であり、広告の違いは、文化の差の表出例として説明されています。

女性性の高い文化において、今回のパンデミックのような状況で、仮に「他社より優れている」といった他社を出し抜く意図が明確なメッセージの広告を出した場合、それは否定的に受け取られることが予想されます。多くの困窮した人が発生している状況で、他を出し抜くことを意図しているということ自体が文化的な価値に反するからです。

前述の調査では、フランスでは現状況下で広告を出すことが適切でないと感じるフランス人が多いことを示していますが、その背景には文化的な価値観があるのかもしれません。広告の内容はもちろん、広告出稿するタイミングに関しても文化的な背景を抑えておくことが重要です。


山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。

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