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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(31)運転中に恋をしよう!― ナンバープレートによるマッチングサービス

2021.04.08 山本 真郷 / 渡辺 寧

マッチングアプリのCarimmat。 © Carimmat

マッチングアプリのCarimmat。© Carimmat

Vol.31
運転中に恋をしよう!
― ナンバープレートによるマッチングサービス

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

ナンバープレートを使用
渋滞を運命の出会いに変える

日本でも身近になりつつある「マッチングアプリ」(オンラインデーティングサービス)。米アライド・マーケット・リサーチは、同分野の世界市場が年平均5%で成長し、2025年には92億ドル(約1兆円)に達すると予測しています。すでにメジャープレイヤーがポジションを確立しているため、市場の細分化が進み、各国で尖った新サービスが続々と登場しています。

「もし渋滞が出会いの場になったら…」。そんな発想で開発されたのが、昨年10月にフランスでリリースされたマッチングアプリ「Carimmat」(カリマット)です。車(あるいはバイク)のナンバープレートとアカウントが結びつけられ、渋滞中に見かけた車を運転する「気になる人」とつなげてくれるというもの。

例えば信号待ちで、たまたま隣り合わせた車の運転者に一目惚れしたとします。そんなときは、信号が青に変わり、隣の車が発進した際にナンバープレートを控え、Carimmatに入力すれば(相手がアプリを利用している場合)相手に連絡することができるというもの。マッチングアプリとしてナンバープレートを利用するのは世界初の試みで、「渋滞時のTinder」という触れ込みで注目を集めています。

マッチングアプリのCarimmat。© Carimmat
マッチングアプリのCarimmat。© Carimmat

拡大するマッチングアプリ
ニッチャー市場を狙う

思いがけない偶然の出会いに、人は運命を感じてしまうものですが、はたして「渋滞中」にそういったことが起こり得るのでしょうか。フランスでは、そもそもマッチングアプリに対する偏見が少なく、ミレニアル世代を中心にオープンに利用されています。また、通勤に車やバイクを用いる人の割合が全国平均で4分の3に達し、通勤時間帯は慢性的に渋滞が発生するので着眼点は悪くないですが、さすがの恋愛大国フランスといえどニッチな市場に映ります。

創業者トリスタン・バーガー氏によれば、恋人探し以外に、無断駐車をしている車の持ち主への連絡、交通事故後の当事者同士のやり取り、あるいは車の売買といった用途も想定しているとのこと。つまり、「恋人探し」は興味・関心を喚起するための一つの切り口に過ぎず、「運転者のコミュニケーションプラットフォーム」を見据えているということです。

Carimmatはその新規性に反し、ユーザー数は2020年2月時点で1万人に満たず、コトラーの競争地位戦略で言うところのニッチャーとしてポジションを確立するには利用者の早期獲得が急務でしょう。

マーケティングにも活用される
ホフステードモデル

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、調査に基づいて各国の国民文化を6つの軸で数値化する研究を行ってきました。ホフステードの研究は最初の調査から50年以上かけて、検証がなされてきたもので、その活用範囲も多岐にわたります。

ホフステードモデルの活用領域のひとつにマーケティングがあります。国が変わると文化が変わるのですが、文化の中心には価値観があります。上市しようとするサービスや商品を、その市場のどのような価値観に訴えかけるかを考える際に、ホフステードモデルはひとつの補助線として有効です。

新規サービス導入時の課題
「不確実性の回避」という文化の壁

フランスの国民文化スコアを見ると、フランスは不確実性の回避(UncertaintyAvoidance)のスコアが86であり、これはフランスが不確実性の回避の高い文化であることを示しています。不確実性の回避が高い文化においては、人々は前例のない状況を嫌い、失敗しないためにリスクを避ける傾向が高くなります。

新しいパートナーとの出会いは、基本的に不確実なことで満ちています。お互いを良く知らないということ自体が不確実性そのものです。よって、こうした不確実性を下げるような仕組みを促す仕掛けがサービス、またはプロモーションに組み込まれていることが必要になります。シェアの高いサービスはそのこと自体が信頼性の証として使え、また積極的に有名人等をプロモーションに起用することも不確実性の回避という壁を超えるために有効に作用することがあります。

Carimmatのアプローチは、不確実性の回避の観点で言うと、「こういう車に乗っている人」という、その人を知る手がかりのひとつとして車を活用したものと考えることもできるのかもしれません。新しいパートナーの情報が増えれば、不確実性の回避による未知の不安は低減していきます。そういう意味では面白いサービスアイデアにも見えますが、同時に「渋滞の場での出会い」というコンセプトはかなりニッチであることは否めません。

また文化の観点からは、「路上で見かけた」という情報だけだと、不確実性の回避の高い文化では情報量として足りなさ過ぎるかもしれません。そのため、真面目にパートナーを探すサービスとして、ユーザーの信頼を獲得するには十分ではないかもしれません。

今後、どのようにCarimmatが受け入れられるか、もしくは受け入れられないかは分かりません。これは、それこそ不確実な事象です。世代によって価値観は異なってくるのですが、同世代間の国際比較をすると、依然として国の文化差が存在することも指摘されています。マッチングサービスのサービスデザインやプロモーションにおいて、どのような異文化間の差異があるかは文化観点からは大変興味深い所です。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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